第2話 続いてしまった、なら仕方ない

 さて、あれからしばらくリクエストを待ってみたのだが、何故かマイルドな内容しか上がってこなかった。


「謝罪の意味を込めてオムライスを作って『ゴメンだにゃん♡』と謝る」


「猫の着ぐるみを着て、モフモフタックルをかます」


「ひたすら奉仕、ご主人様だにゃん!」


 かろうじて最後のひたすらご奉仕はお仕置き系になりそうだけど、が邪魔。にゃんが邪魔なのだ。


「慶太くん、ご奉仕するにゃん?」

「する必要なし! うがぁぁぁぁぁぁ! 何で俺のフォロワーさん、こんなに優しいんだよ! もっと鬼畜リクエストプリーズ! ある意味俺に優しくない!」


 だが、このまま画面の前で何もしないのは絵面的につまらない。どうする? 何をすればいい?


「——琉衣、お前……メイド服を持っているか?」

「あ、ありますわよ? 私の屋敷に使用人のメイド服が」


 そう、琉衣はこの一帯の地主の孫で、使用人が複数いる屋敷のお嬢様なのだ。それゆえに傲慢キチでワガママ放題の幼少期を過ごして、俺に陰湿なイジメを繰り返していたのだ。


 思い出しただけでイライラする。

 よし、コイツを俺専用のメイドにして、こき使ってやろう!


「おい、琉衣! 今すぐ屋敷に戻ってメイド服を準備するんだ。戻り次第、俺の専属奴隷メイドとして仕えさせてやる!」

「えぇ……っ! わ、私が慶太くん専用の……奴隷メイド⁉︎♡♡♡」



 ——ん? 何だ、ピンクの空気の気配を感じたぞ?


「今すぐ取ってきますわ! どうせなら慶太くんを(ドSの)ご主人様っぽく仕立てる為に正装をお持ちしますわ!」


 確かに雰囲気作りは大事。形から入るのは重要である。


 だが、ドSってどう言う意味だ?


「いや、俺はドSとかそう言うのじゃなくて! 普通にいじめの報復をするつもりなのだが⁉︎」



 そう、小学生の時、琉衣に身ぐるみ全部剥がされてパンツ一丁に晒された経験がある。


『あはは、慶太くん可愛い♡ その怯えた表情が唆られるわ』

『平岡、ザァコ♡ 琉衣様の為に全裸で土下座して謝れー!』


 思い出しただけで涙が溢れてくる。

 こんなセクハラめいたことが毎日のように繰り返されていたのだ。


 鼻水垂らした男子が好きな女の子のパンツ見たさにスカート捲りをしていたレベルとは比較にならない陰湿さなのだ。


 しかも琉衣は、屈辱で泣いた俺の顔を記録するために写真まで撮っていたのだ。

 泣きじゃくる俺のドアップと全身の写真と!


『慶太くん、その泣き顔最高ですわ。もっと御泣きなさい!』


 その高揚した表情は思い出しただけで涙が溢れそうになる。恐ろしくて恐ろしくて、俺は何度も吐き気を堪えながら学校へと向かったものだ。


「あの時、俺が受けた屈辱は、必ず報復させてもらう!」


 奴隷メイド、琉衣をこき使っていびってやる!

 まるで掃除後、窓枠をスゥゥー……っと指でなぞって「琉衣さん、埃が溜まっていらっしゃいますわよ? もう一度掃除やり直し」と嫌がらせをしてくる義母のようにいびりたい!


 だが、どうも俺と琉衣の間には大きな勘違いが生じている気がしてやまない。


 何故、幼少期に散々いじめた奴に色々言われているのにピンクの妄想が止まらないんだ?


 俺は普通に報復をしたいだけなのに?

 おかしくないか?


 リスナーも「まだ? 早くルイルイのニャンコメイドを見たい!」とか「エロエロご奉仕、発動だにゃん」など、業務に支障をもたらすような発言が目立ってきた。


 あり得ない。エロなんて起きないんだよ、フォロワー様よぉ!


 沸々と湧き上がる憤怒の感情。

 そう、俺はアイツのプライドを粉々に粉砕するまでは!


「け、慶太くん……メイド服はこんな感じでいいのかしら?」


 しおらしい声と共に開いたドア。

 そこにいたのはクラシックな昔ながらのメイド服を纏った琉衣の姿。

 秋葉原で『萌え萌えキューン』『ラブビーム★』とかしている萌え系メイドではないが、これはこれでアリ!


(じゃ、ねーだろ俺! アリって何だ、アリって! 俺はコイツに復讐を‼︎)


 だが、顔面偏差値もスタイルもパーフェクトの琉衣のメイド姿。一見従順な見た目は俺のハートを鷲掴みして放さない。


「ご、ご主人様。ご奉仕するにゃん……!」


「ぐはっ! 何だよお前ェーっ! 俺の復讐心を抉るな、削ぐなァァァァァァー‼︎」



 ———……★


 平和系復讐YouTuber、KEI`。

 彼の苦悩はまだまだ続く……?


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