勉強会

 職場体験が終わり弛緩しかんしていたクラスの雰囲気は2週間後に迫った期末テストによって引き締まっていた。


 6月で受験はまだまだとはいえ、中学生は調査書が受験に大きく関わっていることから意識する人からすれば受験は始まっている。


 テストだけではなく授業中の発言や課外活動に2年生の時と比べて積極的に参加する人が多い。


 私はいつも通りだけどね。


 まあ、一応テストはそこそこの点で耐えているけど、課外活動とかは論外。


 先生からしても救いようのない生徒ナンバーワンだろう。


 私は適当に本を手に取り、ページをめくる。


「なーにしてんの?」


「び、びっくりした」


「そんなびっくりしなくてもいいでしょ?」


 いたずらが成功した子供のような笑顔を浮かべる麗奈さん。


 職場体験が終わり、麗奈さんとの関係も終わるのかと

 感慨にふけっていた次の日の昼休みに麗奈さんが私の席の前にまたぐように座り話しかけてくれたのだ!


 その日からずっと昼休み麗奈さんが来てくれている。


 それにプラスして明日香さんと里奈さんが私の周りに集まる。


 麗奈さんが私の机に突っ伏し


「期末テストやばい」


「麗奈ったら部活に熱入れすぎて勉強してないもんねぇ」


「だって家帰って机に向かって教科書開いた瞬間に眠くなるんだもん!

 ムリげーじゃない?明日香は部活後勉強するの?」


「あったり前でしょ!もう3年生よ!

 なるべく点数取っておくことに悪いことなんてないんだから」


「うそだぁ~」


 麗奈さんは崩れ落ちる。


「明日香を基準にしちゃだめだよ。

 この子は規格外なんだから」


「ちょっと人を何だと思っているのよ」


「バケモン」


「アンタね!!」


 ポカポカと明日香さんが里奈さんをはたいている。


 に、にぎやかだ。


 私はとにかく会話の流れを追うことに精一杯で発言できていない。


 ただ、グループワークや他の同級生の輪と違い居心地が悪いということは一切なく、それぞれがそれぞれの長所を融合させて一つの場を作っている空気感がある。


「はな花はテストどうなの」


「え!? 私ですか!

 まあまあ? かな」


 私は唐突に話題をふられたことで「まあまあ」という中途半端な回答をしてしまった。


「まあまあかぁ~それって自信あるってこと?」


「いやそれは、可もなく不可もなくってことかな」


 しどろもどろになりながらもなんとか言葉を紡ぐ。


 何せ、麗奈さんに最近馴れたばっかなのに、そこに二人が近くにいるものだから緊張してしまう。


 すると、里奈さんがからかうような顔を私に向けて


「麗奈教えてもらえば? はな花さんに。

 可もなく不可もない点数取れるかもよ」


「それ、めっちゃいい!はな花勉強教えてよ」


「な、何を言っているんですか!」


 顔がカーっと熱くなるのがわかる。


「私が、麗奈さんを教えるなんて、そのいろいろダメですよ。」


「えーそうかなぁ~?はな花さんだったら麗奈の事第一に考えて教えてあげられそうだけど?」


 第一ってそれは間違ってはいないけど


「ちょ、ちょっと二人ともはな花さんが困ってるじゃん。

 麗奈の面倒を押し付けるなんてかわいそうよ!

 とっても疲れるんだから」


「私そんなに手がかからないと思うんだけど」


「とっっっっっってもかかるよ!」


 明日香さんががっくり肩を落としている。


「なら尚更、はな花さんにお願いした方がいいんじゃない。

 疲れる明日香に勉強見られたら麗奈も気を遣っちゃうんじゃない?」


 里奈さんが明日香さんをジト目で見る。


「えと、ほら、麗奈とは長い付き合いだしさ。

 私が麗奈の勉強を見ることが最適じゃない?」


「ふーん?」


「何よ」


「素直じゃないなぁ~てさ」


「どこが素直じゃないの!」


 突如里奈さんがモノマネ? を始めた。


「麗奈を独占していいのは私だけ!

 最近部活で遅れていることがあるけどもしかして彼氏かな?

 そ、それは許さない!麗奈は私のもの。

 そうだ!束縛しちゃえばいいんだ!

 全部私の隣にいさせれば丸く収まるじゃん」


 明日香さんがムキーっと里奈さんを見ている。


「それ、だ、誰のモノマネかしらね?」


「え、明日香の」


「束縛なんてしてないし、気にしてなんかないよ!

 別に麗奈が、か、か、彼氏ができようができまいが関係ないもん!

 それに私のものでもないし!」


 里奈さんがそこで、よしっと嬉しそうに目を細めて私を見据える。


「どう?麗奈を助けると思って勉強教えてあげてくれる?」


「え、えと、」


 どうしよう。


 教えられるほど頭良くないけど、麗奈さんと一緒に勉強できる機会はうれしい。ていうかこれを逃したら一生できない。なら失敗してもいいから教えてみるか....


 ふと明日香さんを見ると鬼の形相で睨まれている。


 恐い。これはあながちさっきの里奈さんのモノマネ間違いではないのでは??


 こらっと里奈さんが私の視線を明日香さんから遠ざけ


「明日香もさっき言っていたように、一緒に勉強したくないらしいしお願い」


「は、はい」


 明日香さんが「拡大解釈!!」と憤慨しているが里奈さん曰く空耳らしい。


「はな花よろしくね」


「うん。できる限り頑張る」


 私は小さく胸の前でファイティングポーズをして気合を入れる。


 頑張るぞ!


 その姿を満足そうに眺めていた里奈さんが麗奈さんに


「勉強場所だけど麗奈の家でしちゃえば?」


「別にいいけど。

 それでいい?」


「うへえ! うはえ!」


「どうしたの?」


 麗奈さんが心配そうに私を眺めているけど、その心配はあながち間違っちゃいません。


 麗奈さんの家で! そしてたぶん部屋!


 麗奈さんの生々しい匂いに全身が包まれる。


 それにいつでも麗奈さんが寝ているベッドが横にある環境。


 それってもう私の精神力を試すために神が与えた試練なのでは??


 私はよだれが垂れるのを何とか抑えて、麗奈さんを見据える。


「大丈夫! ぜひ、ぜひ麗奈さんのご自宅でお勉強しましょう!」


「お、おう」


 若干心配そうな顔をしている麗奈さんには申し訳ないが私は不純な動機で訪問させていただきます。


「よーしこれで決定ね!

 じゃあ、麗奈を頼んだよ、はな花さん!」


 里奈さんがウィンクをしてグーサインをしている。


 私はとりあえず頷く。


 それに満足したのか、何かを言いたげな明日香さんを連れて自分たちの席に戻っていった。


 麗奈さんがこちらを向いてどこか申し訳なさそうな笑みをうかべて

 

「突然のことでごめん」


「いや、むしろ少しうれしいかも」


「本当!」


 安心したような顔になり


「なら、よかった!

 じゃあ、日程は明日の12時に学校の校門前に集合でどう?」



「わかった。持ち物は教科書とかかな?」


 うーんと考えるような仕草をして


「今日、教科書持って帰るから、はな花は手ぶらでいいよ。

 ノートとかもルーズリーフとかあるし大丈夫。」


「わかった。 じゃあ明日よろしくね」


「おうよ!こちらこそよろしく!」


 麗奈さんはバイバイと手を振りながら席に戻っていった。


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君のあの一言で私の初恋カードが使われた 只石 美咲 @Misaki-Tadaishi

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