祭壇

永嶋良一

第1話

 ボクが小学生のときだ。


 ボクのクラスに小山麻也香という女の子がいた。目立たない子で、休み時間には、いつも自分の席で一人で本を読んでいた。女子同士で遊ぶこともなかったように思う。たぶん、クラスの中には誰も友だちはいなかったんじゃないかな・・


 ボクはもちろん小山さんとは話をしたことがなかった。


 ある日のことだ。


 学校が終わって家に帰ったボクは、忘れ物をしたことに気付いた。それで、再び学校に戻って行ったのだ。


 学校の正門は、守衛さんが午後5時に鍵を掛けることになっている。ボクが正門に入ったとき、校庭にあった時計が午後4時50分を指していた。


 急がなければ・・


 ボクは駆け足で教室に向かった。


 教室に入ると・・奇妙なものが眼に飛び込んできた。黒板の前に、なんだか祭壇のようなものが組み立ててあったのだ。なんとも不気味なものだった。


 あれは何だろう? 今日、学校が終わって、みんなと一緒に帰るときには、あんなものはなかったのに・・


 先生たちが放課後に組み立てたのだろうか・・


 でも、何のために・・


 すると、祭壇の前で、誰かが一心不乱にお祈りをささげているのが見えた。


 あれは・・小山さんだ。


 小山さんは祭壇の前にひれ伏して・・何かをブツブツとつぶやいていた。


 何を言ってるんだろう・・


 なんだか、見てはいけないものを見てしまったような気がした。


 ボクの背筋に冷たいものが走った。


 あわてたボクは・・うっかり、横のイスにつまずいてしまった。


 ガタン・・という大きな音が教室の中に響いた。


 小山さんが振り向いた。


 ボクを見た。


 能面のような顔だった。


 小山さんの眼がギラリと光った。口から押し殺したような声が漏れた。


 「見たな・・」


     (つづく)

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