第7話 結局は惚れたものが負け
あまりにも酷い仕打ちに、人間不信に陥りそうだ。頭がクラクラして眩暈がする。
こんなの無理、コイツら……俺の常識を超えている。
流石のリスナーもドン引きらしく、辛辣な言葉が連なっていた。
——KEIに同情する
——これはやり過ぎ。落ちる、サラバ
——琉衣タン、君はKEIの味方だと信じていたのに
俺ももう無理。これ以上、コイツらと一緒にいたくない。
「リスナーの皆、今までありがとう」
カメラを落としてパソコンの電源を落とした。椅子に掛けていたパーカーを手に取って、俺は部屋を出ようとした。
「なっ、何をしてるんだよ、ザコ慶太!」
もうお前らと同じ空気は吸えないんだよ。
グッと下唇を噛み締めてドアノブに手をかけた。
「——俺は一生、お前らのことを忘れない。一生、恨んでやる」
睨みをきかせた渾身の殺意なのに、肝心の二人はまるで他人事のような反応を見せていた。
カナエは「ザコ慶太のくせに生意気なー」っと小馬鹿にした反応。そして琉衣は光悦した表情でうっとりとトリップしていた。
「ふふふっ、その顔です。その顔が見たくて慶太くんをいじめていたんですわ♡」
もうその反応は見飽きたよ。騙されない……もう嫌だ。
俺がそのまま出て行ったらカナエは分かりやすく取り乱して、琉衣は勝ち誇ったように笑みを浮かべていた。
「お、お嬢様? よろしかったんですか?」
「………ふふふっ、そんなこと聞くまでもなくてよ?」
——やり過ぎた。
まさかここまで酷い結果になると思わなかった。
「うわぁぁぁぁぁぁぁぁん! まさかこんなに打たれ弱いなんて思わないじゃない! どうしよう、どうしよう! せっかく会えるようになったのにィィィ!」
前も同じようなことで失敗してる!
どうして慶太くんのことになると冷静になれないのだろう?
琉衣は嘆いた。もう救いようがない結末だ。
でもあの顔は堪らない……あの顔を見る為なら、私はまた同じ失敗を繰り返すだろう。
「カナエ、あなたのせいだわ! あなたが来たせいで私はいつも取り乱すのよ!」
「そんなお嬢様! 私のせいにされても困ります!」
「嫌よ、嫌よ! 慶太くぅーん‼︎」
そんな琉衣の泣き喚く声が廊下まで響き渡っていた。
「どうしよう……戻ろうにも戻れない」
そう、そもそも琉衣を懲らしめようとあんな企画をした俺が悪いのだ。彼女が謝ってきた時点で許せばよかったものの、魔が刺した俺が悪かった。
「けど、あの仕打ちはないだろう! 人の良心につけ込んだ仕打ち!」
なのでお互い様……そう、お互い様ということで水に流すのが一番なのだろう。
結局、何も考えずに見切り発車でスタートさせたのが良くなかったのだ。
くっと歯を食いしばって覚悟を決めた。
俺は——!
ドアを開けようとしたその時だった。
ドアノブに手をかける前に扉が開いて、その向こうには涙でぐしゃぐしゃになった琉衣が立っていた。
「慶太くん……!」
「琉衣」
二人の間に気まずい空気が流れる。
水に流すには軽くトラウマになっていて、でも折角歩み寄って修復しかかった関係を壊すのは忍びなくて。
互いに無言のまま時間だけが過ぎていった。
「——え、え? 何この時間。ちょっと、お嬢様? 何をなさっているんですか?」
くっ、カナエ……少しは控えておけ!
そもそもお前が登場したからおかしな方向へといったんだ。
とはいえ、彼女の言い分も最もだった。
このままでは埒が開かない。
「あの、慶太くん。私……!」
「琉衣、俺は」
ほぼ同時に発した言葉。
あぁ、もう! 俺達は全く……タイミングが良いのか悪いのか。
こんなのもう笑うしかない。
何だかんだで俺は、琉衣のことが嫌いになりきれないようだ。
「琉衣、ゴメン。そもそもこんな企画を持ち出した俺が悪かった」
「何を言ってるの、慶太くん! 違うの……私が慶太くんの泣き顔に興奮を抑えきれないのがおかしいから」
——うん、まぁ、それは否定できないけど。
でも俺は、こんなことでまた琉衣と険悪な関係になるのはゴメンだ。
「琉衣は、俺のことが好きで——その、いじめてたんだろう? なら、許すよ」
「慶太くん……! 本当に? 本当に許してくれるんですか?」
嬉しそうに喜ぶ琉衣を見て、初めからそう言えばよかったと後悔した。やっぱり人間、欲を出したらダメなんだな。
「これからはまた友人として、よろしくな」
「は、はい! よろしくお願いします!」
こうして俺と琉衣は互いに歩み寄ることとなったが——……。
「えぇー、お嬢様とザコ慶太ですかー? あり得ないあり得ない。不釣り合いにも程があるじゃないですかー」
そう、俺は琉衣のことは許したが、カナエのことは許した記憶はない。
そもそもコイツのせいで、俺は!
「カナエ、お前には全身全霊で謝罪してもらうからな! 覚えておけよォ!」
「何を、ザコ慶太のくせに生意気な! このザァコ、ザァコ! やれるものならやってみな!」
こうして懲りもせず、俺はまたしてもリスナーに相談を持ちかけるのであった。
END・・・★
昔、俺のことをいじめていた幼馴染。好きだからいじめたって白状したけれど、トラウマになったので許しません 中村 青 @nakamu-1224
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