何とかなった2日目 友達の条件
【麗奈は憂鬱】
私、もしかしたら嫌われてるのかな!?
心開いてくれたかなって思ってたけど思い過ごしかも。
グイグイしすぎたのかな。
もっと仲良くなりたくて話しかけたり、くっついてみたりしたの逆効果だった!?
その可能性は大きい。
それに空気読めないウザイ奴だと思われた?
だとすると仕方ないのかな。
はな花は何を考えているかわからない。
話しかけると目を逸らすし、くっつくと顔を赤くして離れようとするし。
好かれているのかなって思ったけどたぶん違う。
私の事を嫌いだと思っていると思う。
確実に。
名前で呼ばなくなったのもそれが原因。
呼ばれないのはまだ受け流せるけど、遠慮がちに声をかけられると少し辛い。
特にはな花に遠慮されると。
どうしたら信頼してくれるのかな。
入学祝いにもらったペンを手の上でもてあそぶ。
入学当初はピンクゴールドの輝きがまぶしかったのに今では輝きは薄れて私色に染まっている。
ずっと一緒にいればこのペンみたいに馴染めるのかな。
でも嫌われているのならこれ以上馴染もうとするのは逆効果な気がする。
仲良くなりたいと嫌われたくないの拮抗が頭の中でせめぎ合う。
私は手を伸ばし、黒い紙袋に彩りを飾っているスイートピーの封蠟に手を触れる。
凹凸があり、手で撫でるだけで形が頭の中に浮かぶ。
赤い封蠟は見ているだけで温かくて柔らかそうな印象を受けた。
しかし実際は手に触れると、ほんのりと硬く、すこーしひんやりとしている。
似てるな。
紙袋を机に置き、椅子から立ち上がる。
椅子から立ち上がり下着姿に変身。
整えられたワイシャツに腕を通して上からボタンを止め、裾をぐぐっと下に伸ばす。
紺色のプリーツスカートを足から腰に通しても右横にあるファスナーを上まで上げ、ボタンで固定する。
その際にワイシャツがしっかりスカートの内側に入っていることを確認しなきゃ恥ずかしいことになる。
1回、学校に登校中に明日香からワイシャツびろんって外に出てるよって教えてもらって気付いたけど、それまでワイシャツ出てたって考えるとめちゃくちゃ恥ずかしい。
それから、ちゃんとワイシャツが中に入っていることを確認する。
赤い三本のラインが入ったセーラー服を着て、白いスカーフを丁寧に折りたたみ首に装着。
前で綺麗に結び、立派な麗しい女子中学生のできあがり♪♪
少し早いけど、もう向かおう。
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「おっはよーさん!!」
「うぎゃ! びっくりした」
後ろから急に抱き着いてくるなんてずるい!
コミュ障な私からすれば人から抱き着かれるってだけでも精神を削られるのに、好きな人からなんて心と
含羞で染める頬を見られまいとしてそっぽを向く。
「まったく、公共の場所なんですから駄目ですよ。」
「あっれー? もしかして照れてるのかな~?」
「照れてなんてないですよ」
「本当かな~?若干赤いけど」
「赤くないですよ!」
私は勢いにつられて麗奈さんに顔を移す。
「あ、めっちゃ赤いじゃん」
私はあわてて顔をそらそうとするけどもう遅い。
麗奈さんはいたずらが成功してうれしいのか顔を輝かせて喜んでいる。
「そうかそうか。
はな花ちゃんは奥ゆかしくて照れ屋さんだから体が触れちゃうと顔を可愛く染めるのですね」
目を三日月状にしておちょくるような視線を向けてくる。
「もう行きますから」
私は麗奈さんからのおちょくりをかわし改札へと向かう。
背後でなんか聞こえるけど無視して突き進むのみ。
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「こことっても面白いのでもっと深堀されるといいと思います」
「うーん。少し眠くなりますねここ」
「例えばこの事例を見せるのではなく、実際に研修する人に考えさせて同じ研修生同士で答えを発表させるのはどうでしょうか」
私は昨日の反省を糧に、懸命に意見を言い社員の方の議論に混じる。
社員の方は昨日と同じ人だったから、鳩が豆鉄砲を食ったように私の変わりように驚いている。
麗奈さんからも
微力ながら麗奈さんと肩を並べられる。
麗奈さんも麗奈さんで私の意図を察したのかどこか嬉しそうだ。
一通り終わりお昼休み。
最終日ということもあり昼食を注文してもらえることに。
しばらく待っていると、白い箱を持った男性が入ってきた。
しかし見たことない人だ。
少し白髪の入った髪は品よく固められており、顔の表情からベテランである事がうかがい知れる。
それにスーツかっちりとしているのだがどこか着慣れたような余裕が感じられた。
「お父さん何してんの!」
麗奈さんの恥じらうような声が響く。
「すまん麗奈。
どうしても会社にいる麗奈を見たくて来ちゃった」
「来ちゃったじゃないよ!?」
人のよさそうな顔をほころばせて、私たちの前に箱を置く。
私は椅子から飛び上がるように立ち、麗奈さんのお父さんを見つめ深々とお辞儀をする。
「お父様、ご挨拶が遅くなって申し訳ありません。娘さんと行動を共にさせてもらっている森田はな花と申します。森に田んぼの田、ひらがなで『はな』と書き最後に漢字の花を訓読みの『か』と読みます。まだまだ若輩者ですがどうぞよろしくお願いいたします。」
「はな花それ、お付き合いした人が両親に挨拶行くやつ!!
もっと肩の力抜いて!
なんか恥ずかしいよ」
顔を赤面させながら麗奈さんは私に抗議してくる。
その姿を見ていたお父さんは目を細めて微笑ましそうに私達を見つめる。
「こちらこそ麗奈と一緒にいてくれてうれしいよ。
麗奈は突っ走っていくからよく周りから浮いちゃうところがあるから
はな花さんのような人が近くにいてくれると安心できるよ。」
「お父さんまでやめろよ~!」
麗奈さんが頭を抱える姿に思わず笑い、お父さんも同様に笑った。
お父さんが持ってきた箱には有名レストランの弁当が2つ入っていて、正方形の木箱に収められていた。
「いただきます」
「いただきまーす」
「召し上がれ」
蓋を開けてみると、鼻いっぱいにお腹を空かせるような匂いが攻めてくる。
弁当一杯にこれでもかとうなぎの絨毯が敷き詰められており、成長期の私達からすればご馳走だ。
金属製の箸でうなぎを一口大にほぐすと、たれが程よくかかったご飯と一緒に口に運びこむ。
口いっぱいにうなぎの旨味とたれが広がる。
歯をつきたてる必要はなく、口の中で解けていくような錯覚を抱く。
私は次から次へと口にうなぎを運ぶ。
解けていく感覚は麻薬みたいなもの。
太るのではないかといった不安をことごとく粉砕していき、少女に幸せを運ぶ。
麗奈さんも同様のようで次から次へと口へと運んでいる。
頬張っている麗奈さんはリスのようで可愛い。
可愛い人は生涯年収が人よりも多いなんて言われるけど、腑に落ちる。
こんなにおいしそうに食べてくれるのなら、喜んでお金を出しちゃうもの
私と麗奈さんが食べることに集中していたため、お父さんも私達の顔を満足気に眺めて時折頷いていた。
昼食が終わりお父さんが腰を浮かす。
「本当にありがとう。
はな花さんの協力によって貴重なデータを蓄積できた。
レポートを書いたら、そこにある電話で帰る有無をつたえてほしい。
そしたら、家までお送りするから」
「ちょ、MeはMe!!」
「ありがとうございました」
私は立ち上がりお父さんに一礼する。
麗奈さんは頬を膨らませて不満そうな顔をお父さんに向けているが、お父さんはその視線を素知らぬ顔で受け流している。
お父さんは「こちらこそ」と頷き、仕事場に戻っていった。
「いいお父さんだね」
「どこがよ!
まったく娘に会いたいなら素直にそういえばいいのに!」
腕を組んでポニーテールを揺らす。
あまりにもぷんすか怒る姿がいじらしくてついにやけてしまう。
それを見た麗奈さんは目を見開き恥じらいに頬を染める。
「それにお父さん見られたのも恥ずかしいし」
「まあ、その気持ちはわかるかも」
「でしょでしょ!
うー恥ずかしい!」
私と麗奈さんはお互いに苦笑交じりの笑みがこぼれる。
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学校のレポートを書き上げ、身支度を整え始める。
これといって大荷物ではないけども、万が一忘れてしまって会社の方に迷惑をかけてしまうのは忍びない。
鞄の中に入れたものを再度点検。
よし。大丈夫。
ゴミなどが落ちていないか、今一度机の下や椅子の上を確認するため腰をかがめる。
麗奈さんの方でも荷物をチャックし終えたらしく、自席の周りや机の下を腰をかがめて念入りに確認し、満足気に立ち上がる。
「こっちは大丈夫」
「ありがとう。
こっちも大丈夫そう」
「そっか! ありがとさん!」
私達は最後にもう一度部屋を見渡し、部屋の入口付近にある電話から社員さんを呼ぶ。
「本日はありがとうございました!」
「いえいえ、こちらとしても大変貴重な意見を頂き感謝の極みです。」
こちらですと導かれて黒塗りの車に案内され、帰路につく。
車の中は運転席と後部座席が間仕切りでおおわれており、個室のような空間になっている。
それにとにかく静か。いや静謐と言うべきかも。
聞こえるのは自身の鼓動と麗奈さんの息遣い。
よほど疲れているのかコクコクと首を揺らしている。
「麗奈さん寝てていいよ」
麗奈さんはコクリと頷き一定のリズムを刻み始めた。
私は横顔を盗み見る。
閉じられた瞼は柔らかな曲線を描いており、どこかいじらしい。
麗奈さんは純粋無垢な寝顔を私に見せてくれている。
信頼されているのだろうか。
艶やかに光る唇に目が吸い寄せられた。
柔らかそうで、弾力感のありそう。
触れてみたい。
心の中に突如現れた邪念を奥に押し返す。
ダメだだめ!!
もし麗奈さんに見られたら、なんて言い訳すればいいの。
でもぞわぞわとした胸の疼きは大きく強大になっていく。
わなわなと手の甲が麗奈さん顔に近づいてしまう。
だめだけど、だめだけど。
心臓の鼓動は胸を痛めるほど拡大していた。
鼓動の音が理性を押さえつけるように、触るという考えが頭を占領した。
「うあん?」
重そうな瞼を押し上げて、麗奈さんがこちらを見据える。
「はな花どうしたの?窓に顔をくっ付かせて?」
「え。あ、いやあの、その、えと、あれがいいなって」
無理やり外のなんの変哲もないビルを麗奈さんに示す。
麗奈さんは二度ほど目を擦り、再度ビルを確認するが、何の変哲もないビルに首をかしげる。
「一応聞くけど、どこがいいの?」
「あの、そう形! あの正方形の形たまりませんね!?!?!」
こうなればどうにでもなれだ。
麗奈さんは頭に大量に?マークを浮かべている。
その疑問を解消すべく、口を開こうとする麗奈さんを私は封じる。
「麗奈さんは今絶対寝ぼけてます!だからおやすみなさい!!」
「え? でもはな...」
「OYASUMINASAI!!!!!!!!!!!!!!!」
「お、おう」
麗奈さんは少しひきつった顔をしていたけど、再度眠ってくれた。
ひよった私は毛先にしか触れてないけど、なんとかばれずに済んだ。
ひんやりとした感触が手の甲に残る。
私は再度麗奈さんが眠っているのを確認して、安堵の溜息をついた。
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