第十八話 心がドキドキするんじゃなくて心臓がバクバクするって感じ
俺は引きずられることなく自らの意思で(半分強制みたいなものだが)ザネ侯爵令嬢の後をついていく。
書庫などがある地下のさらに地下へと階段を降りるとある部屋へとたどり着いた。
部屋全体が石煉瓦で作られており魔道具により暗すぎることはないが圧迫感を感じる。部屋の中心には一つの簡素な机と対面に位置するよう置かれた二脚の椅子が置かれていた。
第四特殊応接室。特別応接室ではない。
尋問室はともかく、牢獄とは使ってないよな?別室に拷問器具とかもあったけど、歴史的に価値があるとかで残しているだけだよね?ゲームでは別ゲーのアセットそのまま流用しているから血のテクスチャがついてるだけで、現実世界では使われていないよね?信じてるぞ、学園。
尋問室に入り待つよう指示される。ザネ侯爵令嬢が部屋から出るとすぐに別の人物が入ってきた。彼女から話しかけられ緊張しながらも言葉を返す。
「一カ月ぶりかしら」
「お久しぶりです。アムストラクト会長」
「ええ、久しぶり」
本当に長かった。しかし、全ては作戦通りに進めることができた。
この一か月間、行ってきたことは全て生徒会長と再会するために行っていたのだから。
「まずはお掛けになって。今回呼んだ理由は君から直接聞きたいことがあったのと、報告、連絡したいことがあったからこの部屋に呼ばせてもらったわ」
「ありがとうございます。失礼します」
俺は彼女に言われ席に座る。緊張し背筋は伸び切っていた。なにせ、これからの応答で俺の未来が大いに変わるかもしれないからだ。
そんな様子の俺を見て会長は座りながら少し笑う。
「そんなに緊張しなくてもいいのよ。こんな部屋だけれど君を責めたてるつもりなんてないから。ただ内容が内容だけに他の生徒に聞かれたくなかったの」
「心遣いありがとうございます。ただ、やはり生徒会長と二人きりですから緊張します」
会長は少しの間を置き返答する。
「二人きり……ね。ま、まぁ急に呼び出されて緊張するのも分かるわ」
「いえ、急に呼び出されたことに関しては緊張していません。またあなたと会いたい一心で今日まで活動してきましたから」
俺は遠回しに今までの行動は作戦通りだったと会長に伝える。会長はかなりの切れ者だ。俺の意図も伝わったはず。
彼女は俺から少し目をはなし咳払いをした。
「ま、まず初めに確認から」
再び目が合うと笑みを含んでいた表情は真剣そのものになっている。俺も表情と心を引き締める。
「『人剣連合』という組織があったのは知ってるわよね?」
「はい」
「進入禁止区域の森に拠点を置いいたため、残存していた大型魔物に襲われたことになってるけど、これは違うわよね。君の口から聞きたいわ」
まず事実の確認だ。
彼女に対するスタンスはすでに決めている。ずばり『全て正直に話し隠し事をしないことで忠誠心を見せる』だ。いいように使われるかもしれないが、それでいい。少なくとも使われている間は俺は彼女の手下という地位を確立することができるからだ。
「はい。『人剣連合』は私が一人残らず倒しました。死人は出ない程度に痛めつけた程度ですが」
「『人剣連合』のリーダーは3年生のデント・プラザイ侯爵子息だった。彼も君一人だけの力で倒したということで間違いないのよね」
「はい。私が倒しました」
嫌な展開はこれでやっぱり俺が公的に犯人扱いされることだ。しかし、生徒会ならそんな非合理的な判断しないはず。
「正直に答えてくれてありがとう。あの現場を見れば君が犯人だってことは明らかだったけれど、一応本人の口から聞いておきたかったの。学園は今回の件は不問としたけれど、生徒会としてはそうもいかないから。なにせ、今まで『人剣連合』が被害を及ぼしていた生徒数よりも傷を負った『人剣連合』の生徒数の方が多かったみたいだから」
俺は顔には出さないが心の中では驚く。つまり『人剣連合』として被害を出した生徒は70人未満ということなのか。もっと多そうなものだけど意外と小規模な組織だったのかもしれない。または組織ができて間もなかったか。
「今回の一連の事件に関して生徒会として処分を下します。アイン・タレント。君には今後一切の『
「承知しました」
「異論は?」
「ありません。アムストラクト会長の意思ですから」
あるわけがない。彼女の意思こそが俺の意思だ。
それに今後のことを考えると、いつかはあのグループを解散させないといけないとは感じていた。
「そう。処分としては以上よ。ここから私個人として君に言いたいことがあるわ」
すると彼女は頭を深く下げた。
「まずは感謝を。一年生のいじめを止める活動をし、風紀を乱す集団の排除も行ってくれて本当にありがとう。そして次に謝罪を言わせてほしい。本来ならこれは生徒会が動くべき事案だったわ。私が生徒会長になったばかりで忙しい時期だったこともあって対応が遅れてしまった。貴方に様々な責任を押し付ける形になってしまったことを謝罪するわ。当然、被害を受けた二人の一年生にも後日謝罪をするつもりよ」
彼女は頭をあげる。俺は彼女の謝罪の言葉を止めはしなかった。形式的なものではなく、本心から謝りたいという意思を感じたからだ。
「このことをふまえて生徒会では風紀委員の設置を決定したわ。生徒会に比べてより各学年の風紀を取り締まる活動を行っていく予定よ。
そして、その一年のリーダー、および副リーダー枠にケイン・アウフトリット伯爵家子息、レイン・シュヒタン男爵令嬢を生徒会から推薦するつもり。勿論、本人の意思を一番に尊重はするけれど、彼等なら引き受けてくれると信じているわ」
「様々な配慮ありがとうございます。彼等ならきっとやり遂げることができると思います」
上手な落としどころだ。『
「で、気になったと思うけど、君の処遇に関してについても話すと同時に少し聞きたいことがあるの」
「はい。なんでしょうか。何でもお答えいたします」
そう、少し気になったところだ。俺は風紀委員に選ばれなかった。
「まず、君が風紀委員に推薦されなかった理由は、正直に言うと性格に難があるから。今回の一連の事件はもっと穏便済ますこともできたはずよ。風紀委員の活動方針は大事になる前に取り締まること。君にも事情があったのは分かるけど、周囲の被害よりも己の事情を優先するという君の考え方は風紀委員にはあっていないと判断した」
それはそう。今回『
「そして次に、君には生徒会に入ってもらいたいと私は思っているわ」
――よしっ!!!!!
俺は表面上平静を保ちながらも、心の中でガッツポーズをとる。それどころか、もう心の中はフィーバー状態だ。サンバでも踊りたい気分だ。
すべてはこのため。彼女から生徒会へとスカウトされるためだ。
俺は彼女の言葉に「はい」と返答する。
落ち着け。まだ決まったわけじゃない。ここから俺が返答を間違えれば、やっぱ無しと言われる可能性だってある。
冷静に。彼女が何を望むかを考えろ。どうすれば生徒会入ることでメリットになるか考えるんだ。
会長は生徒会について説明を続ける。
「生徒会に入る方法はただ一つ。生徒会メンバーからの推薦と他メンバーからの承諾よ。今回は私から推薦するつもり。というか、もうすでに他メンバーのほとんどが承諾済みで、ただ二人だけ君の入会に条件を言うメンバーがいた」
二人か。これは想定していなかった。ゲームでなら生徒会長の言うことは絶対という雰囲気があったから、彼女が推薦さえすればそのまますんなり入れると思っていたが……
「一つ目は正直さ。今回の事件に関して君が私に嘘を言ったりはぐらかすかどうか見させてもらったわ。実は私たちの様子は別室で他メンバーが確認しているの。でも、彼らの意見を聞かずとも分かるわ。君は嘘を言っていない。私に対して包み隠さず正直に話している。だから彼も納得するでしょう」
良かった~~~!!!正直に話してて。
やっぱり人間、正直が一番。正直者は神様が見ていて良い結果が待っているものだよ!
「二つ目は強さ。生徒会メンバーは私を含めて8人いるけれど、全員が学年で一、二を争う強さを持っているわ。それどころか、学園全体でトップ10に入るメンバーが私以外に4人はいる。というのも、生徒会は武力をもって学園で地位を確立しているの。活動的にも様々な人や組織と対立することがある。それなりの強さを持っていないとついていくことが不可能よ」
と言われて、この条件を言った人物を思いつく。会計担当のあいつか。確かにあいつは強さこそが全て!みたいな性格だったからな。言いそうだ。
「君のことを調べさせてもらったけれど、基礎である源流剣術の精度はかなりのもので同格相手にはまず負けず、格上には数多の剣術を使い分けることで隙をつき打ち勝ってきたみたいね」
「もったいないお言葉です。ありがとうございます。」
ザネの存在を知っていたため調べられていたのは何となく察していたが、かなり的を得ている。
しかし、彼女は複雑そうな顔をした。
「私は君がデント・プラザイ侯爵子息に勝つとは思っていなかったわ」
あれ?思っていた反応じゃなかった俺は困惑する。
「彼はかつて私の同級生だったけれど、かなりの才能を持っていたはずよ。鍛錬を怠り燻っていたとしても一年生の君が勝てる相手だとは思っていなかった。なぜなら、彼は源流剣術の基礎をしっかりと固めつつ[二剣一流剣術]を複合して戦うスタイルで君の戦闘スタイルと似ていたから。魔力量という埋められない差がある時点で彼は君の上位互換だと私は判断していたわ」
デント、お前めっちゃ知られてるじゃねえか。何が名前を覚えていないだよ。しっかり評価されてんじゃねえか。しっかり評価されて俺が疑われているんだが?!
良くない雰囲気だ。
「しかし、君は彼に勝った。正直に言って一年生でデント君に勝った時点で生徒会に入れるだけの強さは証明されているわ」
「ありが――「でも私を含めて生徒会メンバー全員が君の強さをはかりかねている」
俺が感謝を言おうとするが言葉を遮られる。良くない。これは本当に良くない流れだ。
「強さが未知数っていうのも面白いけれど、私は君の実力を知りたい」
彼女は席を立ち俺を見据える。先ほどまでの柔和な表情は消え失せていた。
「剣を抜きなさい。その実力推し測らせていただく」
はい、オワタ。
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