第十五話 対人戦の勝ち方講座


「本人が望んでるんだ。全員で相手をしてやれよ」


 デントは俺を睨みつける。しかしその目には警戒の意思が含まれているように感じた。


「承知しました。アイン・タレント、お前の望む通り六人で相手してやろう」


 そう言うと残りの幹部生徒が次々と跳び下りてくる。

 俺はその光景を見ながら内心ほっとしていた。


 想定通りいって良かった。

 正直、一対一を六回やられた方がきつかった。勝つ自信はあったが、デントと戦うときにはかなり消耗していただろう。また、俺の剣技も相手に多く知られているため、不利な戦いになる可能性が高い。


 六対一は負けるリスクは高まるが短期決着を望むことができる。


 それに六対一はオンライン対戦で経験積みだ。前世ではそこそこ名が知られるようになってからは、何度かチーミングされて多対一で戦闘を仕掛けられることが多くなった。最初は負かされたが、数をこなし慣れてくるとむしろいつもより倒しやすいことが分かった。


 対人戦で勝つ方法はいたって単純だ。ずばり『考えながら戦う』

 しかし、この単純な行為を行うためには膨大な時間を必要とする。


 考えるとは勝つ方法を考えるということ。相手の使ってくる剣術の隙、相手の癖を分析し、確実に剣を当てることができる瞬間をつくりだす。

 いうのは簡単だが、当然考えている最中も相手の剣を避ける必要がある。未来の状況を想定しながら、現在の戦闘をこなす。この並列処理を行うためには、膨大な対戦を繰り返し知識を体に刷り込ませる必要がある。


 俺はこの並列処理ができるようになるまで2000時間かかった。しかし、できるようになると、オンライン対戦で高レートが安定するようになった。ここからさらにランカーになろうとすると、同じような猛者を相手する必要があるため、読み合いの技術が必要になるがその話は割愛。


 この世界でも並列処理の能力は存分に活躍している。ゲームと違い実際に剣をふり、また剣が迫ってくるため並列処理の難易度は上がっていた。恐怖心や痛み、魔力を操る感覚、魔法の構築が存在するからだ。しかし、受験対策での度重なるゴーレム戦で完全に感覚をつかむことができた。


 そしてこういう多対一の場合、一人で戦う側は当然大変だが、多人数側もなかなか大変だ。なにせ連携しながら戦うことに慣れていないからだ。味方に攻撃を当てないようにすること、また逆に当たらないようにすること、味方と敵の動きの予測、人数有利からくる油断など、精神的なデバフが多くなってくる。二人、三人程度なら咄嗟の連携も可能だが六人ともなると不可能だ。一人で戦った方が確実に良い動きをすることができるだろう。


 今の俺にできることは六人の猛攻撃を避けつつ隙を見逃さないこと。長引けば相手が連携に慣れてくるので不利。多少怪我をしてでも短期決戦で行く。


 6人全員が剣を抜き俺を囲うように移動する。そして四人が距離をつめてきた。


 前方二人、後方二人、遠くから狙っているのが二人か。


 とりあえずしのぎながら隙を待つ。


「悪刀流【空裂き】」

「悪刀流【影流れ】」


 袈裟へ向けた振り下ろしの【空裂き】を避けた先に別の生徒から【影流れ】を合わされる。振り上げられた剣を右の剣で防ぎながら後方へ跳ぶと、次は後方の二人から攻撃が迫っていた。


「【一文字斬り】」

「【縦一文字】」


 どちらも源流剣術。源流剣術は威力が低い代わりに隙が少なく、コンボにつながりやすい。そして威力が低いというデメリットも今回に限っては魔力量の差により十分な威力になっていた。他の剣術より考えることが増えるためあまりされたくない攻撃だ。

 とはいっても避けることは可能だ。しかし、遠くからも狙っている生徒が二人いる。おそらく[豪剣流剣術]の使い手。魔力の斬撃をとばしてくる可能性が高い。避ける方向をミスったら簡単に詰むな。


 俺は他の生徒が[豪剣流]の生徒と射線が被る位置を取ることで撃たせないようにする。


 なんてしている間に最初の[悪刀流]の使い手二人が迫ってきていた。

 再び使用してくる剣技は【空裂き】と【影流れ】。ということは基本的にこの流れの繰り返しだろう。剣技は普通の生徒は一つ覚えるのにも多くの時間がかかる。おそらくこの[悪刀流]の生徒はこの二つしかまともに使えないのだろう。少なくともこの戦闘においては。


 一方で源流剣術の剣技は自ずと覚えていくことが多い。そのため後方二人の源流剣術使いは様々な剣技を使ってくる可能性があるため気を付けなければならない。最後に遠くから狙ってくる[豪剣流]はさほど脅威ではない。他にどのような剣技をつかえるかは未知だが、今は遠くからの攻撃に徹底している。避ける方向に気を付ければいいだけだ。


 さて、誰から狙っていくかだが……あいつしかいないだろう。

 最も隙が多く最も油断している相手、それは[豪剣流]の使い手だ。


 [悪刀流]と源流剣術使いの剣を避けながら少しずつ位置を調整する。

 四人からの猛攻撃に耐え切れず、大きく後ろに下がる。その結果、豪剣流に背中をさらしてしまった――ようにみせた動きをする。


「【岩破斬】」


 当然、豪剣流使いは待ちに待った瞬間だ。魔力の斬撃が背後に迫るのを感じとる。この攻撃を無理やりにでも避けようとしたら、もう一人の生徒に【岩破斬】をうたれ避けることができなくなる。だから、俺はあえて近づく・・・


 つまり背後へと大きくジャンプした。


 驚いた様子の幹部たちを確認しながら振り返り、目前に迫った魔力の斬撃に向けて両手である剣技を叩き込む。


「【岩破斬】」


 俺が放った【岩破斬】と敵が放った【岩破斬】が相殺する。しかし両手で放ったため、進む勢いまではころされていない。


「なっ!」


 狙われるとは思っていなかった豪剣流の幹部生徒が驚いた顔をする。その流派はすでに一度見ている。そして俺の場合一度見るだけで剣技の修得は可能だ。


「【魔岩弾――「遅い。【百花繚乱】」


 左手の剣で【百花繚乱】を放つ。相手は避けることもできず意識を失っていった。


 そして、再び後方を振り返ると先ほどまで囲んで攻撃していた四人が迫ってきている。しかし、好都合だ。前方に複数人の生徒がいるとき、この剣技がささる。


 俺は右手の剣を腰に添え居合の構えを取る。


「【画竜】」


 そして全方向への高速の抜刀を行った。4人中3人が上に跳び逃れるが、一人は避けきれず吹き飛ばされる。これでもう一人脱落。

 そして抜刀後、背を向けていた俺に二人の生徒が迫ってくる。俺はさらに振り返り横へと一閃した。


「【点睛】」


 竜王流剣術奥義【画竜点睛】。

 高速の抜刀の後に、迫ってきた相手へとする二度目の一閃。


 初見殺し性能はぴか一だ。


 迫ってきていた二人の生徒も気絶し倒れていく。

 これで残るは二人だ。しかし、ここからがきつい。二対一なら連携は容易だし、すでに油断もしていないだろう。つまり真っ向からの二対一の実力勝負。


 ――をするつもりはない。


 俺は残りの二人が完全に合流するよりはやく、目の前の幹部生徒に斬りかかる。


「【竜尾撃】」

「ぐっ!」


 幹部生徒は剣で防ぐが吹き飛ばされる。【竜尾撃】はノックバック性能が強い剣技だ。竜王流剣術は他の剣術に比べ膨大な魔力を纏うため、上級生との魔力差も影響しにくい剣術になっている。


 吹き飛ばした先は、もう一人の幹部生徒の方向だ。ちょうどぶつかるように吹き飛ばしたが、ぶつかる前に体勢を整えられ着地する。


 俺は【俊脚】で正面から距離をつめ【竜首狩り】の足運びで幹部生徒の側面へと移動する。幹部生徒はそれを予期して剣で防ごうとする――が、俺は彼らに斬りかからずその場で急停止し、居合の構えを取った。


「跳べ!」

「【画竜】」


 先ほど目の前で【画竜点睛】を見ていた幹部生徒は跳びながらもう一人に避けるよう叫ぶ。しかし、【竜首狩り】を意識しすぎて避ける動作は間に合わない。こいつは盗聴の魔道具を持っていた生徒だ。つまり、今まで俺の後をつけ監視していた生徒ということ。そのため、前日の訓練場での戦闘も知っているためゴルグにはなった【竜首狩り】の動きを警戒するとふんでいた。


 高速の抜刀により一人の幹部生徒の意識を刈り取る。そしてもう一人に背中をさらした。


「【点睛】」


 二度目の一閃を後方にはなつがその場に生徒はいない。それもそうだ。この奥義はあくまで初見殺しに特化している技だ。二度目は警戒されて通用しない。


「もらった!」


 【画竜点睛】を放った直後の隙を幹部生徒に狙われる。しかし、初見殺しを知っていることによる油断を俺は欲しかった。彼は【画竜点睛】を追うあまりに左手の剣の行方を警戒していない。


 左手の剣はすでに腰に添えられている。

 二刀流バグの真骨頂。左右で剣技を使い分けることによる剣技の連続発動。当然、奥義も利用可能だ。


「【画竜点睛】」


 二度目の初見殺しにひっかかり、剣は彼の腹部に直撃する。魔力を覆っていたため切れることはないが、衝撃は体に伝わるため意識を失った。


「これであとはお前だけだ。降りて来いよ、お山の大将さん」


 俺は上を見上げる。そこには先程までの余裕のある顔ではなく、イラついた表情のデント・プラザイがいた。彼は俺を見下ろすように睨みつける。


「死にてぇみてぇだな」

「俺の二つ名は考えてくれたか?」


 俺は挑発するがその返答は後ろから聞こえた。


「ああ。墓に刻んでやるよ」


 突如、背後に出現したデントに驚きながら防御の体勢をとる。しかし、間に合わず彼の蹴りが腹部に直撃した。

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