「学園もようやく落ち着いてきたわね」

「やね~」


 私は生徒会執行室にて書記のザネ・アウフガング侯爵令嬢と書類整理をしていた。いや、正確に言えば書類整理をしているのは私だけだ。ザネは自身の席に座って優雅に紅茶を飲んでいた。


「でもユリちゃんは大胆やね。まさか生徒会長になって二ヶ月足らずで学園内の膿を取り出しちゃうんやからさ」

「面倒事は先に対処する性分だから。それといつも言ってるけど私のことはユリ会長と呼ぶように」

「えー、別にいいやん。今は二人しかおらんし」


 私が生徒会長になってからしたことは、今後敵対しうる生徒の徹底的な粛清だ。上級生には家の力と自身の実力で好き勝手にしていた貴族が何人かいた。そんな彼らに魔王軍のスパイがいるということを建前にし風紀の強化を行うことで牽制しつつ、ぼろをだしたら処罰を行っていった。

 彼らが今までしてきたように私も家の力と実力で彼らを黙らせる。何人か処罰を行えばすっかりと大人しくなり、狂犬のようだった生徒も今では鎖につながれたペット犬のようだった。


「でもこれでようやく魔王軍の対策を取ることができるわ」

「本当におんの?風紀強化の口実にちゃんユリがでっちあげたんとまだ疑ってるで」


 ちゃんユリと呼ばれてザネをジトっとにらむ。彼女は舌を少し出して反省しているようには見えない。まぁ、彼女は自由主義派の貴族だ。

 呼び方くらいで彼女を味方にできるなら安いものかもしれない。私はため息をつきながら答える。


「絶対にいるわ。もしかしたらまだいないかもしれないけど、今後絶対に現れる」

「なんでそう言えるん」

「私が魔王ならそうするもの。首都の中で情報を集めやすく将来有望で騙されやすい子供が沢山いるなんて、スパイを送り込まない方が失礼よ」

「こわー。私が魔王やったら絶対にユリちゃんの相手したくないわ」

「私も魔王なんて興味ないわ。むしろいてくれた方が経済が回るし感謝しているくらい。このまま利用できるだけ利用して、いらなくなったり厄介になったら勇者を呼んで倒してもらえばいい」


 この国には異世界から勇者を呼ぶ秘術がある。勇者は高い潜在能力を秘めており魔王を倒す鍵となると言われている。国の騎士が減ることなく誰かに倒してもらうのが最も望ましいことだ。


 私は書類整理が終わりザネの元へと行く。そして一枚の紙を渡した。


「ということで早速仕事をしてもらうわ。この生徒について調べてほしい」


 彼女は書記であると同時に優秀な斥候だ。というより彼女は書記の仕事は一切していない。会議中も後輩に任せて、自身は茶々をいれることしかしていない。しかし、その会議の情報を仕入れているのは彼女なので誰も文句は言えない。


「あちゃー。サボってたのがばれてしまったわ。どれどれ……ってアイン君やん」

「あら、知っていたの?」

「知ってるも何も、最近何かと噂の新入生君やで」


 まぁ、知っていて当然か。私でも彼の噂は耳にする。

 入学試験での実技テストで満点且つ総合点数は歴代二位の首席合格者。そんな優等生が放課後に自主的にいじめを止めるため見回りをしているらしい、と。


「私も噂には聞いているわ。その噂の内容と正確性、彼が具体的に現在何をしているか、どのような性格かまで調べてほしい」


 私は彼女にそう言うと、そばにあったティーポットから自身の分の紅茶を注ぐ。


「え?じゃあ早速いい?」

「ええ」


 そして紅茶を一口飲み


「入学式の日にユリ会長に情熱的な告白してたって本当なん?」


 盛大に噴き出した。


「うわっ!きたな!急に毒霧の練習してどないしたん」

「ごめんなさい。少し動揺して」


 なんでそのことが?誰かに見られていたってこと?

 いや、あの場には誰もいなかったはず……


「全くそう言った噂が好きなのはわかるけど、人をからかうのは良くないわ」

「いや、でも彼の噂の8割はこの内容やで」

「私は聞いたこともなかったけど」

「そりゃ本人には言えんやろ。ただでさえユリちゃんは話しかけづらいのに」


 最近、何かと見られてると思ってたけどもしかしてそれが理由?!

 誰か教えてくれたっていいじゃない。


「で、でもいったい誰がそんなこと言い出したのよ。誰かその現場を見たっていうの?」

「いや、誰も見てへんねんけどな。入学式の日、オーロラローズを手に持って顔を赤くしながら早歩きするユリちゃんは目撃されとんねん」


 そういえば、あの後は動揺して気配を消すのを忘れていた……


「そして、新入生代表としてアイン君が答辞読んでたやん。その時、胸ポケットにオーロラローズをさしとったんやけど、教室に戻るとそのオーロラローズがなくなっとったらしいねん。ちなみにその二人が目撃された時間はだいたい同じくらいやね」


 なんで、よりにもよって新入生全員の前でオーロラローズを胸にさして答辞を読んでるのよ!無くなってたら不思議に思うでしょ!


「ちなみに生徒会執行室の生徒会長の机の上にオーロラローズを入れた花瓶が置かれているのも知っとる。というかそこにある」

「うっ!」

「ちなみに腐らないよう保存の魔法をかけられとるのも知っとる」

「がっ!」

「ちなみに作業中たまに眺めて頬を赤らめた後に雑念を払うように顔を横に振る生徒会長も目撃されとる。ソースは私」

「はぅっ!も、もうやめて」


 私は息を絶え絶えにザネの報告を止めさせる。


「で、真相はどうなん。状況証拠的に明らかやけど」

「彼からオーロラローズを受け取ったのは認めるわ。でもそれ以上をあなたに言うつもりはない」

「えー。ユリちゃんが調べろっていうたんやん」

「と、ともかく。その噂以外のことについて調べてきて!別に彼のことが気になるんじゃなくて、これは生徒会にとっても重要なことだから!」

「いやー、乙女なユリちゃんは新鮮やね。眼福眼福」


 私はザネを本気で睨みつける。

 彼女は顔を引きつらせて席を立った。


「ほ、ほな情報収集行ってくるわ~」


 ザネが部屋から出た後、私は大きくため息をついた。

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