第七話 オンライン対戦では常識だからこれ
「どちらがリーダーか相応しいか決めるのは、模擬戦の結果で決めるというのはどうでしょうか。まだ私は彼と戦ったことがないため戦ってみたいです」
メアリス・ブリアンはゲームでは最初は大人しい性格だった。しかし、それは悪役貴族アインに一年間いじめられた結果であり、プレイヤーと仲良くなっていくと彼女は本来の性格である誰とでも仲よくなる積極性とやさしさ、そして勝負事では負けず嫌いな一面が見られるようになる。
今の彼女は俺にいじめられていない。つまり後者の性格をプレイヤーだけではなくクラスメイト全員に見せていることになる。
「先生、私からもいいですか」
クラスメイト達が興奮する中、俺は手を上げる。
講師は頷いて俺の発言を許可した。
「折角クラスリーダーを推薦していただき恐縮ですが辞退したいと思います」
皆から「えー」という声がもれる。
「しかし、模擬戦の提案は受けましょう。先生、これでもいいですか?」
皆が「うおおおおおおお」と叫んでいる。
「私は本人のやる気がないのにリーダーをさせるつもりはない。しかし、なぜ辞退したいかは聞いてもいいか?」
「他に集中したいことがあるためです」
クラスリーダーになるのは確かに自身にとっても良い評判となるだろう。しかし来年、面倒なことになる。二年生からはゲームの主人公が転入してくる。ストーリーでは彼がクラスのリーダーになる予定だ。
そうなると前年度のリーダーだった俺と余計ないざこざが起こる可能性がある。それは避けたい。
それにクラスリーダーのメリットは、学期末に行われるクラス対抗戦で活躍できるくらいしかない。しかし、その時に活躍しても意味がない。なぜなら俺の予定では来月には生徒会に入っているため、その時には自身の評判について気にする必要がないからだ。あくまで評判を気にしているのは生徒会に入るためだ。
長期的に見たらデメリットの方が多いだろう。だからここでの最適な行動はクラスリーダーを辞退しつつ、模擬戦ではしっかりと勝つ。リーダーではないがクラスで最強であることは見せる。裏のリーダーとして評判を上げることが望ましい。
〇
『転移物語-煌都学園魔王討伐部-』ではストーリーとは別に、全国のプレイヤーとオンライン対戦ができる機能があった。武器や魔法に制限はなく似たようなレベル且つレート帯の人と対戦することができる。
当然俺も発売当初からオンライン対戦に潜っており、界隈ではそこそこ名が知られる程度にはやりこんでいた。対人戦はゲーム本編のボスとは違い、幅広いスキルの知識と動体視力、敵の戦闘の癖を見極める力が必要になってくる。ある意味でゲーム本編より難しく面白いものとなっている。
なおそんな猛者が集まるオンライン対戦のプレイヤーでも裏ボスを倒すトロフィー実績は一割程度。無理ゲーすぎだろ、会長。
それはともかく模擬戦の話に戻ろう。
普段模擬戦は訓練場を4つの仕切りで分けて、それぞれの場所で行うようにしている。しかし、今回はクラスメイト全員が講師にお願いし特別に訓練場全体をつかえるようになった。
これはかなり嬉しい。
オンライン対戦と似たような環境だ。
なお、持っている剣は両者とも木剣だ。当たり所が悪ければ死ぬかもしれないと思うかもしれないが、魔法剣士は常に魔力で体を覆っているため木剣程度では死にはしない。普通に怪我はするが。
「始めにルールを再度説明しておく。制限時間は5分。お互いに致命となりうる攻撃を当てることは禁止される。多少の傷は後で魔法で治せるが戦えないと思ったらすぐに申告するように。また5分間で勝敗が決まらない場合は私が判断する。分かったか?」
「「はい」」
「お互い離れて定位置につくように」
離れる前に彼女から声をかけられた。
「アイン、ありがとう」
「何がですか?」
「君がリーダーを辞退することも私との勝負を受けてくれることも予想していなかった。だから……嬉しい」
答えになっていない。が、言いたいことは分かる。
言葉足らずな一面も彼女らしかった。
「フェアじゃないので教えておきます」
「ん?」
「私はメアリス嬢が入学試験で使った三つの竜王流剣術、今までの模擬戦で使用していた4つの源流剣術をすでに見ています」
「それがどうかしたの?」
「しっかり対策してるということです。少なくともその技は俺には効きません」
俺は彼女から離れ定位置に立つ。
彼女も離れていき木剣を構えた。対する俺は特に構えない。
失礼にならない範囲で煽れるだけ煽った。
全力の彼女に勝たないと意味がない。
「始めっ!」
掛け声と同時に【俊脚】で彼女が距離をつめてきた。俺は特に動かず彼女の攻撃を待つ。
まずは様子見だろうか。剣技を使うことなく俺に向かって剣を振るう。
【俊脚】の勢いを乗せた振り下ろしを俺は体を横に回転させ最小限の動きだけで避ける。彼女も予想していたのかすぐさま袈裟斬りで斬りつけようとするが、これもバックステップで彼女の剣の範囲から逃れる。
彼女は俺に対し正面を向きなおし今度はしっかりと両手で剣を掴む。そして何度も斬りつけるが俺に当たることはない。
右、上、袈裟、突き、左、右と瞬発的に剣の方向を思考する。
このパターンなら……次は右からの袈裟斬りだな。
俺はこの模擬戦で初めて剣を動かす。彼女の剣を防御しようとしつつ当たる直前で高く打ち上げた。彼女の剣は手からすっぽ抜け宙を舞いカランと音を立てながら地面に落ちる。
【剣パリィ】。その名の通り剣で行うパリィだ。盾と比べて発生が遅いため使い所が難しいが、予想しやすい攻撃にはあてることができる。
「拾ってください。続けましょう」
彼女はパリィされた瞬間、【俊脚】で俺から距離を取っていた。その判断は間違っていないが、まだまだ戦闘が甘い。
直剣で通常攻撃ぶんぶんふりまわしていたら、そりゃあパリィを取られる。【俊脚】で距離をとっても、本来なら詰められてコンボを決められることは必須。ゲームのオンライン対戦では常識だ。
彼女は木剣を拾い再度構える。
そして【俊脚】を使い再度距離をつめる。
そして今度は真横からの斬りつけを放つ。しかし先ほどより明らかに速い一撃だ。
これは【一文字斬り】か。俺は最低限のバックステップで避けつつ、次の剣技に合わせて避ける体勢を整える。
彼女は【一文字斬り】が避けられるとそのまま回転し【十文字斬り】を放つ。当然予想していた俺は、横と縦の斬撃を避ける。高度的に【風車】には繋げられないだろう。
【十文字斬り】を避けられた彼女は体勢を変える。あの予備動作なら次に来るのはおそらく【Xスラッシュ】。普通なら【鎧貫き】に繋げていくが、彼女は今までの模擬戦の傾向的にもう一度【Xスラッシュ】を放つだろう。【
おそらくだがまだ【鎧貫き】か【三日月斬り】を修得していないのだろう。
予想した通り彼女は連続で【Xスラッシュ】を放つが当然これも俺は避ける。
彼女は再度【一文字斬り】を放つ。何度やっても同じことだ。俺はバックステップで避けようとするが、彼女はそれに合わせて剣技を放つ。
あの構えは【百花繚乱】。必殺スキルと呼ばれるスキルゲージを使って放つ特別な剣術スキルだ。源流剣術の奥義の一つ。
計十方向からの連続斬撃。ゲーム発売当初、オンライン対戦でも猛威を振るった剣技だ。しかし、その対処法も既に編み出している。
「【百花繚乱】!」
右上、左上、背後、横、左後ろ上、正面上、右後ろ下、右下、左下、正面突きの順番だ。次々とくる斬撃を俺は易々と剣で防いでいく。そして十個目の正面突きに合わせるように【剣パリィ】を行った。
【百花繚乱】の斬撃パターンは決まっている。9番目の斬撃までは魔力による斬撃だが、最後の正面突きは実体の剣で行われるのでそれに合わせてパリィが可能だ。
ゲーム内ではタイミングに合わせたジャストガードを9連続で発動させ、最後にバックラーで【パリィ】が可能だと分かり、【百花繚乱】はオンライン対戦で姿を消すことになった。ちなみに、発見したのは俺だったりする。
ジャストガード9連続は最初は難しいが、慣れれば音ゲーの要領でタイミングを体が覚えるようになる。
本来なら【剣パリィ】は発生が間に合わないが、この世界はゲームと違って剣技にもかなり自由に動かすことができる。ジャストガードしながらの【剣パリィ】はしっかり裏で練習していたため安定して行うことができるようになった。
再び剣が宙を舞いカランと音を立て落ちる。さっきと違うのは、彼女が驚きのあまり距離を取れていないことだ。そんな彼女に剣を振るうなど無粋なことはしなかった。
「拾ってください。2分が経ちました。そろそろ本気を出しても良い頃合いでは?」
「驚いた。本当に君、強いのね」
彼女は歩いて木剣を拾いに行く。
拾うと同時に腰を落とし低い体勢で木剣を構えた。
「もう、出し惜しみはしないわ。竜王流剣術参る!」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます