第2話 『脇役』の苦難

『吾鷹、人の魅力を引き立てる為にはどうすれば良いと思うかい?』

 懐かしい声、小さい頃にしか聞けなかった声。それが頭の中に聞こえてくる。そういえばそんなことを問われたことがあったな。あの時、私はどんな答えを言ったのだろうか。

『それは、……』



(……ピピピ、ピピピ、ピピピ)

 耳元で鳴り響くアラームにハッと我に帰った。目をこすり、ボヤけた視界をくっきりさせる。ここは家の自室、そして机にうつ伏せになり寝ていたんだな。ご丁寧に少しばかりヨダレを垂らしてしまっている。

「……あぁ、そうだ。あの後、帰ってきて……」

 カーテンの隙間から入ってくる夕焼け色の部屋でボンヤリした脳をフル回転させて、曖昧だったさっきまでの記憶を思い出すことにした。



「改めて、とても重要な話をしよう。特に吾鷹、君に関係しているからね。」

 色恋三人衆……もとい、クラスメート達と別れた(?)後、合流した元と話を進めていた。先ほどの戦いを苦にしていない、スカッとした顔を見せながら話す姿にすごいと思った私がいた。あそこまでグイグイこられたら汗の一粒ぐらい流すだろう、私だったら。

「そう言われてもね……。私に関係する話って何かあるかい?」

 おかわりしたホットコーヒーを飲みながら元に問いかけた。「何のことやら」とした感じて話したのだか、流石は元、こんな子どもだましもすぐにバレてしまった。

「……吾鷹、わかっているでしょ?」

 ……その通りだ。実のところ、そう私は言ったが大体の内容は予想できる。……いや、何回もため息がつけてしまうぐらいわかっているのだ。だから、元からの電話内容を聞いて「あぁ、とうとう来たか……」というため息をついてしまったぐらいだから。

「来週ののこと……か。」

諦めたようにコーヒーカップを置き、私は答えた。

「わかっているじゃないか、吾鷹。」

「……どうせ、そうだろうと思ったよ。」


『課外授業』

言葉の響きからすれば、大学やどこかの企業から講師を呼び、理解しにくい専門的な内容を聞かされ、最後には大半の生徒がポカーンとなる地獄の授業……と想像されると思うが、私達の学校ではどういうことか高校を飛び出し一年が山、よりかは高原と言った方が良いだろう、つまりそこにある自然の家に行きそこで1泊。自然とふれあい、自身の心を整え、様々なものにチャレンジしていこうという授業……ひらたく言えば『キャンプ』である。何故こんな堅苦しい名目になっているかは不明だが、前期授業最後の最大イベントであるので、今から意気込んで準備を始める人が多い。先ほどの彼女らもその準備のためにここに来ていたのだろう。思わぬサプライズありのことになってしまったようだが……。

「どうする気だったんだ。……まぁ吾鷹の事だ、班別以外は一人で過ごすつもりだったんだろう?」

「……仕方がないだろう、私が居ても結果は目に見えているだろうから。」

 自分の事は自分がよく知っている、何て誰が言ったかその言葉。けれども、今の私にはその言葉を理解できる気がしている。『死神弁慶』という異名を入学式後、初のホームルームでつけられた頃から始まっていたのだろう。元とは小学5年からの付き合い、その頃は普通の子供だった。……いや、その頃からに違いが生まれていたのかもしれない。小学6年から中学からの進学を経て段々と体格が出来始め、中学卒業間近には現在の姿になっていた。親しい人間からは、「親に似てきたね」と言われていたが私にはその実感は湧かない。そして高校生、不名誉と言っても良い異名をつけられ、女子からは避けられる毎日。なおかつ小学生の頃から人気のあった元と共にいることから私がいないタイミングを狙って押し寄せる女子生徒が多くなっていた。一方の男子は「あいつ、中学では当時の校内一の番長をヤった」とか「あの歳でどこかの組のトップだ」といった根も葉もない噂が飛び回り、男子にも避けられる日々。そんな私に班別以外でどのように過ごせば良いのか、というか元は私に何をさせたいのか?一年ないし全校生徒に『死神弁慶』の名は響き渡っている。メンバーは班別だったら怯えながらも私の近くにいる……はず。それが終われば一斉に元の所へまっしぐらだ。

「……だからさ、これだったら良い作戦だと思わないか?」

ふと元が私に話を振ってきたものだから慌ててしまう。

「ん、なんか言ったのか?」

「吾鷹、聞いていなかったのか?」

「……ごめん。」

すっかり回想している間に元が何か妙案を思い付いたらしい。……回想中に話を進めないでほしいものだ。いや、勝手に回想していた私に非があるか。

「で、どんな作戦なんだ?」

「わかった、もう一度言うからな。」

それは……、と始まり元の考えた作戦内容が発表される。




「……しかし、それで上手くいくものかな?」

 先ほどの事を思い出しながら、机に頬杖をついた。確かにあの作戦だったら私にも他のメンバーとのコミュニケーションのタイミングはある。ただ、正直に言って私は乗り気ではない。別に誰とも話をしたくない訳ではないが、あくまでも私は『脇役』にしか過ぎない。『主役』である元が輝く為には嫌われ役も必要なのである。

「私は『主役』にはなれない。……例え道化を演じても。」

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