第2話
小山さんは祭壇の前から立ち上がると・・ゆっくりとボクの方に歩いてきた。
ボクは足がすくんでしまって・・動けない。まるで呪縛にかかったみたいだ。
ボクの前に来ると、小山さんは両手を頭の上に持ち上げた。それは、これからボクを両手で押さえつけようとするかのようだった。
小山さんの口が開いた。教室の窓から入る西日に・・八重歯がキラリと光るのが見えた。
小山さんの声がした。
「死ね・・」
その声で、ボクの呪縛が解けた。
ボクは急いで教室から飛び出した。もちろん、忘れ物なんて持っちゃいない。教室からグランドに飛び出して・・グランドを正門へと真っ直ぐに走った。小山さんがボクの後を追って来たかは分からなかった。振り向く余裕なんて、なかったのだ。
正門では・・ちょうど、守衛さんが門に鍵を掛けようとしていた。ボクは守衛さんの脇をすり抜けて、門から外の道に飛び出した。そのとき、守衛さんがボクに何か言ったようだったが・・聞こえなかった。
ボクは家に帰ると、自分の部屋のベッドに飛び込んだ。震えが止まらなかった。布団を頭からかぶって・・いつの間にか、そのまま寝てしまった。
眼が覚めると・・朝だった。ボクの様子がおかしいので、家族が不審に思ったようだ。いろいろとボクに聞いてきた。でも、ボクは何も言わずに朝食を食べると、すぐに学校に出かけた。
あの祭壇はどうなったのだろう?・・
不気味な祭壇が気になっていたのだ。
ボクは学校に急いだ。
教室に入ると・・黒板の前には・・何もなかった。昨日の祭壇は消えていた。そして、小山さんはまだ来ていなかった。
授業開始のベルが鳴ると、担任の先生が教室に入ってきて、みんなに言った。
「皆さん、小山麻也香さんはご家庭の都合で急遽転校することになりました。今日からもう、この学校には来ません」
そう言うと、先生は付け足しのように、昨日学校で守衛さんが心臓の発作で倒れたとも付け加えた。
それを聞いてもクラスの中は静かだった。さっき言ったように、小山さんと親しいものはクラスの中に誰もいなかったし、まして、守衛さんとはクラスの誰も口をきいたことがなかったからだ。
噂によると・・守衛さんはその後回復されたのだが、すぐに体調不良を理由に学校を去って行かれたらしい。
ボクはこの体験を・・家族にもクラスメートたちにも・・結局、誰にも話さなかった。話しても信じてもらえないと思ったし、ボク自身が、あれは本当に起こったことなのだろうかと疑心暗鬼になっていたからだ。
そして、ボクは中学生になった。
(つづく)
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