第25話 皇女様②

 



「っ! 何処かでまた継承者が生まれたか……?」


 最近に見つけたダンジョンへ向かっていた第二皇女様は感じ取っていた。何処からはわからないが、何処かで新たな継承者が生まれたのがわかった。


「継承者が? では、何処かのダンジョンをクリアした者が?」


 今の第二皇女様は三人の仲間を引き連れて、馬車に乗っている。その仲間の一人が聞いてきた。

 第二皇女様のティリアだけが継承者の称号を持っており、他の仲間達はまだ継承者として資格を持っていないので、ティリアが感じ取った波動を感じ取れていなかった。


「あぁ、この感じは間違いない。メニアやアイツらが継承者となったのと同じ物を感じた」

「そういえば、継承者とかよくわからないのですが。継承者の言葉は聞いたことがありますけど、詳しい内容はなんとも」

「失礼だぞ、敬語ぐらいは使いなさい。いくらでも、ティリア皇女様が認めているといえ…………」


 まだ幼気を残す少女がティリアに対して、タメ口で接したことにインテリ系の男が注意していたが、ティリアは手を振って止めていた。


「いいの、堅苦しいことは。周りに人がいるなら、敬語は使った方が面倒はないけど、今は私達しかいないからね。で、貴女は入隊されてから、まだ一ヶ月ぐらいだったわね? なら、知らないのも仕方がないわね」


 ティリアより少しの歳上でしかない少女は一ヶ月前に第二皇女様の親衛隊に選ばれたばかりで、今は仕事を学んでいく時期である。

 因みに本人は覚えてはいないが、100年ぐらい前にティリアが殺したクラスメイトの一人であり、強力な能力を持って、帝国の魔術師に志願していた。結果、第二皇女様の親衛隊に選ばれたのだ。


「継承者のことを知りたいんだったわね。始めに聞くけど、ダンジョンのことは何処まで知っているかしら?」

「えっと、ダンジョンは突然に現れ、中に入って来る者に試練を課するとしか知らないです。最下層には凄さ増しい富があるとか噂があったのですが」

「ふむふむ、富については言い方によれば、間違ってはいないわね。少し付け加えるけど、ダンジョンは試練を課すると言っていたけど、ただ最下層まで進めて、ある物を手に入れたらクリアするだけで難しいことではないわ。そう、クリア条件はね…………」


 クリアする条件は一つだけで、ティリアが説明した通りだ。クリアする条件は難しくはない。だが、それまでの過程が厳しすぎるのだ。

 ティリアが知っているダンジョンでは、魔物の数が多過ぎるとか地形がマグマで熱さがキツくて常時にHPへダメージが入ったりするダンジョンもあった。


「これは上層部だけの秘密だけど、貴女も知る権利があるから教えるわね?」

「え、秘密ですか?」

「そっ、貴女はダンジョンをクリアしたら富を得られると言っていたわよね? その富がなんなのか、気にならない?」

「それは、気になりますが……、皆さんも知っているのですか?」


 ティリア以外の二人も知っているのかと聞いてみた。富の内容を知って、ダンジョンがそれ程に厳しくても命を賭けてでも手に入れたいのかと知りたくなったのだ。


「無論だ。アレを手に入れることが出来れば、他の者と一線を引くぐらいには差が出来るのだ」

「そうだな、手に入ることが出来たら、ティリアからの待遇も良くなると聞いたしな」

「えぇ、継承者となったら、今の親衛隊より上の階級に上げるのを約束するわ」

「それ程の物がダンジョンの最下層にあるのですか。それはなんですか?」

「ふふっ、話だけでは勿体振る程に凄いとは理解できないかもしれないわね。最下層に封印されているのは、一つの『スキル』よ」

「ええっ?」


 ダンジョンに封印されている物が、たった一つだけのスキルだと聞いて、僅かに落胆している様子だ。


「やっぱりの反応ね。でも、そのスキルはただのスキルではないわ」

「うーん……、それは私の上級スキルよりも凄いのですか?」

「そうねーー」


 話は途中で切られる。急に馬車がスピードを落として止まったからだ。


「何事?」

「と、盗賊です!!」

「あら、この馬車を襲うなんて、運のない盗賊達ですね」

「俺が出ようか?」


 インテリ系の男が時空魔法を使って、時空空間から斧をを取り出して、力に自信がある筋肉質の男に渡す。


「ダロム、待ちなさい。アークもよ。丁度いいし、さっきの説明に加えて教えてあげるわ。エムテムも見ていなさい」


 インテリ派はアーク、筋肉質はダロム、少女はエムテムと呼ばれ、ここはティリアが出ると言ってきた。エムテムに教えると言っているが、主を前に出すのは親衛隊としてはどうかと思ったが、他の二人が大人しく控えたので、何も言わないことにした。


「さて、哀れな盗賊と対面をしましょうか」


 四人とも馬車から降りて、囲むように逃げ道を無くす動きをしていた盗賊達はニヤけたような笑みを浮かべていた。


「おぉっ! ベッピンな女が二人もいるじゃないか!! 男は斬り捨てて、女は持ち帰るぞ!!」

「下品な奴らね。三人は手を出しては駄目よ?」


 再度、注意を呼びかけてからティリアは何もないところから刀を取り出す。


「む!? 女は魔術師か!?」

「でも、杖ではなくて刀を持っているから、あまり魔術は使えないだろう!」


 魔術師は杖を持って戦うのが常識になっており、時空魔法を使えても時空空間から物を出すしか出来ないと判断していた。

 盗賊の戯言は無視して、エムテムに説明するように話を始めた。


「私が手に入れた継承スキルは、『剣豪(サムライ)』。刀を使ったスキルになるわね。誰でも持っている普通のスキルと違って、世界で一つしかないわ」

「そうなんですか!?」

「コラ!? 無視をすんじゃねぇよ!!」


 盗賊のボスは無視されて、話をしていたことから舐められていると思ったようだ。盗賊のボスから号令により、馬車を囲んでいた盗賊達が動く。


「残念ながら、全員の位置はもう理解しているわ。敵は一撃の元に落ちなさい」


 ティリアは馬車から降りた時に、盗賊達の位置を眼でキチンと見ていた。




「”斬空”ーー」




 ティリアは誰もいない場所を斬るように刀が鞘から抜かれて、振るわれた。

 そして、全員の盗賊の首が一斉に落ちた。首には綺麗な切り傷が出来て、身体も力なく崩れていく。




「…………え?」

「わかったかしら? この能力が継承スキルと言う希少なスキルよ」

「え、ええっ!? 一振りで盗賊全員をやった!?」

「これが、ティリア皇女様のスキルである『剣豪』の一部だ。今のは、ティリア皇女様が見た箇所に距離を無視して、刀の刃を届かせたのだ。これは回避不可の斬撃なのだから、継承スキルと言うスキルの凄さを理解しただろう?」

「確かに、凄いかも……」


 これだけの能力が備えられた継承スキルの力を見て、皆が絶対に手に入れたいのも理解出来る。


「アーク、回避不可の斬撃とはちょっと違うかな。回避されたことが一回だけあったからね」

「えっ、これを避けた人がいたのですか!? どうやって……?」


 アーク達もその話は初めて聞いたようで、驚愕していた。全く見えない攻撃に、タイミングも取れない斬撃を避けれるかと聞かれたら不可能としか答えられない。

 なのに、この技を避けた人がいると。


「この技は、刀を振る瞬間と当たる瞬間にラグが僅かだけあったみたい。で、その人は”斬空”の危機を察知したのか、強化されてない身体で避けられたわ」

「えぇっ?」


 危機を察知し、強化されてない身体で避けられたと言われても、どう反応を返せばいいかわからなかった。

 今は、その話が主ではないので、話を戻した。


「理解したよね。各ダンジョンには強力で世界に一つしかないスキルが封印されているわ。誰がダンジョンを作ったのかわからないけど、そんなのあるなら、帝国で独占して置きたいしね」

「は、はい。ダンジョンのことを大体は理解出来たと思います。今から向かっているダンジョン以外にクリアされてないダンジョンとかはあるの?」

「クリアされてない他のダンジョンね、今から向かっているのを除けば、私が知っているのは一つだけあったわね」

「そこも、他の人を送っているのですか?」

「いや? あそこは無理。前に行ったことがあるけど、あそこは人間にはクリア出来ないわ」


 強いティリアがクリア出来ないというなんて、信じられなかった。でも、何故、人間にはクリア出来ないと言い切るのか?


「私は中に入らず、偵察のために他の人を送っていたの。そして、あのダンジョンは猛毒と病苦を使う魔物が多く、最下層は全域が猛毒と病苦の霧が巡り渡っていると聞いたわ。

 そんな霧が巡っている中を封印を解く鍵となるボスを探して倒さなければならない。そんなの、猛毒と病苦を無効出来るスキルを持っていて、更に実力も高い人にしかクリア出来ないし、そんな人物は帝国にはいないから放っておくことに決まったの」

「な、なるほど……」


 二つも無効出来る人間はあまりいない。片方を持っていても役に立たないので、人間には難しいのもわかる。




「あれだけの厳しい過程をクリア出来れば、結構いいスキルが封印されていると思うけど、仕方がないよね。クリア出来る人物がいないもの」

「そうですね」

「さて、馬車に乗るわよ」


 四人は死んだ盗賊などには見向きをせずに馬車を走らせたのだった…………









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