カインクムの新居  パワードスーツ ガイファント外伝

逢明日いずな

第1話 エルメアーナの旅立った後


 金糸雀亭に宿泊していたジュエルイアンとヒュェルリーンは、カインクムの娘であるエルメアーナ連れて出発した。

 その見送りにイスカミューレン商会から、元帝国第一皇女のリズディアと義妹のイルーミク、高等学校に入学してから一緒に学校生活を過ごしたモカリナが来ていた。

 カインクムは、フィルランカの気持ちを考えると娘であるエルメアーナの前に立つ事はできず、金糸雀亭の中に隠れて見送っていたが、リズディア達が2人の気持ちを代弁してくれた事で少し気持ちが楽になっていた。

 フィルランカは、頬には涙の痕も有ったが、カインクムの優しい言葉に救われていた。

 カインクムは、リズディアに向くと頭を一度下げると向き合った。

「リズディア様、ありがとうございました。お陰で、エルメアーナの気持ちを知る事ができました」

 そして、フィルランカの涙を拭うために両脇に並んで立っていたモカリナとイルーミクにも同じように頭を下げた。

「カインクムさん、私のお友達のフィルランカをお願いします」

 モカリナがカインクムに言うとイルーミクも笑顔を向けた。

「そうですよ。フィルランカは、自分の思う人と一緒になれたのですから、ちゃんと答えてあげてください」

 カインクムは、顔を上げずに2人の話を聞いていた。

 2人は、フィルランカの涙をハンカチで拭ってあげており、カインクムは2人のフィルランカへの思いやりがありがたく思えたが、2人の若い女性にフィルランカとの行為についても知られていることに恥ずかしさを感じていた。

 頭を上げられずにいるカインクムだったが、そんなカインクムにリズディアが横に行くと肩に手を当てて体を戻させようとしたので、カインクムは、逆らわずに頭を上げリズディアを見た。

 そんなカインクムにリズディアは笑顔を向けていた。

「カインクムさん。女は本気に惚れた男の前では、思い切った行動が取れるものなんですよ。私も一緒ですからフィルランカの気持ちは良く分かります」

 カインクムは、そんなものなのかと思うとフィルランカを見た。

(女の考えは、そんなものなのか。しかし、大胆な行動に?)

 カインクムは、何か思うような表情をするとリズディアを見た。

(俺は、聞いてはいけない事を聞いてしまったんじゃ無いのか? って、おい、リズディア様もフィルランカと同じだったのか! ま、まさか、リズディア様がフィルランカを唆したの、いや、いくらなんでも、それは有り得ない!)

 リズディアは笑顔のままカインクムを見ていた。

(これ、絶対、俺がイルルミューランとの関係に気がついた事を理解しているって顔だ! 余計な事を言うなって事だな)

 カインクムは、しまったと言う表情をしたので、リズデアは、カインクムの肩に置いている手に力を入れたので、カインクムは恐る恐る頷いた。

(これ、絶対に口にしちゃいけない話だ)

 カインクムは、しまったと思った表情をした。

「あ、ありがとうございます。このご恩は一生忘れません」

(大丈夫です。気が付いた事は、誰にも言いませんから)

 カインクムは、引き攣った表情で答えた。

「そうね。期待してます」

 リズディアはカインクムの肩から手を離しつつ答えるとカインクムの力が抜けた。

(リズディア様でも、フィルランカと同じような経験をしているのか)

 そして、フィルランカの方に一歩出た。

(女って、思いを遂げる為に、ここまでするのか)

 カインクムは、フィルランカの両脇に立つ2人にも視線を向けるとホッとした。

(もし、この2人のどちらかだったら、女の方からしてきたと言っても通じなかっただろうな。フィルランカが貴族の出だったら、俺は今頃魔物の餌だったかもしれないな)

 フィルランカの横に立つ2人は貴族の家の娘であり、後ろに控えているリズディアは現皇帝の第一皇女だった。

 リズディアが、皇位継承権を捨ててイルルミューランの元に嫁いだのは、下級でも貴族でありイルルミューランの父であるイスカミューレンは現皇帝と幼馴染でもあった事、自身の商会が大きくなり経済的な余裕も出来ていた事から、反発する他の貴族への貢物によって穏便に嫁げるようにしていた。

 そして、イルーミクはイルルミューランの妹であり、リズディアにとっては義妹となり、イスカミューレン商会に入ったモカリナは、ナキツ侯爵家の四女である。

 フィルランカに同じような身分が有ったら、平民のカインクムとなれば簡単に嫁がせる事は無く、場合によっては消されてしまう事もあり得る。


 カインクムは、泣いているフィルランカを見てホッとした表情を見せ、何か声をかけようとして手を前に出そうとした。

「あのー」

 カインクムは、男の声に反応して上げた手を止めて声の方に向いた。

 そこには若い男が立ってカインクムを見ており、視線が合った瞬間軽く会釈をした。

「初めまして、私はジュエルイアン商会より、カインクム様の引越しのお手伝いをするように言われて派遣されて来ました」

 そう言うと一礼をした。

「ヲンガ・レィムファ・ツバイエンと申します」

 カインクムに名乗ると、ツバイエンはリズディアの方を向いた。

「カインクム様とお話しさせて頂いて宜しいでしょうか?」

 ツバイエンは、相手が誰だか分かっていないのか、元第一皇女のリズディアに対して商売相手のような対応をしたが、リズディアはツバイエンの態度を気にする様子は無かった。

「ええ、構いませんわ」

 リズディアは問題無いと言うように笑顔でツバイエンに答えたので、ツバイエンは軽く会釈を返すとカインクムを見た。

「カインクム様、お引越し先の物件について、当商会のヒュェルリーンから指示を受けております。旅立った後にご案内するように言いつかっておりますからご案内いたします」

 それを聞いたリズディアが、少し面白く無い表情をした。

「あら、カインクムさんは、今の家を引き払うのですか?」

 ジュエルイアンは、問題の起こった日に、エルメアーナを自分と一緒に南の王国へ連れて行く事と、カインクム達が今のままでは体裁が悪いと思い、自分が手がけたこの区画へカインクム達を引越させるように話を進めていた。

「はい、ギルド支部が出来るので、冒険者の為の鍛冶屋が必要になりますから、ヒュェルリーンの手配でカインクム様が出店してくれる事になっているからと聞いております」

 この第9区画がギルド支部を誘致するために仕事を帝国から自身のイスカミューレン商会が請け負い、ギルド周辺の建物は、ギルドとのパイプも持っているジュエルイアン商会を下請けに使っていた。

 その一つに腕の良い鍛冶屋を近くに用意する事もあった事から、この騒動を利用してジュエルイアンがうまく誘導した事に気が付いた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る