優等生編
第六話 やっぱり彼女は因縁の相手
入学式から一週間がたった。
あの後、アムストラクト会長と話す機会はなかった。
彼女は生徒会長になりまだ1か月しか経っていない。
生徒会の主要メンバーを手懐けている最中なのだろう。
生徒会の主要メンバーはどの人もキャラクターが濃いし、良い意味で貴族らしくない。今後、組織改革などを積極的に行っていくことは明らかなので忙しいに違いない。しかし、彼女なら容易に職務をこなしていくはずだ。一年生の新メンバー勧誘は早ければ一カ月後から始まるだろう。
よって俺が動くのも一カ月後からだ。勿論、すぐに動けるよう今から準備などは行っていく予定だ。
とりあえず今は静観。おとなしく期待の優等生でいよう。
「アイン、少しいいかな」
時刻は昼休み。昼食を終え教室で読書のふりをしながら今後の予定を考えていると声をかけられた。クラスメイトの男子であるケイン・アウフトリット伯爵家子息。クラスで初めてできた友人だ。
「ケインか。どうした?」
「この後の授業は模擬戦だろ?先に行って組み手をしないか。この前、君にやられた剣術を自分なりに再現してみたから見てほしいんだ」
彼とは気軽に話し合える程度には仲良くなった。タレント家と同じく伯爵家であることも話しやすい要因の一つだ。
「構わない。ただその前に一人だけ一緒に連れて行ってもいいか?」
「勿論」
俺は立ち上がり教室の後ろの方へ行く。一番後ろの真ん中の席ではメアリスが惰眠を貪っていた。
俺は彼女の方へと歩いていき、通り過ぎる。当然連れていきたい相手は彼女ではない。俺は一番端の席に座っていた女子生徒に話しかけた。
「レイン・シュヒタン男爵令嬢殿。少しいいかな?」
「は、はいい!あ、アイン・タレントは、伯爵家子息殿!な、何でしょうか!?」
彼女はおどおどしながら言葉を返す。言葉もたどたどしく、偶に声が裏返っていた。話しかけられると思っていなかったようだ。
「アインでいいよ。その代わりレインと呼んでもいいか?」
「そんな、畏れ多いです!アイン様に気軽に話すなど」
「確かに私は伯爵家だが、私たちはクラスメイトじゃないか。社交界などの公共の場でならともかく学園内なら気軽に話そう」
「で、でも……」
普通、目上の貴族がここまで言った時は断るほうが失礼に当たるのだが……。彼女の性格的な問題か。
「難しそうなら呼び方だけでも変えてくれたらいいよ。ほら、いちいち家名まで名乗っていたら仰々しいだろ。それでいいか、レイン」
「わ、分かりました。アイン殿と呼ばせていただきます。それで私なんかに何の御用でしょうか」
思った以上に引込み思案な性格だった。ようやく本題を話せる。
「次の授業は模擬戦だろ?ケインと先に訓練場へ行って組み手をしようと思ってるんだ。レインも一緒にどうかと思って」
「そ、そんな!私みたいな木っ端が邪魔することはできません!」
木っ端て。彼女の中の劣等感はかなり高いようだ。
「邪魔なんてことはないよ。それにこの前模擬戦しただろ?その時から思っていたんだが、今日ケインとやる組み手で使う剣術はレインにも合っていると思うんだ」
「アイン殿やケイン殿が使う剣術は私なんかが使えるわけありません!」
「まぁまぁ、源流剣術だから練習すればだれでも使えるよ。とりあえずいこう!」
俺は彼女の手を取って少し引っ張る。彼女は急いで立ち上がりついてきた。
引込み思案だが押しには弱いのか。悪い男に騙されそうだ。俺みたいな。
俺達はケインの元へと行く。
ケインとレインが軽く挨拶をし(とても時間がかかった)訓練場へと向かう。
向かう最中に3人で雑談をしていた。
「それにしても良かったんですか?本当に私なんかが」
「俺は勿論!だがアインがなぜレインを呼んだか気になるな」
「ああケインが練習したいと言ってた剣技って【鎧貫き】のことだろ?レインはレイピア使いだし使えるようになったらもっと強くなれると思ったんだ」
「さすが主席は考えることが違うね。授業が始まって一週間でもうクラスメイトに教える余裕があるとは」
「余裕があるわけではないけど、今後皆とは長い仲になるだろ?みんな一緒に強くなる方がいいに決まっている」
当然、嘘だ。正直クラスメイトなんてどうでもいい。ゲームでの主要キャラは各クラスに一人ずついる。Aクラスではメアリスがその立ち位置にいるため、彼女以外は全員モブNPC。サブクエなどで話せる機会はあるがほとんどストーリーに関係がなかった。
勿論、学園後のことを考えると彼らと縁があるに越したことはないが、そんなことより今は生徒会に入ることが最優先事項。
彼等との仲良しごっこは本来もっと後にするはずだった。当初の予定ではクラスメイトとあまり関わろうとしない寡黙な優等生を演じる予定だったのだが――
「アイン殿とブリアン子爵家のメアリス嬢はクラスの中でも別格です!
自身じゃなくクラスメイトにまで気を遣うなんて……」
「確かにブリアン嬢もアインと同様面倒見が良いよな。君同様彼女も俺達とは強さの格が違うし何か君も通じるところがあるんじゃないか?」
俺は愛想笑いをしながら、心の中で彼女に悪態をつく。
メアリス・ブリアン。本当に厄介だ。彼女は思った以上に早くクラスの中心になりつつあった。それこそ、主席の俺を追いやる程にだ。
彼女は休み時間を寝て過ごすなど自由な性格で貴族らしくない。しかしその分、フレンドリーで模擬戦後などは積極的にアドバイスを送っていた。その甲斐もあり多くの生徒と仲良くなりクラスのアイドル、マスコット的ポジションを確立していったのだ。
彼女のようになりたいわけではないが、生徒会に入るためにも評判はいる。当初は強さで評判を確立していく予定だった。当然俺はメアリスより強い自信があったため問題ないと思っていたが、クラスメイトみたいな弱者からすれば俺とメアリスは強さの格が違いすぎてどちらが強いか分からなかったようだ。
俺は予定を変更し彼女と同様、クラスメイトに優しく強い優等生の地位を目指すことが必要になったわけだ。
「俺はアインがレインを呼びに行くときてっきりメアリスさんに声をかけるのかと思って焦ったよ。ついに因縁の二人が戦う姿が見れるかもしれないと思って」
「ははは。そんなことはないよ。メアリス嬢とはなかなか話す機会がなくて仲良くなれていないけど、因縁だなんて思ったことはない」
関わりたくないって言うのに厄介な女だ。ゲームのストーリー的にもそうだが、彼女とは相性が悪い。今の俺の性格は前世の俺と現世のアインとしての私が混合しているのだが、悪役貴族アインの性格の部分が彼女を嫌っている。やはり、あのいじめは起こるべくして起こったのかもしれない。
勿論俺はそんなこと起させない。今後も彼女とは極力関わるつもりはないし、戦うなんてもってのほかだ。
〇
「模擬戦を行う前に決めておきたいことがある」
組み手が終わり模擬戦の授業が始まると、クラスメイトが集められて担当の講師から話があった。
「今週中にクラスのリーダーを決めてもらう。主に模擬戦、学園行事においてクラスをまとめる役職だ。誰か立候補する者は――」
「はい!」
と手を挙げたのはケインだった。
「ケイン、立候補するのか?」
「いえ、俺はしませんがその代わり推薦したい人がいます。タレント伯爵家子息アイン殿です」
おお。という声がクラスメイトから上がる。彼とは同じ伯爵家だ。同じ階級の貴族を推薦することは珍しい。
しかしクラスメイト達は納得する生徒も多い。なにせ俺は首席合格だ。入学試験の戦闘を見ている生徒もいるだろう。リーダーとして相応しいのはやはり俺――
「はい!私はブリアン子爵家メアリス嬢が良いと思いますわ!」
「え、私?」
今度は別の女子生徒がメアリスを推薦する。当の本人は少し驚いている様子だった。ちょっと待て、これは良くない展開だ。
「他にいないか、そうか。ならどちらがリーダーに相応しいか話し合って――」
俺は最悪の展開を避けるため先生に話しかけようとしたその時――
「先生。私からも少しいいですか」
「ブリアンか。どうした」
「どちらがリーダーか相応しいか決めるのは、模擬戦の結果で決めるというのはどうでしょうか。まだ私は彼と戦ったことがないため戦ってみたいです」
クラスメイト達の歓声がわく。
ほらね、やっぱりこうなると思った。
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