第6話 ここでめげてたまるかァー!

 どうもオカシイ……こんなはずではなかったのに、どうしてこんなことになった?


 目の前には爆乳スク水とまな板スク水。

 両極端な桃源郷が目の前に広がっているにも関わらず、俺の理想とは程遠い現実が広がっていた。


「う……っ、お前ら……何のつもりで俺の前に現れたんだよ! 引きこもりになった俺に謝罪するつもりで来たんじゃないのかよォ!」


 これ以上、傷口に塩を塗るような真似はしないでくれ!


 もう復讐なんてやめるから、せめて俺のことを放っておいてくれ!


「は、謝罪? なんで私がアンタなんかに謝らないといけないのよ。このザコ慶太。私はお嬢様がアンタのところにいるって聞いたから、連れ戻しにきただけだよ。勘違いするなザァコ♡」


 ——なんだ、コイツ!


 全く反省の色を見せない琉衣専属メイドのカナエ。

 そうだ、コイツは子供の頃から容赦なく俺をザコ呼ばわりしてきた。


 本当に腹が立つ。昔からコイツとは反りが合わないのだ。


「琉衣お嬢様。こんな奴、放っておいて帰りましょ? 旦那様がお呼びでしたよ?」

「え、でも……せっかく慶太くんと仲直りできたのに」


 四つん這いになって落ち込んでいる俺を心配しているのか、歯切れの悪い様子で躊躇う琉衣。

 琉衣が俺のことが好きで意地悪をしていたっていうことは、強ち嘘ではないのかもしれない。


 度が過ぎていたのは許し難いが、仕方ない!


「琉衣……っ、お前は本当に……本当に俺のことが好きでいじめていたのか?」


 絞り出したように聞いた声に、琉衣の目が大きく見開き、そのまま輝かせて頷いた。


「そう、私は慶太くんのことが好きだったの! ずっとずっとずーっと好きでしょうがなくて、ついイジメちゃったの!」


 ついでは許されないレベルだったが、この際許してやろう。


「琉衣……それなら手伝ってくれないかな? 昔からずーっと俺のことを小馬鹿にしてきたコイツへの復讐を……」

「え、な? 何よ、何をする気⁉︎」


 不死鳥の如く蘇った俺の闘志。

 どうせカナエは琉衣には逆らえないのだ。


 それならそれを利用してやる!


「くくくっ、ちょうどリスナー様からリクエストが入ったぞ? 生意気小猿に天罰を。お尻ペンペン、ケツ叩きの刑だ」

「なななっ、だ、誰がするかよ、そんなの! 私はしないからな!」


 確かに俺が行ったところで、コイツが従うとは思えない。だが琉衣の命令ならどうだ?


「琉衣、コイツを懲らしめてやってくれ」

「了解しましたわ、慶太くん♡ ほら、カナエ。慶太くんの命令なの。大人しくお尻を差し出してくれません?」


 お嬢様ならず女王様の目が鋭く光った。

 思わず怯んで後退りしてしまう。


「い、いや……っ、お嬢様、それはやめて下さい!」

「だぁめ♡ 他ならぬ慶太くんのお願いなの。諦めて?」


 勉強机に置いていた竹の定規を手にした琉衣は、カナエの太ももの辺りを叩き出した。


「ひぃ……っ! 痛い!」

「あらあら、これでも手加減して差し上げてるのに、何て打たれ弱いのかしら。ホラホラ、慶太くんのリスナー様に向けて、無様にお泣きなさい」


 パチン、パチンと軽快な音と共に泣き喚くカナエに、多少の同情が芽生えた。


 い、痛そうだ……。

 いくら水着越しとはいえ、あれだけ叩かれれば真っ赤に腫れ上がって痛そうだ。


「うぐっ、やめてください……っ! 琉衣お嬢ざまァ! 痛いでずぅ!」

「ふふふっ、カナエ。あなたも随分可愛い声でお泣きになるじゃない。 慶太くんの次に可愛くてよ?」


 あまりにも非日常的な光景に、俺もリスナーも言葉を失っていた。


「謝りまず! 慶太に、ちゃんと謝りまずから、許してくだざいっ!」

「る、琉衣! やり過ぎ! ストップストップ! カナエも反省したようだし、もういいよ!」


 俺の制止の声で、やっと手を止めた琉衣。

 彼女はふっ……と笑みを浮かべて、尋ねてきた。


「本当にいいのですか? せっかくのチャンスなのに」

「いいよ、もう! これだけ反省してれば十分だ」


 結局、復讐なんかしたって憎しみが増えるだけなのだ。やられたからやり返すなんて、馬鹿げたことをしなければよかった。


 グズグズ泣くカナエに寄り添って、心から謝った。俺のせいで申し訳ない……。


「——だそうですよ、カナエ。よかったですわね、で済んで」


 この程度だ? とてもじゃないが、太ももも真っ赤に腫れ上がっているのに? 頭がおかしいんじゃないかと立ち上がった瞬間、「くくく……」と笑出したカナエが「バァー!」っと盛大に驚かしにかかった。


 な、なんだァ?


「あの程度、本当はなーんてことないですよー! すっかり騙されて、やっぱりザァコ、ザコザコ慶太ァ! あはははは、私の名演技に騙されてやんの!」


 だ、騙したァ?

 あまりにも信じれない言葉に、真意を確かめる為に琉衣を見た。彼女は申し訳なさそうに頬に手を添えて謝罪を述べてきた。


「ごめんなさい、慶太くん。本当はあなたの命令を遂行しようかと思ったんですけど、やっぱりあなたの絶望した顔が一番見たくて♡」



 は、はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎


 何、コイツ! 嘘だろ、あれ演技⁉︎

 だって太ももとか真っ赤に腫れ上がってるのに⁉︎


「琉衣様はちゃんと手加減して打ってくれたんだよ、ザァコ慶太! ザァコザコ♡」



 二人して俺のことをハメやがって……!

 とは言いつつ、俺も少しやり過ぎたかなと思っていたので、嘘でよかったと安堵している自分がいた。


 だが、許しがたい……。

 どこまで俺を馬鹿にしたら気が済むのだろう?


 堪忍袋の緒が切れた。

 もう、コイツら許さない。


 ———……★


 慶太くんに鬼畜は似合いませんね💦

 それに対して琉衣お嬢様の女王様、お似合いです。

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