それぞれの内見

だら子

第1話

「ねえ、ここ素敵よね。日差しがたくさん入って」


おっとりしたふくよかな女性がしきりに話しかけている。


誰もいない光が落ちる場所に。


この仕事をしていると色々な人に会う。

夫婦2人で内見にくると言って、1人だということはよくあることだ。


事情が変わることはどんな世界でもあるのだ。



まるで新婚ごっこを楽しむかのように、彼女は一人で部屋を確認していく。


しばらくすると、驚いた顔になりその後わたしを睨んだ。

会話を聞かれているのが恥ずかしくなったのだろうか。


「どうして、ここにいるの?」


今にも殴りかかりそうな剣幕。


「どうしてって…仕事ですから」


「どんな仕事よ!!夫を寝取るのが仕事なの?夫を返して!!」


恨まれているのかしら。


わたしを掴もうとした彼女は、わたしの身体をすり抜けた。



幻覚がまた見えるようになったのかな。

夫に浮気されて、悪化したのか。


精神的に不安定ではある。

だけどあれは幽霊なんかじゃない。

私が作りだした幻想よ。


待って、ここはどこ。私って生きてる?


そういやわたし、死んだんだった。



俺は内見に来ている。

不倫した女と一緒に。

妻は自死したのだ。

だから、俺にはこうするしかなかった。

幸せになんてなれないだろう。


この女はいつもこんな不満そうな顔をしていただろうか?

お互い仕事を辞めて、新しい地で仕事につく。

希望なんて何もない。

あるのは「こうするしかなかった」という絶望だけだ。




天国の物件の内見は死後すぐに行われる。

彼女は夫に浮気されて死を選んだ。


天国といえどもまだ人間の心が残っているから、色々なものが見えるのかもしれない。


少し時間が経てば女のことも忘れて、わたしと混同することもなくなるはず。


日差しがたくさん入る部屋。それは、生まれ変わるために必要な部屋。ここで次のお母さんを見つければいい。


この仕事をしていると色々な人に会う。

いや、元人間といえばよかったのか。

そしてたまにわたしは恨まれる。

仕事だから仕方ない。






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それぞれの内見 だら子 @darako

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