第2話 カインクム達の引越し先について


 リズディアは、ツバイエンの言葉を聞いて、カインクムが引っ越す事を知ると考えるような表情をした。

(カインクムは、ジュエルイアンに持っていかれてしまったわ。あー、私は完全に出遅れてしまったのね。フィルランカ、カインクムと、2人も持っていかれてしまった。私の元に置いておきたかった2人なのにぃ)

 そして少し残念そうにすると納得するような表情をした。

(でも、それがジュエルイアンなのよね。何かにつけて二、三手先に動いているのは昔からなのだから、今回もしてやられてしまったわ)

 少し残念そうな表情をしながら空を見上げると、何かを思い出したようだ。

(でも、今の私が有るのも、大好きな旦那様と一緒になれたのもジュエルイアンのお陰だから、ここは素直に引きますわ)

 リズディアは、頬を少し赤くしたが直ぐに表情を戻した。

「ツバイエンさん。カインクムさんは引っ越しなさるんですか?」

 リズディアは、何も知らないという表情で聞いた。

「はい、ここの区画に準備しております」

 その答えにリズディアはピンときたようだ。

(なる程、ギルドの希望する腕の立つ鍛冶屋としてのカインクムなのね。ジュエルイアンったら、抜け目が無いわ)

 そして、自身の思う事を悟られないように笑顔を向けた。

「そうですか、それは良い人選ですね。ギルド支部も冒険者に安心して武器や防具の整備を勧められるでしょうね。帝国としてもギルドに対して面目が立ちますわ」

 リズディアの言葉にツバイエンも鼻が高そうだ。

 ツバイエンとしても、所属するジュエルイアン商会に高い評価をもらえて嬉しそうな表情をすると、リズディアは一瞬目を鋭くするが、直ぐに戻したので悟られてはいなかった。

 その様子を見てから、リズディアは軽く会釈した。

「それでは、私達も戻ることにしますわ」

 リズディアはツバイエンに伝えるとカインクムに向いた。

「カインクムさん。私も2人も、感謝しております。何か困った事が有れば、いつでも相談に乗ります。悪いようにはしませんから、お気軽に声をかけてください」

 そう言うとお辞儀をしてからフィルランカの前に移動した。

(今は引きますけど、次は絶対に負けませんわ)

 リズディアは、フィルランカに最高の笑顔を向けた。

「フィルランカ、良かったわね。カインクムさんと2人で新しい家で住めるなんて、とても羨ましいわ」

 フィルランカは、リズディアの言葉に肩が跳ねるように動かした。

「ジュエルイアンも、エルメアーナだけじゃなくて、あなたの事も考えてくれていたみたいだから、ちゃんと幸せになるのよ」

 すると、また、大粒の涙を流したので、両脇にいる2人は涙を拭おうとしたので、リズディアは、それを止めるように2人の手を抑えた。

 2人は、リズディアを見ると、リズディアは首を振った。

「ここからは、カインクムさんの仕事よ。私達も帰るわよ」

 そう言うと、カインクムの方に向くと、また、お辞儀をしたので、モカリナもイルーミクもリズディアに倣うようにカインクムにお辞儀をした。

「それでは、今日はお暇させて頂きます」

 そう言うとリズディアは馬車の方に歩き出したので、モカリナは慌てた様子でフィルランカに顔を近づけた。

「次のお休みには会いに行くから」

「あ、私も一緒に行くから」

 モカリナの言葉に慌ててイルーミクも言うと、2人は慌ててリズディアの後を追った。


 カインクムは、丁寧に頭を下げて3人が使っていた馬車に入るのを見送った。

 ツバイエンは軽く会釈するだけだったが、カインクムの様子を不思議そうに見守った。

(何だろう。とても丁寧に挨拶しているな)

 リズディア達の馬車が動き出すと、カインクムが頭を上げたので気になった様子で見た。

「あの方は、どちら様だったのでしょうか?」

 カインクムの様子が気になって思わず聞いてしまったようだ

「あの方は、イスカミューレン商会のリズディア様と、義妹のイルーミク様、それと今年、帝国大学を卒業したモカリナ様だ」

 その答えを聞いて、ツバイエンはフーンと言うように見送ってから、何やら難しい表情をした。

「イスカミューレン商会? リズディア様?」

 驚いた様子でカインクムを見た。

「あ、あの方が、元第一皇女の、リ、リズディア様だったのですか!」

 カインクムは、気が付いてなかった事に驚いたような表情でツバイエンを見たが、直ぐに納得するような表情をした。

「ああ、今日は、いつもの化粧とは少し違ったからな。見慣れた顔じゃなかったから、俺も少し分かり難かったけど、イルルミューラン様の妹のイルーミク様とナキツ家のモカリナ様が居たから分かったよ」

 カインクムの答えにツバイエンは青い顔をした。

「ど、どう、しよう。リ、リズディア様に対して失礼な態度じゃなかっただろうか」

 ツバイエンは、元皇族のリズディアだとは知らずに一般的な態度で接していた事を後悔したが、その様子をカインクムは何事も無かったように見た。

「大丈夫だよ。リズディア様は、初対面の人が皇族だと知らずに皇族に対する礼を尽くさなかったからといって不敬だと思う事は無いさ。化粧を変えて来てくれたという事は他人にリズディア様だと気付かれないようにと思っての事だと思うし、君の態度は商人としての態度だったのだから、何も問題にはならないさ。それに今のリズディア様は皇族ではなく、爵位の無いスツ家の嫁で商会の経営を行っているのだから、むしろ皇族に対する礼を尽くされた方が困ったはずさ」

 カインクムに言われて、ツバイエンは少し楽になったようだ。

「リズディア様は、化粧を変えていたのですか」

 そう言うと思い出すような表情をした。

「それでは、お付きのお二人も化粧を変えていたのですか?」

「いや、彼女達はいつも通りだったかな。まぁ、俺も何度か顔を見た程度なので詳しいわけじゃないが、2人は直ぐに分かったよ」

「そうですか」

 ツバイエンは、馬車の去った方に向いて考えるような表情をした。

「ありがとうございます。今のリズディア様の顔も、一緒に居られたモカリナ様とイルーミク様の顔は覚えておきます」

 カインクムは、ツバイエンの表情を確認すると、納得するような表情をした。

(若いが、ジュエルイアンの店に所属しているだけの事はある。大事な人の顔と名前はしっかり記憶したみたいだ)

 カインクムは、満足そうに笑みを浮かべた。

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