第十九話 転生者って走馬灯で三途の川見れるんだ/落恋
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これまでのあらすじ
前世の記憶を思い出したアイン・タレントは、この世界が前世でやりこんでいたゲームの世界で、自身が悪役貴族として死ぬ運命を思い出す。最悪な未来を回避するため、そして貴族として成り上がるため彼は生徒会に入ることを目標にした。首席で合格し生徒会長に媚びを売り不良生徒を一掃するなどして、生徒会に優等生だとアピールしていると、ついにスカウトのチャンスがくる。しかし、入る条件として実力を知るために裏ボスである生徒会長と戦う羽目に!絶対に勝てないので小手先の話術でごまかそうとしたが、穴をつかれて逆に全力の殺意をぶつけられる!どうなる?!ここから入れる保険は果たしてあるのか?!
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走馬灯を見た。
「一撃で今から君を殺す」
という会長の発言の直後、俺は今まで感じたことのない悍ましい何かを感じた。殺気というよりも凝縮された殺意のような何か。
見たこともない強大な死がそこにはあった。
その『死』を垣間見た瞬間、全思考、全神経、全細胞、そして精神にまで及ぶあらゆる機能が、死を回避するために過去を振り返る。
俺は他愛ない日常の一日を思い出す。
『転移物語』が発売されて4日後。SNSに裏ボス、ユリ・スーン・アムストラクトの存在が報告された数時間後。友人たちとのチャットを。
〇
〈とりあえず、俺も生徒会イベント終えたけど……ここからどうすれば裏ボスと会えるんだ?〉
〈とりあえず、もう一回生徒会メンバーとの再戦。で、その後に会長と会えるから、今後の目標を聞かれた選択肢で『生徒会長になること』を選べば戦える。尚、生徒会メンバーはさらに強化されてる模様〉
〈マジ?!あのクソ書記女とまた戦わないといけないのだるすぎる〉
〈時間かかりそうだし、今分かってる情報教えてよ。準備、並列しながら進める〉
〈分かったことは意味不明なくらい生徒会長が強いってことだけ〉
〈マジで終わってる、勝たせる気がないでしょこの裏ボス↓〉
〈https://◆◆◆.com/......〉
〈草〉
〈超サ●ヤ人がでてきてるんですが、ゲーム間違えてませんか?〉
〈とりあえず分かったことだけでも書いていく。
最初の剣技は【王の剣】でバフ系の剣術スキル。剣が金色に輝くエフェクトで効果は多分だけど破壊属性〉
〈なにそれ?そんな属性あったっけ?〉
〈ない。俺が勝手につけた。ふれた武器、魔法、人体なんでも破壊するチートみたいな効果〉
〈は?武器も〉
〈ああ。普通の店売り武器は一撃で壊される。
〈はぁ?!戦闘中武器壊れたらどうすんだよ〉
〈別の武器持ち替えるか手ぶらだな。ちなみに持ち替える隙はしっかり刈られる〉
〈俺もさっき戦い始めたけどマジで一撃目で詰んでる。俺の相棒がひび割れたと思った次の瞬間には死んで悲しむ暇もなかった〉
〈で、唯一壊れない武器が聖剣だけっぽい〉
〈聖剣wwwww〉
〈そういえば聖剣って損耗が一切無かったな。破壊不能属性ついてるのか〉
〈ゲーム発売二日にして落ちぶれたと思ったら、四日目にして再評価路線になるとは……〉
〈さっき一撃目で詰んでるって言ってたけど、初撃は動き決まってるぞ。
「君が次期生徒会長に相応しいかどうか見させてもらう」→二秒後剣が金色に輝く→【神脚】からの首ちょんぱ
一撃目は絶対首狙ってくるから聖剣で防ぐかしゃがみで避けれる。しゃがみ安定だけどな〉
〈情報感謝です〉
〈【王の剣】って聞いてる最中に斬られるから、光った瞬間しゃがみ系統のスキルがいいとおもう。俺の場合は【抱腹絶刀】使ってる〉
〈光ったらしゃがめ、ね。了解です〉
〈俺はその後の本人が金色に輝くのが気になるんだが……〉
〈そうなると、生徒会長が破壊不能になります〉
〈詰みじゃん〉
〈終わりだねこのゲーム〉
〈今の所やっててなんでもありかよってことしかしない。この裏ボス〉
〈この世で最も自由な女〉
〈海賊王か何かか?〉
……
…
〇
『今』にまで走馬灯が追い付き、俺は金色に輝く剣を見る――瞬間にその場でひざまずいた。
そこに思考は存在せず、無意識に体が動いていた。
死を回避するために。
あれ?なんで俺はしゃがんで……
と思った刹那、頭部の上空で剣が通り過ぎていった。
先ほどまで俺の頭があった位置に。
ヒュッと息をのむ。
死んでいた。
間違いなく死んでいた。
むしろ生きていることが奇跡に近い。
今、この瞬間にも追撃を撃ち込まれたら俺は死ぬだろう。
たった一撃で実力を分からされた。
俺の剣が会長の命に掛かりうる?
己惚れも甚だしい。
この世界はゲームとは違う。『100回戦って1回勝てる』なんて通用しない。
死んでしまったら2回目なんてないのだから。
「会長、どうか剣を納めてください。あなたが私の実力を本気で知りたいのは分かりました。そして同時に私が会長の実力の足元にも及ばないことも分かりました」
俺は命乞いをする。勝てないことは身をもって分かった。命がいくつもあっても足りないことも。生きて生徒会に入らなくては意味がない。
「ただ一つだけ言い訳をさせていただけるならば、私が今まで鍛えてきた剣はあくまでアムストラクト会長を守るための剣であり、貴方を倒すための剣ではありません。しかし、これからは違います。貴方のために、そして何時か貴方に勝つために私は剣を振るいましょう」
言い訳はみっともないが弱いとも思われたくない。お願いします。別の人にしてください。絶対に生徒会長よりは勝機あるから。
「……優先順位はいいのかしら?」
痛いところをつかれる。が、これの返答は一つしかないだろう。
「自身の命を守りながら会長を安全に倒せばいいだけのことです」
「簡単に言うわね。普通に勝つより難しいように聞こえるけど」
実際難しいが、俺が知ってるユリ・スーン・アムストラクトを倒す方法は二つだ。そのうち一つは主人公しか再現が不可能なので、実質できるのは一つだけ。今の俺にはレベル、剣術、魔法全てが足りないが、用意さえできれば会長の身の危険が限りなく低い状態で倒すことができる。
というか、会長の命に手をかけることができる人なんてこの世にいない。
運営は明らかに彼女が最強であるとして描いている節があるから、運営さえ彼女を殺すことはできないだろう。
「決して容易ではありませんが、不可能ではないと私は思っています。私は不可能を気持ちだけで可能だと語るつもりは一切ありません」
これだけだと感じが悪いな。まるで俺が会長を倒したいみたいに聞こえるかもしれない。俺は念のために補足を入れる。
「ただ、これだけは覚えていてほしいです。私は会長と戦いたくないです。私の剣は会長を守るためのもの。貴方のためならば魔物や他の貴族の生徒、魔王にだって剣を振るう覚悟です。もし、会長が私の実力を知りたいのならばどうか他の者と戦わせてください。勝利を約束しましょう」
よし。これであくまで会長が望むから戦うけど、本来は忠実な部下だと分かってもらえただろう。媚びを売って悪いことはない。
「……分かりました。今は剣を納めましょう」
良かった~。生き残った。まじで三途の川がみえた。走馬灯でだけど。
〇
避けられた。
私の【王の剣】が。
初めての経験だった。生徒会にいるメンバーは剣で防ぐなり、避けきれず一撃をもらうなりとしてきたが、完全に避けきったのは彼が初めてだ。
【神脚】で彼の目の前まで近づいていた私は下を見下ろす。
跪く彼を。
すぐに王に忠誠を誓う者だけが生きることができる。代々、アムストラクト家に伝わる王剣抜刀の言い伝えを私は思い出す。
偶然か、それとも必然か。
しかし認めなければならない。彼は私が殺す気で振るった一撃から生き残った。
「会長、どうか剣を納めてください。あなたが私の実力を本気で知りたいのは分かりました。そして同時に私が会長の実力の足元にも及ばないことも分かりました。ただ一つだけ言い訳をさせていただけるならば、私が今まで鍛えてきた剣はあくまでアムストラクト会長を守るための剣であり、貴方を倒すための剣ではありません。しかし、これからは違います。貴方のために、そして何時か貴方に勝つために私は剣を振るいましょう」
私を守る人は今までに多くいた。アムストラクト家の衛兵や生徒会のメンバーが私を護衛することは何度もあった。しかし、私を、私だけを守るために剣を振るうと言ってくれた人は今までいただろうか。
それだけじゃない。彼は私に勝つことを望んでいない。彼は私が敗北を望んでいることを見抜いた。そして、己のためではなく私のために彼は勝利を約束してくれた。
胸が苦しい。
なぜだろう。彼の顔を見たいのに、彼に顔を見られたくない。
今まで感じていた恥ずかしさとは違う。
怖い。そう、恐怖だ。
私が忘れていた感情。
彼に嫌われていることを私は恐怖している。
なんで?
私は重苦しい沈黙の末言葉を絞り出す。
「……優先順位はいいのかしら?」
「自身の命を守りながら会長を安全に倒せばいいだけのことです」
「簡単に言うわね。普通に勝つより難しいように聞こえるけど」
彼の言葉には揺らぎがなかった。嘘や見栄が感じられない。
「決して容易ではありませんが、不可能ではないと私は思っています。私は不可能を気持ちだけで可能だと語るつもりは一切ありません」
数多の者が言ってきた「何時か絶対に勝つ」とは違う言い方だった。彼には明確に勝てるヴィジョンが見えている。
あぁ、でも負けたくない。あれだけ敗北を望んでいたのに、負けるなんて情けない姿を彼に見せたくない。
背反している。
感情が、想いが。
「ただ、これだけは覚えていてほしいです。私は会長と戦いたくないです。私の剣は会長を守るためのもの。貴方のためならば魔物や他の貴族の生徒、魔王にだって剣を振るう覚悟です。もし、会長が私の実力を知りたいのならばどうか他の者と戦わせてください。勝利を約束しましょう」
私はここでようやく自分が剣を抜いていたことを思い出した。彼を殺そうとしていたことを。
私はドキドキと鳴る動悸を落ち着かせるように剣を鞘に納める。
そしてできるだけ冷静を装って彼に話しかけた。
「……分かりました。今は剣を納めましょう」
認めよう。彼は私に愛されるに足る実力を持っている。
「その代わり、アブファイル・ハイター侯爵子息。彼に決闘を挑み勝ったら認めましょう」
「生徒会に入れていただけるのですね?」
表面上は生徒会に入るためのものだったことを彼の発言で思い出した。危ない。今も生徒会メンバーがこの様子を見ているはずだ。
私は消音の魔法を周囲にかけ彼らに聞こえないようにした。
「認めるのは生徒会だけではありません。入学式の日、あった時のことを覚えていますか」
「忘れるはずがありません」
私も生涯忘れることはないだろう。あんな、運命の出会いは。
「あの日は曖昧にしましたが、もし彼に勝つことができたのならあの花を受け取りましょう」
そして彼を夫として認めよう。
「勝てますか?」
「勝ちます」
彼は垂れていた首をあげ私の方を向いた。
彼と目が合う。
真っすぐな瞳だった。
勝ちなさい。アブファイル・ハイターに。親が決めた私の婚約者に。
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