第十話 やらない善よりやる偽善、だけどいちばんはやる善
「あいつ何者だ」
「新入生レベルじゃないぞ」
バカ貴族が連れてきた二年生二人を10秒で倒した俺は訓練場を後にした。あの程度なら二年生の中でも弱い方だろう。
三週間ほど前、メアリスと戦った時は時間をかけて戦ったが、あれは彼女がいじめられないよう周囲に彼女の強さを知らせるためだ。今回みたいなケースは気にする必要はないため、むしろ手加減せずに一瞬で倒す方が俺自身の評判も上がるだろう。
「アイン君、大丈夫でしたか?」
レインが訓練場の出口で待っていて心配の言葉をかけてくれた。
「余裕だったよ。俺の実力を知ってるだろ」
「ですよね。でも、悪い噂がたたないといいんですが…」
「大丈夫だろ。見ている人も少なかったしむしろ良い評判として伝わるんじゃないか?ほら、俺たちの活動が広まればいじめは少なくなるだろうし」
「そうだといいんですが、その、悪い予感がして……」
レインは心配性な所があるし、物事をネガティブに考えがちだ。
現実はたかが不良生徒二人を倒したところでそんなに変わらないだろう。
〇
そう思っていた時期が、俺にもありました。
「アイン・タレントはいるか?!」
こんな掛け声が聞こえ始めて四日目だ。そして今日だけでも三人目。
どうやらこの前の二年生はそこそこ顔が知られていたらしい。敵討ちに来る生徒が後を絶たなかった。
「はいはい、俺が代わりに対応します。決闘ですよね、申し訳ないんですがすでに予約がうまっていて……こちらにお名前と人数を記入いただけますか?」
人数が多くなってきたのでケインが代わりに対応してくれている。
そんな混雑している飯屋みたいなシステムなんだ……。そして律儀に名前書くんだ……
「はい、ありがとうございます。それで決闘のスタイルなんですけど、おひとりで臨まれるか、今まで予約している人と一緒に行われるかどうしますか」
そんなカウンターかテーブルかみたいに聞くんだ……。あいつこの状況を楽しんでるだけだな。
ケインの説得?により二年生は帰っていった。
「放課後、一グループ毎に決闘を行うことになったぞ」
「まぁ、普通に考えて一遍にやりたい人はなかなかいないんじゃないか」
多分彼らは二年生の面子的なものを重要視しているだろうし、多人数で戦って勝っても体裁が悪いだろう。
「すまないが今日も放課後の見回りはケインとレインだけで行ってくれ。私も終わり次第参加するが、それなりに時間がかかると思う」
『
戦闘時間が短くても後処理に時間がかかる。最後の人を倒し終わったら一人目が起きたりして再戦、なんてこともあったし。
「分かった。まかせてくれ。負けるとは思わないけどアインも気をつけろよ」
「二人の方も気を付けてくれ。この活動は生徒会からの許可ももらっていない。俺達が勝手にやっていることだ。当然何があっても自己責任になる」
「大丈夫だって。君ほどじゃないが俺とレインも一応、模擬戦の成績は優秀だからな」
それもそうか。彼等なら同級生は勿論、二年生でも苦戦はするが倒せるだろう。
「いつもありがとう。私が勝手にやっていることを手伝ってくれて」
「全然構わないよ。俺達もしたくてやってるしな。レインがこの前言ってたよ。アインみたいな誇りを持った誠実な貴族は今まで見たことないって。
俺もそう思う。目の前で起こっているいじめすら見て見ぬふりする人が多い世の中で、ここまでする奴は君だけだ。そんな君だからこそ俺達は影響を受けて、自分の意思でいじめを止めれるようになったんだ」
ケインが、照れくさそうに笑みを浮かべた。
ちくりと胸に痛みを感じる。
彼らの行動こそまさしく誠実で正しいものなんだろう。俺みたいな偽善とは違って。
「ケイン――「タレント伯爵家子息はいるか?!」
「おっとまた来たみたいだ。とりあえず放課後頑張れよ!」
ケインは再び二年生の対応をするため扉の方へと走っていった。
〇
倒れた生徒を訓練場の端にのける。
これで今日は7人目だ。
「いやー惜しい所までいったんだけどなぁ」
「ルーマルでも駄目だったかー。オッズ的に良かったんだがなぁ」
「次の挑戦者は誰だー」
4日目にもなれば噂になりかなりのギャラリーがいるようになっていた。
オッズとか良くない言葉聞こえたけど、もしかしなくても賭けてるよな、お前ら。
「次」
と言うと訓練場の入り口から生徒が入ってくる。
「俺の名前は――「あー、そういうのはいらん。俺に勝てたら言ってくれ」
「それじゃあ、聞かせてやるよ!」
そう言うと不良生徒は【俊脚】で間をつめる。そして【一文字斬り】を放ってきた。俺が回避をするとそのまま【十文字斬り】、【風車】へと繋げていく。
【一十車】程度のコンボなら使える生徒が多くなってきた。俺は回避しながら彼らの狙いを考える。間違いなく俺に挑む生徒が日に日に強くなっている。まるで誰かが俺の強さをはかっているみたいだ。
それに四日も続けばおかしいことに気付く。確実に誰かが俺に不良生徒を仕向けている。
今度は俺から【一十車】を仕掛けるが防がれる。【一十車】の防ぎ方を知っているということは誰かに強化されて一時的に使えるようになったわけでなく、自力で修練しているみたいだ。魔王軍のスパイに誑かされている線は消えたが……
今度は【Xスラッシュ】、【鎧貫き】、【三日月斬り】のコンボを彼に仕掛ける。【Xスラッシュ】は何とか防いだが残りの剣技は防ぎきれず怪我を負っている。【
「だいたいわかった。お前はもういい」
俺は【竜首狩り】で相手を倒す。
倒れた生徒はまだ意識があり俺に話しかける。
「ふっ、そうやって粋がれるのも俺までだ……なにせ次のお方はあの『人剣連合』の幹部だからな」
そう言うと彼は完全に意識を失った。
俺は彼を訓練場の端にどける。
「次」
入ってきた生徒に俺は目を見開いた。制服の色が違う。つまり彼は三年生だ。
「俺は『人剣連合』の幹部。ゴルグだ。一年坊主相手をしてやる」
どうやら前の生徒の苦し紛れの発言は本当だったようだ。
俺はにやりと笑う。
ようやく、
〇
「レイン、逃げろ!」
「逃がすわけないだろう」
ケインがレインの前に立ち、目の前の男に剣を構える。逃げるよう指示を出すが、彼らの背後は複数人の三年生がたっており逃げ出す隙はなかった。
「安心してくれたまえ。私はすこしお話をしたいだけだ。あの噂の一年生についてね」
彼らの目の前にいる男は、近くに立っていた生徒を四つん這いにさせる。そして生徒の背中に座った。
「ああ、自己紹介が遅れたね。俺はデント。プラザイ侯爵家子息のデントだ。一応『人剣連合』の統領をしている」
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