第五話 これは裏ボスに媚びをうっている図
答辞も無事よみあげることができ入学式はつつがなく終わった。
ここからは各クラスに分かれて担任から授業などの説明があるらしい。
俺はAクラスに向かいながら今後の予定について考えていた。
無事首席にはなった。生徒会長からも認知された。後はどう接触するかだが――
「タレント伯爵家子息アイン殿」
後ろから声をかけられ振り返る。すると考えていた本人がそこにいた。
「アムストラクト公爵令嬢閣下。名前を知っていただき光栄です」
「ここは学園。お互い気軽に呼び合わない?私は一応生徒会長をしているので、会長と呼んでいただいて構わないわ。そのかわり君のことも敬称を着けずに呼ぶが構わないかしら?」
光輝いて見えるように美しい銀髪。誰もが見惚れる容姿。顔を合わせるには今の俺には見上げなければならないほど背が高くスタイルも良い。絶世の美女がそこにはいた。
まったく天はあまりにも不平等だ。権力、才能、容姿。彼女は全てを持ち合わせているのだから。
「ありがとうございます。ではアムストラクト会長と呼ばせていただきます」
「君のことは入学試験の時から見ていたわ。君が絶対に新入生代表に選ばれると思っていた」
「入学試験が得意なゴーレムとの戦闘で運が良かっただけです」
俺は一応謙遜する。当然彼女は気づいていると思うが。
「謙遜しなくてもいいわ。あの剣を見れば君の努力と才能は誰にでも分かる。君は首席になるべくしてなった。誇ってもいい」
「お褒め頂きありがとうございます」
計画通り生徒会長からは好感触だったようだ。
どうですか?生徒会に俺を入れてみてもいいのでは?
「君はまだ予定があるみたいだし長話もなんだから単刀直入聞くわ。
きっと君ほどの才能なら
その目的は何?君はなぜ首席になりたかったの?私は君の努力の源泉を知りたい」
キターーーーーー!そうです!それです!俺はそれを答えたかった。
やはり生徒会長!分かっている!
もう、俺が何を言いたいか分かって聞いているんじゃないか?
勿論生徒会に入りたいから!だが、そう答えるのはあまりにも直球すぎる。
もっと別の言い回しにした方が良いだろう。
つまり……
「あなたです」
「え?」
「私の目的はただ一人あなたのためです」
会長は戸惑っているような表情だった。少し言葉が足りなかったか。
「あなたの隣に立つ人になりたい。そのためには最低限首席でないと相応しくないでしょう」
すると会長は俺から視線を逸らす。そしてばつの悪そうな表情でちらちらと俺の顔を見た。
「それはつまり……そういうことよね」
そういうこと?ああ。アムストラクト公爵家の傘下に入りたいということだろうか。
勿論大賛成だ。
「はい!そういうことです!」
俺は勢いよく答える。するとなぜか会長の顔が少し赤くなっているように見えた。
もしかして熱気味なのだろうか。ここは渡り廊下で少し肌寒い気もする。
いつまでも立ち話はしていられないので自分から去ったほうが良いだろう。
俺は最後に胸ポケットにさしていた薔薇を彼女に渡した。
ほんの気持ちですが…と言おうとしたところで思いとどまる。
公爵の相手にほんの気持ちという表現は適切じゃない気がする。
ほんの気持ち程度しか興味ないと軽んじているように捉えられなくもない。
だから適切な言い方は……
「これ、俺の気持ちです。受け取ってください」
「え!こ、これはオーロラローズ!」
流石に会長も驚いているようだ。確かにな。一輪だけでも金貨5枚だ。
そのまま受け取るには高すぎる品物だ。
しかし俺は会長に渡すためだけにこれを買っていたのだ。
『転移物語-煌都学園魔王討伐部-』には今までの転移シリーズとは違いラブコメ要素がある。と言ってもギャルゲーのような本格的な物ではなく、キャラクターにアイテムなどをあげると好感度が上がり、各キャラクターのストーリーを見れるようになる。そして最終的に恋人関係になる程度の物だった。
このオーロラローズは与えるアイテムの中で汎用性が高く最も好感度が上がるアイテムだった。
基本的に各キャラクターにあったアイテムを上げないといけないのだが、オーロラローズだけは誰にあげても好感度が上がるのだ。
ちなみに裏ボスの彼女は攻略キャラクターじゃない。どころか話す機会も全然ないので彼女がどんな性格か、何を好むのかさえ一切の情報はなかった。
急に薔薇を女子に与えてドン引きされないかとも思ったが、どうやらこのオーロラローズには特別な意味が込められているらしい。
ゲーム内で主人公の親友のマイクという男キャラがいるのだが、彼にオーロラローズを渡すとその花言葉を教えてくれる。確か、親友や永遠の友情みたいな意味だったはずだ。
当然、博識な会長ならこの知識も知っているはずだ。よってナンパみたいに捉えられることもない。
「受け取れるわけないでしょう!だいたいオーロラローズの花言葉は――」
「知っています!その気持ちを伝えるためにあなたを思って買いました」
「……っ!ま、まだ早すぎるわ!それに私達初対面なのよ!」
くっ。なかなか受け取ってくれないな。
しかし、受け取ってもらえたらそれだけ恩を売れるということ。
こういう時は勢いだ。
受け取らないことが逆に失礼だと一瞬でも思わせればいい。
「初対面じゃありません。あの時(入学試験の日)に目が合ったじゃないですか」
流石に苦しいか。だって一方的にみられていただけだしな。結局話してはいないし。
「あの時って……まさかあなたも気づいていたの」
しかし、どうやら苦し紛れの言い訳も通用したらしい。よしあとはそれっぽいことでも言って何とか受け取ってもらおう。
「確かにアムストラクト会長の言う通り早すぎるかもしれません。しかし、その花言葉は私にとって将来あなたとそういう関係でありたいという意思の表われなんです。勿論、そのためには私は何でもする所存です。
私のような身分では出過ぎた願いだとも分かっています。当然、会長には選ぶ権利がありますし、この花を受け取ったからといってあなたが俺に対して同じような気持ちであるなんて己惚れるつもりはありません。言うならばこれは覚悟です。
一生、貴方に尽くすという覚悟を受け取ってもらえませんか」
ああ、もう自分でも何を言っているか分からん。
なるようになれ!
俺は深く頭を下げながらオーロラローズを前に突き出す。
深い沈黙が流れた後、手からオーロラローズが離れていった。
つまり彼女が手に取ったのだ。
「……そこまで言われたら受け取らざるを得ないわ。でも勘違いしないで。私はまだ君との関係を認めたわけではないから」
「ありがとうございます!」
よし!とりあえず花は受け取ってもらえた!代わりに俺は生徒会長に一生尽くさないといけなくなったが……まぁなんとかなるだろう。
「精進しなさい」
そう言って彼女は俺の横を通り過ぎていく。
俺はそんな彼女の後姿を眺めていた。
最後彼女はいったいどんな表情をしていたのだろうか。
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