第十一話 ゲームではバグだけどこの世界では仕様
『人剣連合』とはゲーム中盤で受けることのできるサブクエスト「不良生徒更生大作戦」に出てくる組織のことだ。連合と大きく名乗っているが、実際は50人程度の不良生徒の集まりだ。
ゲーム中盤に受けるにしては難易度がそこそこ高く、幹部クラスやボスは苦戦することが多い。しかし、それはゲーム中盤の話。
今の俺にはかなりの強敵だ。
『人剣連合』の幹部であるゴルグに【俊脚】で近づき【一十車】のコンボを仕掛ける。そのほとんどが防がれるが、先ほどと違い手応えが一切ない。続いて【
「効かねぇな!くらえ!【岩破斬】!」
大ぶりの叩きつけだ。最小限の動きで避けることも可能だが俺はあえてバックステップで距離を取りながら避けた。【岩破斬】による剣は地面に叩きつけられ、ドゴンという音と共にクレーターを作った。
【岩破斬】は豪剣流剣術の剣術スキルだ。たとえ剣で防いでも衝撃波を発生させる効果があるため、避け方にも気を付けなければならない。今の俺なら一撃だろう。
「はぁ!【魔岩弾撃】!」
魔力の巨大な斬撃を俺に飛ばしてくる。しかし、狙いが甘く簡単に避けることができた。俺は全ての斬撃を避け距離をつめる。彼が剣で防ごうとするが、瞬時に彼の真横へ移動する。
「【竜首狩り】」
相手は途中で動きに気付くが避けきれず、木剣が背中に当たった。今までの生徒ならこれで終わりだが……
「ちっ!痛いな!おらぁ!」
痛がっているが気絶させるほどではなかった。分かってはいたが、かなりきついな。これが魔力量の差だ。
相手の剣技は拙い。メアリスの方が戦い方や剣技の完成度は高いだろう。
しかしその弱点を凌駕するほどの圧倒的な魔力量の差があった。
ゲーム的に言うならばレベル差だ。この世界はゲームではなく現実なのでステータスなんてものはないが、体力や魔力量が増加するという概念はある。いわゆるレベルアップだ。
レベルアップはゲームでは戦闘で経験値を得ることでできるが、この世界ではそれだけではなく、成長期なら自ずと魔力量や体力、身体能力が成長していく。
俺はまだ13歳。男性の成長期が15歳くらいからくると言われている。俺の場合幼いころから成長が始まっているようだが、今の魔力量は入学試験対策のゴーレム戦でのレベルアップで得たものがほとんどだろう。
対して目の前の男は体格的にも15歳以上だろう。平民は入学する年齢が15歳になってからなんてことも良くあることなので、17歳くらいでもおかしくはない。
魔力量に大きく差があると攻撃が通りにくく、逆に相手の攻撃は大ダメージになりかねない。
ただし彼のような拙い剣術使いなら時間をかければ倒すこと自体は可能だろう。しかし……
俺は隙を伺いながら周囲を見る。先ほどより多くの生徒が俺達の戦闘を観戦していた。長時間戦うということは苦戦しているということの証明だ。ここで三年生に苦戦したという結果を残したくなかった。
俺は未だに振り続けられる相手の大振りの剣を避けながらぼやく。
「はぁ、まさかもうこの技をつかうことになるとはな……」
「なんだぁ、まだ隠し玉があるつもりか?やってこいよ!」
「【桜竜斬】」
俺は[竜王流剣術]の【桜竜斬】で魔力の斬撃を発生させる。しかしこれは彼にあてるのではなく、地面にあてることで土埃を発生させた。
土埃が宙を舞い俺達は観客席から見えなくなる。都合よくゴルグも俺を見失ったようなので、俺は壁際に転がっていた今日戦ってきた生徒に近づいた。そして腰にかけている剣を拝借する。
ようやくゴルグが俺を見つける。
「何をするかと思えば二刀流か?」
「まぁ、お前らにはそう見えるよな」
でも俺達プレイヤーにとっては、初めて長剣の二刀流を見た時は衝撃的だった。このゲームでは短剣の二刀流は流派としてあるが、長剣の二刀流はできなかったからだ。まずインベントリで装備することが不可能だ。
「特別に見せてやるよ。二刀流バグの真骨頂を」
ゲーム世界でのバグ技も、この現実世界ではゲームのような制限がないため再現が可能だ。
【俊脚】で距離をつめ二つの剣を上下に重ね合わせるように【一文字斬り】をはなつ。通称【二文字斬り】。ゴルグは剣で防ぐが先ほどとは違い少し体勢が崩される。続けて同じように剣を重ねた【十文字斬り】、通称【重文字斬り】をはなち、さらに相手の体勢を崩す。最後に【風車】を放ち相手の体勢を完全に崩し無防備な状態にさせ、さらに連続で【風車】を放った。
「ぐあぁっ!」
正面からの【風車】はかなり効いたようだ。
これが二刀流バグの真骨頂。剣術スキルの同時発動及び連続発動だ。このバグは剣術コンボをさらに発展させた。しかも、本来想定されていないものなのでNPCのAIは対策することができず、ゲーム本編では無類の強さを発揮することになる。
これがレベル差のある相手を倒す方法だ。火力が足りないなら手数を増やしまくる。詰まるところごり押しだが。
「まぁ、うかうかしてたら土埃もおさまるし決めさせてもらう」
源流剣術奥義の一つ【百花繚乱】。この技を両手で同時に発生させる。
通称【万花繚乱】。
ゴルグは避けようとしたが、そのような隙はない。一撃をもらい体勢を崩すと次々と魔力の斬撃によって斬りつけられた。
「なん……なん……だ。その…技……は」
意識を失いその場に倒れこむころには土埃がはれていた。
意外にも観客席にいた生徒たちは騒がなかった。強さに衝撃を受けて驚きのあまり声を出せないものがほとんどのようだ。
俺が訓練場を後にするとようやく話し始めざわつき始める。
何を話しているのかは聞こえないが、これで俺の強さの評判はさらに上がることだろう。
「一年生が三年生に勝った?それもこの時期に?」
「強すぎる。そんなジャイアントキリング、生徒会にしかできないと思っていたが」
「やはり、あの噂は本当なんじゃ……」
「あの噂って?」
「知らないのか。入学式の日に生徒会長にオーロラローズを渡す一年の姿が――」
「はぁ?!それがあいつだって?三年に勝つより無謀だろ!」
「それがもしかしたら――」
〇
翌日、俺はある時間にとある空き教室へと向かっていた。
下駄箱に手紙が入っていたからだ。なんと相手はメアリスから。
告白?それとも決闘か?なんだとしても絶対に行かん!とも思ったが手紙の内容的に真剣な相談事みたいだった。空き教室に入るとすでにメアリスはその場にいた。
「メアリスさん、それで話って?」
「うん。相談というか少し君と話したいことがあって……」
彼女の顔は真剣そのものだ。良かった。恋愛フラグがたったとかではなさそうだ。
「アインはたしか放課後、ケイン君とレインさんで一緒に見回りをしてたよね。いじめを止めるために」
「はい」
「昨日はどうしてたの?」
「昨日は……知ってるかもしれませんが最近私は二年生と……その…交流をしていて忙しくて。見回りは二人に任せました。交流が終わり次第合流したかったんですが、二人が見つからなくて…。結局一人で見回りをしていました」
「やっぱり、そうなのね」
メアリスの顔は険しい。しかしその表情は俺に向けられるものではない。どちらかというと悲しさがこもった表情だった。
「私はクラスのリーダーだから、他の生徒より情報が早く知らされるの。そこで聞いた情報なんだけど……落ち着いて聞いてね」
彼女は一呼吸置いたのち、言葉を続ける。
「ケイン君が両腕の骨折の重傷を負ったわ。そしてレインさんは軽傷ですんだのだけど……謹慎処分を受けた」
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