第3話 案内される新しい家屋兼店舗


 リズディア達が帰っていくと、カインクムはフィルランカを見た。

 フィルランカは、涙を流した後を拭うようにしていたが、目は赤く充血していた。

(まあ、今日はエルメアーナが旅立ったのだから仕方が無いな。このまま、家に連れて帰るか)

 カインクムは、ツバイエンに向いた。

「それじゃあ、俺達も家に帰るよ」

 そう言って、フィルランカを連れて駅馬車の停車場の方に歩いて行こうとすると、ツバイエンは言われた通り見送ろうとしたが、自分が金糸雀亭に来た理由を思い出して慌てた。

「お待ちください! 用意した家に行って頂かないとヒュェルリーンさんに、私が怒られてしまいます」

 ツバイエンの言葉を聞いて、カインクムは彼が何の為に金糸雀亭まで来たのかを思い出した。

(そうだったな。引越はジュエルイアンが手配してくれるって事だったか。それにフィルランカの事が有るから、早めに引越しした方が良いのか)

 カインクムはフィルランカを見つつ考えるとツバイエンを見た。

「そうだったな。でも、ちょっと待ってくれ」

 そう言って、また、フィルランカに向いた。

「フィルランカ、新しい家を見ていこうか」

 優しく聞くとフィルランカは、一瞬戸惑ったような表情をしたがコクリと頷いたので、カインクムは安心するとツバイエンを見た。

「それじゃあ、ツバイエンさん。新しい家を見せてくれないか」

 ツバイエンはホッとすると軽く会釈をした。

「では、行きましょう。ここから歩いて行ける場所ですから案内します」

 そう言って歩き出したので、カインクムもその後を追うように歩き始めた。


 ツバイエンは歩き始めると、カインクムの横に並ぶように歩幅を調整し、カインクムが隣に来ると話しかけた。

「私は、ヒュェルリーンさんから、カインクムさんの引越しの手伝いをするように申しつかっております。もちろんジュエルイアンさんの承認も得ており、手配の全てを請け負います。必要なら人手も用意いたしますから安心してください」

「ああ、ありがとう。助かるよ」

 カインクムが了解するとツバイエンは安心したようだ。

「ここの区画の半分は、うちの商会が手掛けたんですよ。今から行く店舗兼用の家もジュエルイアンさんが細かく指示を出して、とても丁寧に仕上がってますから、きっと、気にいると思います」

 カインクムとツバイエンは、これから行く新しい家について話しながら歩いているとフィルランカは黙ってカインクムの斜め後ろを付いて歩いていた。

 フィルランカの視線は、カインクムの肘を見ていた。

(腕を組んで歩けたらいいけど、今は、まだ、ちょっと、できないかな。それにツバイエンさんが居るから良くないわね。でも、この位なら構わないはずよね)

 フィルランカは、服の肘辺りを摘むと恥ずかしそうにしつつ微笑を浮かべた。

 腕が引っ張られる事に気がついたカインクムは、肘の辺りの服をフィルランカが摘んでいるのを確認するとフィルランカの顔を見ると、そこには恥ずかしそうにして、反対側の手を軽く握って口元に当てているフィルランカがいた。

「どうした?」

 カインクムは肘を摘んでいる事が気になって聞くと、フィルランカは、顔を真っ赤にして俯いた。

「こ、この辺り、初めて、だから、少し、ね」

 カインクムは、何だそんな事かと思った様子で笑顔になる。

「だったら、手を繋ぐか?」

 フィルランカは、耳まで赤くして驚いた様子になり、慌てて首を横に振って否定した。

(無理ぃ〜。恥ずかしいよぉ〜)

 カインクムは、理由が分からないといった様子でフィルランカを見ていた。

「ふーん、そうか」

 カインクムは腑に落ちないような表情をしながら前を向いたのを、フィルランカは確認すると嬉しそうな表情をした。


 しばらく通りを歩くとツバイエンが建物の前で止まると、一度確認するように建物を見たので、カインクム達もつられて同じように視線を向けた。

 その建物は、歩いてきた通りの中では一番大きかった。

(こんな大きな店でフィルランカを働かせられるようになれるように頑張らないとな)

 カインクムは、何かを思うように見ていた。

「用意された家は、ここになります」

 その言葉にカインクムは驚くと、本当なのかという顔をしてツバイエンを見たが、フィルランカは建物を見つめるだけだった。

(へー、今までの家より大きいし、外装も綺麗ね。新築の家って、本当に素敵だわ)

 フィルランカは、うっとりとその建物を見ていたが、カインクムは気付く事なくツバイエンを凝視していた。

「いや、ちょっと待ってくれ、ここって、見えている部分だけでも、俺の住んでいる店の倍は有るだろう。それに区画の作り方からして、奥行きだって、かなり有るはずだ!」

 カインクムの言葉をツバイエンは、何を当たり前の事を言うのかと言うように見ていた。

「ええ、20人位雇っても問題無いような作りになってます。倉庫も1階だけでなく、地下にも有りますから、作り置きの製品も、製造用の材料も、十分に置くことも可能です。1階のリビングは20人が食事をできるように広く作られています。それに裏庭も有りますから、荷物の受け渡しを裏で行う事も可能です。二階は家屋として使えますけど、1階の広さのお陰で2階にもリビングが用意できましたから、職人達とプライベート空間を分けられます。これは、うちの商会でも一押しの物件ですよ」

 カインクムは、青い顔をしたが、フィルランカは、今の話を聞いて嬉しそうにした。

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