第四話 俺は悪役ではないけど貴族ではあるって話


 入学式当日。


 俺は煌都、つまり学園外の街を歩いていた。

 入学式が始まるまであと2時間程度ある。


 着くのが早すぎたわけではない。

 新入生代表・・・・・として答辞を読む必要があるため、事前のリハーサルに参加する必要があったのだ。


 リハーサルも終わり始まるまで時間があるため少し街をぶらついていた。

 買いたい物があるからだ。


 煌都の中でも最もにぎわっている広場についた。

 中央には大きな噴水があり、それを囲うように円状に店が立っている。


 俺はその中でもある店に入る。


「いらっしゃいませー!ブルームフラワーショップ煌都店にようこそ!」


 店の中に入ると様々な花の良い香りが漂ってきた。

 ここはゲームでも何度か通った店だ。

 俺は店員に話しかける。


「この店で一番高い花を一輪くれ」

「一番高い花……となるとオーロラローズになりますが……」

「そう。それだ。それが欲しかった」


 店員は怪訝な顔をするが俺の制服を見てすぐに花を探しに行った。

 正確には制服についているエンブレムだ。

 煌都学園では貴族は制服に家のエンブレムをつける必要がある。


 店員は始めは俺みたいな子供が買えるわけがないと思っていたようだが、俺が貴族と気づいて判断を変えたようだ。きっとこの街では珍しくないことなのだろう。


 オーロラローズはゲームでは何度も買った花だ。といっても購入欄から一番下にある高い花を買っていただけなので名前を忘れていた。


 店員がオーロラを纏った薔薇を持ってくる。

 俺は受け取るとそのまま胸のポケットにさす。


「お値段は金貨5枚になります」


 高い……初日にしてお小遣いの半分が消し飛んだ。

 今月はこれ以上無駄な出費はできないな。


 花屋を出て学園に戻っているとき、路地裏に入っていく生徒たちが見えた。

 時間的にも新入生だろう。


 ただ路地裏に入るだけなら何も思わなかったが、一人の生徒の表情が見えて俺は足を止める。少し追ってみるか。


 路地裏の道を何度か曲がりさらに奥へと入っていく。

 俺はばれない様に後をつけると話し声が聞こえてきた。


「おい、お前。どうしてくれるんだよ!お前のせいで制服に汚れが付いただろ!」

「そうだぞ!クライナ様に土下座しろ!あと金払え!」

「それとも一発殴られないと分からないか?」


「でも、僕は何も……」

「うるせえ!お前が後ろからぶつかってきたんだろ!」


 どうやら入学して早々、いじめの現場に鉢合わせたようだ。

 俺は隠れていたがすぐに身をだし彼らに話しかけた。


「君たち、何をやっているんだ」

「っ!誰だお前は!」


 現場をじっくりと観察する。


 いじめていたのは3人。当然学園の生徒だ。制服の綺麗さからしてやはり新入生だろう。エンブレムを確認すると…それぞれブラトン子爵、ランガー男爵、ヴェヒター男爵か。


 いじめられていた方をみる。エンブレムがない。つまり平民だ。貴族なら恩を売れるかと思ったがはずれだったようだ。


 それにしても俺に対して「お前」ね。

 貴族にも馬鹿はいる。それもまぁしょうがないのだろう。男爵や子爵、それもまだ子供ならエンブレムの見方が分からない生徒がいてもおかしくはない。


「私が誰かなんてどうでもいいだろう。それより君たちは何をしてるんだ」


「こいつが俺の制服を汚したからな。話し合い・・・・をしているだけだよ。部外者は黙ってもらおうか」

「そうだったのか、それはすまなかった…何て言うと思ったか。

 くだらん言い訳をするな。話し合いで終わらせる気はなかっただろ」


 はっきりとした物言いに下級貴族生徒たちがたじろぐ。

 俺は財布から銀貨を何枚かとりだし彼らの目の前に放り投げた。


「汚れたというなら俺が払ってやる。学園前にあるクリーニング屋で洗ってもらえ。今からなら入学式にも間に合うぞ」

「俺にこの金を拾えというのか?」


 ブラトン子爵家子息が俺を睨みつけてくる。


「ほう、驚いたな。お前には地面に落ちた金を拾うことが屈辱のように感じるのか。私からしたら難癖付けて平民から金を奪い取ることも同じように感じられるからてっきり平気なのかと」


 ブラトン子爵家子息は舌打ちをした。


「はぁ、もういい!いくぞ!」

「ま、待ってくださいー」

「ついていきます、クライナ様!」


 俺に対して手を出すほど馬鹿ではなかったようだ。


 俺は平民の生徒を見る。綺麗な顔立ちだ。一見女子のようにも見えるが制服や声質から考えて男なのだろう。倒れていたが手を貸すつもりはなかった。


 俺は何も言うことなくその場を立ち去ろうとする。


「ま、待ってください!お礼を言わせてください」


 俺は無視をして歩き続ける。

 平民の生徒は立ち上がり追いかけてきた。


「この度は助けていただきありがとうございました!あの、何かお礼を……」


 と言い始めたところで俺は振り返り彼の発言を訂正する。


「勘違いするな。私は君を助けたわけじゃない」

「え、でも……」

「私は貴族の品位を下げたくなかっただけだ。

 勘違いしてほしくはないが、君と私には明確な身分の差がある。君は平民で私は貴族だ。この関係はあいつらと同様に絶対的なものとしてあるんだ。しかし、いや、だからこそ平民なんかをいじめる、金をたかるなんて行為は決してあってはならない。平民とは貴族より下の階級であり弱い者のことを言う。それこそ我々が守らなければならない程にな」


 平民の男子生徒はポカンとしている。うまく伝わらなかったみたいだ。


「要は私は君を助けるためではなく、あのバカ貴族を止めたかっただけだ。

 それこそもし君が平民からいじめられていたら俺は無視しただろう」


 とは言ったものの、もしあのバカ貴族たち3人組が平民だったとしても俺は彼らを止めていただろう。なぜなら、俺はいじめを止めるというスタンスで学園生活をおくるつもりだからだ。


 俺は絶対にメアリスをいじめるつもりはない。しかし、そうなると別の誰かが魔王軍に誑かされ彼女をいじめる可能性が出てくる。そうなった時、彼女と同じクラスである俺も少なからず巻き込まれることになるだろう。それは何としても避けたい。


 そこで常に俺はいじめを許さないという気持ちを出来るだけ周りに表明するつもりだ。首席合格した生徒がいじめを嫌っていると知ったら少なからず抑止力にはなるだろう。


 俺は彼から目をはなし再度歩き始める。

 後ろから彼が大きな声で俺に話しかけてきた。


「良く分からないけど、君が僕を助けてくれたことは間違いない事実です!本当にありがとうございました!

 僕の名前はフェインド!君の名前は?」


 俺は顔だけ軽く振り返り彼を見る。


「平民に名乗るつもりはない……が君も新入生だろう?それなら嫌でも知ることになるさ」


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