第二話 要は死にたくないから主席になるってこと


『転移物語-煌都学園魔王討伐部-』


 いわゆる転移シリーズの最新作。従来通り現代から異世界に転移した主人公が仲間と共に魔王を倒すといったストーリーだ。今回は学園が舞台であり、青春や恋愛要素もストーリーにかかわってくる。ジャンルはアクションRPG。難易度は非常に高く死にゲーと称されるタイプのゲームだ。


 そんな世界に俺は転生した。

 正確には前世の記憶を思い出したといったものに近い。


 前世の記憶は靄がかかっているようで完全に思い出すことはできない。

 しかし、ゲームに関するものははっきりと思い出すことができた。


 そのゲーム知識を活用してまず初めにすること。

 それが対ゴーレム戦の経験だ。


「今回は講師としてお呼びいただき光栄です。タレント伯爵」

「うちの息子がどうしてもゴーレムと戦いたいというのでな。よろしく頼むよ、ポウぺ宮廷魔法士殿」


 父親が訓練場から去っていく。

 講師の男性と二人きりになり俺は挨拶をした。


「よろしくお願いいたします」

「こちらこそよろしくお願いします。それでなぜゴーレムを?召喚魔の中では比較的に弱い方ですが」

「はい。私は半年後煌都学園に入学するつもりです。その試験対策として今の内からゴーレムと戦闘経験を積みたかったので」

「ほう……良く知っていたね。実技試験の相手がゴーレムだって」


 当然ゲーム知識だ。


 煌都学園は魔法剣士を育てる国最大の学校だ。生徒のほとんどは貴族や商人の子で構成されている。12歳以上の生徒が入学可能であり五年制。入学試験は一年に一回だけだ。


 ゲームの戦闘チュートリアルでは入学試験としてプレイヤーはゴーレムと戦わせられる。チュートリアルなため相手からのダメージはほとんどなく負けることないイベントだ。


 しかし戦闘後試験監督からチュートリアル戦の評価を受けるシーンが入る。

 俺にとってはそこが最も重要だ。


「私はこの入学試験で首席合格せねばなりません」


 入学試験は大きく分けて二つ。筆記試験と実技試験だ。

 筆記試験は分かりやすい。単純に点数がそのまま評価につながるからだ。

 問題は実技試験。ゴーレムとの戦闘で評価される部分については確定情報はない。


 ただしコンボ数やクリアタイム、受けたダメージを総合的に評価しているといわれている。


 試験内容が分かっているのならやることは一つ。傾向把握とその対策だ。

 筆記なら過去問演習。実技なら体に染みつくまで何度も練習するだけである。


「首席合格!大きく出ましたね。お父上から言われているのですか?」

「いえ、私自身で決めました。タレント伯爵家として使命を果たすためです」


 さてそろそろなぜ俺が首席で合格しなければならないかを整理しよう。


 まず俺が学園で絶対に回避しなければならないこと。

 それは悪役貴族の序盤ボスとしてプレイヤーに倒されることだ。


 これだけは回避しなければならない。

 悪役貴族のアイン・タレントは序盤ボスとして倒された後に退学する。そして魔王軍側に寝返り中盤の後半ごろにもう一度出てくる。しかしその時はボスとしてではなく、道中にいる名前付きの強めのMob程度でありあっさりとやられて死ぬ。


 そう、死ぬのだ。


 当然俺は死にたくない。それにその後のことを考えるとタレント家は没落していくことになるだろう。俺には幼い弟もいる。両親にも感謝をしている。そんな家族も苦しませることになるのだ。これだけはなんとしても回避する。


 ではどのような経緯でプレイヤーに立ちはだかるのか。

 ここではヒロインのメアリスが大きく関わってくる。


 時系列順に整理すると…

①まず入学試験でメアリスが首席として合格する。当時、神童だと評価されてきた悪役貴族アインは彼女に一方的な逆恨みをする。

②同じクラスに配属された後もアインはメアリスに一度も勝てず恨みの気持ちがつもり、ついに彼女に魔封じの呪いをかける。

③突然魔力を使えなくなったメアリスは落ちこぼれになり、そんな彼女をアインはいじめるようになる。

④二年生になっても陰湿ないじめは続き、耐えきれずに自殺しようとしていた彼女を突如異世界からきた謎の転入生であるプレイヤーが救う。

⑤プレイヤーとメアリスは呪いの源がアインであることをあばき、プレイヤーは彼に決闘を申し込む。

⑥プレイヤーが勝ちメアリスの呪いは解け、アインは生徒会に処罰されて退学。第二章へと続く。


 こういった流れだ。

 これだけ見ると俺がヒロインのメアリスに呪いをかけなかったりいじめをしなければいいだけのような気がするが、ことはそう単純じゃない。


 おそらくゲームのアインは魔王軍の刺客に誑かされていたのではないかという描写が後々にあるからだ。

 俺自身、前世の記憶を持つ前の『私』が逆恨みだけで呪いをかけいじめをするとは考えにくい。彼女は子爵でありタレント家より低い階級だが、貴族であるというだけで俺は一定の評価を与えるタイプだ。その考えはゲーム知識を得た今でもあまり変わっていない。


 たとえ逆恨みをしていなくても、魔王軍に誑かされたり洗脳されれば同じ未来を辿ってしまう。それにたとえ抵抗できたとしても、そのまま刺客に殺されましたなんて展開もあるかもしれない。


 そこで次に出る案としてはプレイヤー側についてしまうということだ。

 プレイヤーの仲間になる立ち回りをして守ってもらえばいい。


 しかし、この案も俺としては『ない』と考えている。


 なぜなら仲間になった場合、魔王軍と戦わなければならないからだ。

 当然危険が付きまとう。俺はこのゲームをかなりやりこんでいたが、死ぬときは死ぬ。死にゲーとはそういうものだからだ。


 俺はあくまでこの学園にはタレント家の利益のために来ている。

 魔王軍と戦うことは当然利益にはなるが、リスクに対してリターンが少なすぎる。

 プレイヤーが魔王を倒している間、学園で他の貴族と交流していた方がまだ良いだろう。


 そのためプレイヤーの仲間になるルートは俺にとってはずれだ。


 本命は生徒会に入る案。


 生徒会は魔王軍から学園を守るための防衛組織だ。当然、学園を自治する役割も担っている。ストーリーではプレイヤーに情報を教えてくれたり、プレイヤーのいない所で魔王軍から生徒を守っていたりしていた。魔王軍によって学校が占拠された時も活動拠点が生徒会執行室になるなど、学園側の最終防衛ラインとしての役割も果たしていた。


 なにより一番良いのは生徒会メンバーはストーリー中一人も死者を出さないのだ。仲間、魔王軍、一般人など多くの死者が作中に出る中で生徒会は誰一人欠かすことなくエンディングに登場している。


 それもそのはず、ストーリークリア後に生徒会メンバーと戦うことができるのだが、名前なしのモブキャラでさえラストダンジョンに出てくるMobモンスター(クソ強い)並みの強さ。書記などの役職持ちのキャラはラスボス、つまり魔王並みの強さを持っているからだ。そんな強さのメンバーがゴロゴロいるのが生徒会である。その中でも生徒会長の強さは別格。作中最強のステータスでありこのゲームの裏ボスだ。

 いわゆるクリア後のやりこみ要素。エンドコンテンツとして立ちはだかるのが生徒会なのだ。


 皆が人格者でもあるためもし所属出来たら魔王軍から守ってくれるのは間違いない。当然、それだけ強い人と交流を深めることができるのは将来的にメリットとなるし、生徒会に所属していたという実績も自身の箔がつきそうだ。


 そしてなにより生徒会長は公爵家。

 貴族としても最上級に位置するお方だ。今の内から媚びをうっておけば繋がりができるかもしれない。


 生徒会に入る方法は一つだけ。現生徒会メンバーからの推薦だけだ。つまり完全スカウト制だ。


 各メンバーの中でもスカウトする基準は大きく違うが俺が狙うのは生徒会長からのスカウトである。なぜなら生徒会長は入学試験に必ずやってきて全ての新入生の実力を見定めるからだ。つまり入学試験では確実に生徒会長に自分を見てもらえる。そこで優秀さをアピールできればスカウトされる可能性は高くなるだろう。


 よって首席だ。これほど分かりやすく自分が優秀であることをアピールできるものはないだろう。


 長くなったが要は『首席になって生徒会にスカウトされて最悪な未来を回避しつつ、裏ボス兼生徒会長に媚びをうって大成しよう!』というわけだ。


「どうしましたか?急に黙り込んで……」

「あ、すみません。少し考え事をしていました」


 講師を呼んでいたことをすっかり忘れていた。

 まずは目の前のことから一つずつしていこう。目的は二つ。半年後の試験までゴーレムとの戦闘経験を積みまくる。同時にゲームではない現実世界での戦闘にも慣れる。


 俺は腰にかけていた剣を鞘から抜く。


「ポウぺ先生、早速よろしくお願いします」

「分かりました。見せてもらいましょうか、神童の実力を」


 目の前で岩が浮かび上がり人の形を形成していく。

 さて、戦闘開始だ。

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