第三話 天才は天才でも努力の天才ってわけ、間違えないでねそこのところ


「ここが煌都学園か。実際に見ると大きいな」


 俺は大きな門を見上げた後に周囲を見渡す。

 今日は試験当日。続々と人々が学園へと入っていく。


 その中には見知った顔もいた。当然ゲーム内での話だ。


 試験番号は150番。実技試験は番号順なので丁度真ん中あたりで呼ばれることになる。とりあえず、まずは筆記試験からだ。と言っても筆記試験で一位を取ることはまず不可能だが。


 ヒロインの一人に天才がおり入学試験の筆記は全教科満点だったというエピソードがある。流石に全教科満点を取る自信はないが問題ない。満遍なく高得点を取れば後は実技試験で取り返せる。


 俺は後ろの方の席に座り試験時間ギリギリまで勉強をする。特に歴史はゲーム内で知らない知識も多かった。忘れていないか確認し最後まで油断しない。


 すると隣に一人の女子が座ってきた。俺は横目に彼女の顔を見て驚愕する。


 メアリス・ブリアン!ゲームでの第一ヒロインであり俺の宿敵だ。本来の未来なら彼女が首席で合格することになる。

 むしろこの段階で声をかけ仲良くなろうか、とも考えたがやめておいた。下手に関わると未来が大きく変わるかもしれない。とにかく彼女にはこれ以上近づかない。彼女に対して好意も嫌悪も示さない。無関心こそが最大の拒絶だ。


 結局、彼女は試験の開始時間まで机に伏して眠ってしまった。



「はぁっ!【桜竜斬】!」


 大量の魔力の斬撃がゴーレムに降り注ぎついに動かなくなった。


「終了!」


 実技試験の会場は闘技場。俺はメアリスの戦いを観客席から見ていた。

 流石ヒロインだ。この時点で[竜王流剣術]のスキルを修得している。


「おいおい、見たかよ今の」

「なんて魔力量だ」

「ゴーレムを倒すのに1分もかかってないぞ」


 周囲の受験生も驚き戸惑っている様子だ。

 今まで見ていたがほとんどの生徒はゴーレムを倒すのに5分近くかかっている。


 倒せない生徒だっているくらいだ。


 それも仕方ないだろう。彼らは剣術スキルを修得していないからだ。


 スキルとはゲーム内であった能力の一つ。

 剣術スキルと基礎スキルで分かれており様々な技を使えるようになる。

 そのなかでもヒロインのメアリスは基礎スキルだけでなく[竜王流]の剣術スキルまで修得していた。


 メアリスはブリアン家。代々竜王流の使い手だ。しかし、家に恵まれているという単純なものではない。スキルの修得には本来時間がかかるからだ。

 彼女は俺と同い年で13歳。あまりにも早い。それでいて血のにじむような努力をしたようにも見えなかった。

 胝の無い美しい手、戦闘中も自身が汚れないよう戦う優雅さはまさしく才能だ。


 やはり天才なのだろう。

 筆記試験ではテスト直前まで眠り、実技試験では難なく手に入れた剣術スキルで最速撃破。


 しかし、首席の座は決して渡さない。

 見せてやる。天才にはたどり着けない境地を。



 少しの時間がたち自分の番が来た。


 俺は目の前で組みあがっていくゴーレムを見ながら剣を抜く。


 この半年間。ゴーレムを倒す特訓ばかりしてきた。

 いつも通りやろう。俺は彼女のように派手にゴーレムを倒す必要はない。


 最も効率よく早く、言うならば最適に倒す。よって使うのは汎用性のある基本的なスキルだけだ。


 剣術スキルは源流剣術と各流派の剣術に分かれる。

 源流剣術は基礎の剣術。剣を振るっていれば誰でも修得できるものだ。当然スキルも誰でも修得できる。

 そして[竜王流剣術]などの流派に所属して会得する剣術の方が基本的に威力が高くなっている。


 俺は当然どの流派にも所属していない。

 修得したのも源流剣術のスキルと基礎スキルだけだ。


 しかし組み合わせ次第では――


「それでは試験番号150番の試験を開始します」


 ――こういうことができるようになる。


「始めっ」


 まず基礎スキル【俊脚】によりゴーレムとの間合いを一瞬で詰める。

 狙うのはゴーレムの肥大化した右腕だ。


 使うのは剣術スキルコンボの基本である【一文字斬り】→【十文字斬り】→【風車】のコンボだ。通称【一十車】。


 剣術スキルにはコンボがあり、スキルの終わり際が次のスキル発生と同じ体勢だった時、止まることなくつなげることができる。当然、斬った勢いが加算されて威力も上がっていく。


 まずはゴーレムの右腕に横へ薙ぐ一閃。これが【一文字斬り】だ。その勢いのまま回転して再度横に一閃、さらに回転しながら跳び空中で体を横にすることで縦に斬りつける【十文字斬り】を放つ。ゴーレムの右腕にひびが入るのを確認しつつ、縦に切った勢いのまま空中でさらにもう一回転して斬りつけた。【風車】、現段階の空中攻撃で最も威力の高いスキルだ。


 ゴーレムの右腕を完全に破壊。中に核は……ない。良かった。まだお前には俺の剣術を魅せるという役割がある。


「《ウィンドブースター》」


 俺は魔法を発動させる。本来は突風を起こし走る速度を上げたり相手の体勢を崩す時に使われるものだ。しかし空中にいる場合下から起こすことで再度上空へと跳ぶことができる。


 ゴーレムの頭上へと行く途中に【ジャンプスラッシュ】で頭部を斬りつけてコンボを続けさせる。


「《ウィンドポイント》」


 再度魔法を発動。今度の魔法は簡単に説明すると風の足場を作る魔法だ。本来は移動用の魔法であり、探索中に高い場所へと行くとき二段ジャンプをするために使われるが、戦闘中では壁のようにも使うことができる。ゲームにはなかった要素だ。


 《ウィンドポイント》でできた風の壁を蹴ることで勢いをつけてゴーレムへと跳び下りる。と同時に頭部へと【風車】で斬りつける。その勢いのまま空中で【十文字斬り】の逆をゴーレムの頭の横を通り過ぎながら行った。通常の十文字斬りは横薙ぎ→縦薙ぎだが、風車から繋げられるように縦薙ぎ→横薙ぎの順で行う。そうすることで最後の【一文字斬り】へとつなげることができるようになる。


 言うならば【逆一十車】。


 こういった応用はゲームではできなかった。剣術スキルの発生は決まった方向にしかできなかったからだ。しかし今は現実世界。剣術スキルの斬り方を変えるなんて造作もないことだ。


 空中で振り返りながら最後の【一文字斬り】を頭部に決める。頭部はバラバラに崩壊するが中に核はない。


 核のある候補の残りは体内しかない。しかし俺にとってここまで決まれば勝利は確定だ。


 着地と同時に振り返りながら斜め下からゴーレムの背中を斬り上げる。繋げるように反対の方向から袈裟斬りを放つ。これが【Xスラッシュ】。その終わり際に剣を手から離し瞬時に逆手に持ち替えゴーレムの体へと【鎧貫き】を放つ。剣が完全に止まる直前に再度剣を持ち直し上部へと剣先が弧を描くように斬り上げる【三日月斬り】をすると、ゴーレムの装甲が崩れ核が剥き出しになった。


 しかし【三日月斬り】を放ったばかりで剣先は遠く離れているため【貫通脚】でフィニッシュだ。俺はゴーレムの核へと右足で横から蹴りつける。


 核は砕かれゴーレムは崩壊しながら倒れていく。


 最後のコンボは【Xエクつら三日突みかづき】。ゲーム内での王道コンボだ。絶対に失敗しない自信があった。


 それよりゴーレムの頭を狙うときにはなった《ウィンドブースター》→【ジャンプスラッシュ】→《ウィンドポイント》→【逆一十車】の方が失敗しないか怖かった。これは完全オリジナル技。ゲームにはない俺がこの世界で考え出したゴーレムを倒すため専用のコンボだ。


「しゅ、終了!」


 試験官が驚いた顔で終了の合図を言った。

 しかし誰も声をあげない。人々はざわつくことすらできなかった。


 俺はその静寂を破るように試験官に質問する。


「タイムは?」

「え?」

「ゴーレムを倒すまでの時間はいくつでしたか」

「……9秒…だ…」


 いいね。記録更新だ。ゴーレムなんて雑魚は本来なら適当に剣を振るってたら倒せる相手だ。こんな戦い方はもうすることがないため最後に記録を更新できたのは地味に嬉しい。


 そしてこれは首席確定だろう。なにせ本来主席になるはずだったメアリスがゴーレム討伐に40秒以上掛かっている。テストも全科目9割以上はかたい。


 ほっと安堵した瞬間、急に寒気を感じた。その正体は恐怖。突如現れた強大な気配に恐れを感じた。


 俺は振り向き上を見上げる。そして気配の正体を確認した。


 一目見て分かった。常人とは違う存在感。


 ユリ・スーン・アムストラクト。


 最強にして最上の貴族。俺が最も会いたかった相手。

 裏ボスの生徒会長が俺を見ていた。


 俺も彼女を見つめ返す。そのことに気づいた彼女は少し笑みをうかべその場から気配を消した。


 え、こわ。完全に見えなくなったんだが。


 そんなスキルあったっけ……。いや魔法の方が可能性は高いか。


 何らかのスキルや魔法だとしても発生したことに気づくことすらできなかった。

 今の俺と彼女ではそれだけの実力差があるってことか。


 それよりも見てもらえたことが一番嬉しい。どんな感情を抱いたかは分からないが、明らかに俺だけ他の生徒とは違うと思ってくれたはずだ。


 強いとは思われなくても「ふっ、おもしれー男」みたいな感じで思ってくれないかなぁ。

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