メアリス・ブリアンの独白/第八話 うわっ、俺の才能、ありすぎ……


 決して舐めていたわけではない。


 私は自分の手から離れていく木剣に目もくれず、目の前にいる男子生徒を見つめる。

 源流剣術の奥義の一つ。【百花繚乱】。この技をうち破ったものは今までで師匠だけだ。その師匠も技をうたれる前に倒すという方法であり、正面から真っ向勝負で打ち破ったのは彼が初めてになる。


「拾ってください。2分が経ちました。そろそろ本気を出しても良い頃合いでは?」

「驚いた。本当に君、強いのね」


 彼は私に対して攻撃しなかった。

 彼が始めに言った言葉を思い出す。「入学試験で使った三つの竜王流剣術、今までの模擬戦で使用していた4つの源流剣術をすでに見ていて対策している」と言っていた。


 彼が望むのは全力の勝負。[竜王流剣術]を使った私との勝負なのだろう。

 だったら、誠意をもって私の全てをだしきるまで!


「もう、出し惜しみはしないわ。竜王流剣術参る!」


 腰を落とし低い体勢で木剣を構える。そして魔力を解放した。

 [竜王流剣術]は多大な魔力で身を纏うことで防御しながら、剣戟に合わせて魔力を放出することで攻撃する。遠近攻防全てを兼ね備えた剣術だ。しかし、扱うには膨大な魔力を必要とするため限られた人にしか使えない。


 私は先ほどよりさらに速い【俊脚】で彼に距離をつめる。今までの【俊脚】と比べてより速くなったのは、魔力を纏うことで身体強化魔法自体が強化されているからだ。


 正面から突進と共に彼を斬りつけるがそれはフェイント。当たる直前に特別な足運びにより、速度を落とさないまま彼の真横へと瞬時に移動し斬り上げる。


「【竜首狩り】!」


 私はまだ未熟なため[竜王流剣術]は剣技を口に出さないと成功させることができない。ドォンという音と共に剣を振るった余波で土埃がまう。

 しかし彼は当然のように剣で受け止めていた。


 しかし、これは想定内だわ。


 【竜首狩り】は入学試験のゴーレム戦でも見せた技。彼の言う通り対策したのだろう。しかしここで重要なのは彼が避けなかったということ。【竜首狩り】は彼の真横へと移動する。しかし左右のどちらに移動するかまでは分からないようだ。だから彼は避けることができなかった。これなら【剣パリィ】を決めることも難しい。


 私は剣を持つ右腕にさらに大量の魔力を纏わせる。


「【竜尾撃】!」


 単純な横への一閃。だが先ほどまでのものとは違いこの一撃は重い。まるで竜の尾の一撃のように。

 彼はこれも剣で防ぐが後方へと吹っ飛ばされる。いや、違うわね。自ら後ろへと跳ぶことで衝撃を和らげている。


 しかしこれで距離が取れた。距離が取れたら再び彼に【俊脚】で近づいて……


「【竜首狩り】!」

 これもまた剣で防がれる。それなら再び……

「【竜尾撃】!」

 で彼と距離を取る。


「【竜首狩り】!【竜尾撃】!」

 防がれる。

「【竜首狩り】!【竜尾撃】!」

 防がれる。

「【竜首狩り】!【竜尾撃】!」

 防がれる。


 駄目だ。何度やっても彼は隙一つ見せない。それに彼ほどの実力者ならそろそろ技の隙をついて攻撃ができるはず。どうやらゴーレム戦で見せた技では攻撃をするつもりはないらしい。


 でも、この技でも防げる?

 私は両手で剣を持ち構える。


「【桜竜斬】!」


 竜が通り過ぎた後に散る桜の花びらのように、大量の魔力の斬撃が私の周りに降り注ぐ。

 しかし、彼は私が構えた瞬間に安全地帯へと移動していた。安全地帯とは私のすぐ近く。半径1m以内だ。


 ゴーレム戦でも一度しか見せていない【桜竜斬】ですら弱点が看破されている。そしてこれほど近づき私が隙をさらしているというのに、攻撃しようとせず次の攻撃を警戒しているのが不気味だった。


 【桜竜斬】の斬撃がなくなると彼は再び私と距離を取る。

 おそらく彼はまだ見ぬ【竜王流剣術】を警戒している。

 私はいたたまれなくなり彼に謝罪する。


「……ごめん」

「何がですか?」

「あなたが想定しているより私は弱い。私が使える[竜王流剣術]は元々4つ。そのうち3つを完全に対策しているあなたには、残りの1つしか勝ち目はないわ。だから、次の一撃に全力をのせる」

「なるほど」

「もしこれを避けれたら君の勝ちでいい。でもどうせなら最後に君の剣も見せて」

「わかりました。受けて立ちます」


 私は剣を腰にそえ居合の構えを取る。


「竜王流剣術奥義【画竜】」


 そして高速の横への一閃を360度全方向にはなった。

 全方向の壁に大きな亀裂が走る。


 彼の姿は見えない。上に跳ぶことで避けたのだろう。

 それに対し私は剣技の勢いにより彼に対して背を向け隙をさらしていた。

 彼ならこの隙を逃さず先ほど言った通り一撃を入れてくれるはずだ。


 しかし、奥義はこれでは終わらない。


 竜王流剣術奥義の一つ【画竜点睛】。

 これは高速の抜刀による全方向への一閃。そしてこれを避けられた場合、敵に背を見せ隙を作ることで攻撃を誘い、振り返りながら再度前方に一閃を放つ。二連撃の居合。


 彼との会話も攻撃させるためのブラフ。見えないが彼が【俊脚】で近づいてくる気配を感じ取る。


 私の奥義はまだ終わっていない!


「【点睛】!」


 私は深く集中することで周囲の動きがスローモーションのように感じることができていた。


 振り向きながら彼を確認する。やはり近づいている。そしてこのタイミングなら彼の一撃より速く私の剣が彼に当たる。私は彼の胴へと横に一閃するが、彼の動きが不自然に曲がった。

 【俊脚】の勢いのまま私の一撃の範囲外、真横へと移動していく。

 

 この動きは……


「【竜首狩り】」


 彼の一撃が私の背中に当たり空中へと吹っ飛ぶ。なんで君がその技を…と疑問に思うまま意識を手放した。



「勝者!アイン・タレント!」


 俺の一撃が彼女に当たると、先生は勝敗を言いすぐにメアリスの元へと駆け寄った。そして彼女が地面に落下する前に受け止める。

 そして俺達にこの場で待機するよう言いながら、回復魔法をかけながら保健室へと走っていった。


 一方、生徒たちはというと歓声が上がっておりアインコールが続いていた。俺が手を上げるとさらに歓声がわく。拍手が起こる中生徒たちの方へと行くとケインとレインが話しかけてくる


「す、すごいです!すごすぎます!」

「俺は君が勝つと思ってたよ!アイン!やったな」

「ありがとう」


 俺は友人たちに素直に感謝する。褒められるとやはり嬉しい。


「一撃で倒すなんて圧倒的じゃないか」

「いや強かったよ。[竜王流剣術]を使われてからは隙が全然無かった」


 彼女へのフォローも忘れない。

 と言ってもあれだけ彼女の剣技を見れば彼女が弱いなんて思う生徒はいないと思うが。そしてそんな彼女の攻撃を全て防ぎ一撃で倒した俺はさらに強いと思うことだろう。


「でも最後に君が使った剣技も確か[竜王流剣術]だったよな。いつの間に修得してたんだ」

「あれはえっとー……」


 言い訳を考えていなかった。


 ゲームでは剣術スキルの修得条件は主に二つ。

 まずは道場で教えてもらうか、敵が使用したりするところを見る。

 たったこれだけだ。そうするとステータス画面でほしい剣術スキルにスキルポイントを使用して修得することができる。


 本来なら修得したい流派の道場へと通い長い間鍛錬を重ねることで修得できるようになる。よって、ゲーム内でプレイヤーは一度見ただけで一瞬で剣技を修得する大天才として扱われていた。


 ここで悪役貴族アイン・タレントの設定を振り返る。ソースは公式攻略ガイドブックだ。


『悪役貴族アイン・タレントは幼いころから人より早く魔法や剣技を修得し神童と呼ばれていた。その才能は主人公と同等の物であったが、戦闘センスはなく本人もその才能に驕って鍛錬を怠ったため基礎スキルも修得できていない。』


 というものだ。実際彼のボス戦では一切の基礎スキル、源流剣術は使用されず、使ってくるのは燃費の悪い奥義のみだ。


 これは逆を言えば彼は基礎的な剣術を修得するより早く奥義を修得したことになる。プレイヤーと同じだけ才能があるという設定は確実に再現されていたのだ。


 つまり何を言いたいかというと、俺は一度見たことのある剣技を修得することができるということだ。ゲームのように一瞬とまではいかないが、きちんと観察し鍛錬を行えば使えるようになる。


 むしろこんだけ才能あって序盤ボスにしかなれないゲーム内の俺の方が悪いだろこれ……


「前世から……かな」

「なんだよ、それ。アインも冗談言うんだな」


 俺が答えた内容にケインとレインは笑っていた。

 冗談ではなく本当のことなんだけどな。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る