第2話 転生

 


 何も聞こえない。何も見えない。何も臭わない。何も感じない…………




 一つの魂は、魔法陣の術式によって帝国から出て行くことは叶わない……………………はずだったが、その魂は術式を弾いた。


 まるで、縛るなーーーーと言っているような感覚で迫ってくる術式を黒きの波動で拒絶する。

 普通の魂なら、何も出来ずに囚われるのだ。周りにある青く輝く魂の様に…………




 黒きの波動を放ち続ける魂は迫ってくる術式を拒絶して、近づかせなかった。そして、ついに帝国領を出てしまう。

 そう、その魂は蛍の魂だ。何故、何も出来ないはずの魂がこの地へ縛る術式を弾けたのか? それは、蛍が剣を避けてから皇女様と話した時間があったことに理由が潜んでいた。




 蛍は知らない内に、初めての称号を手に入れていたのだ。

 魂になっても、その称号は魂に留まり続けていた。その称号とはーーーー




『狂戯の霊魂者』




 狂戯の霊魂者。誰にも縛られることもなく、自分の思うように動き、邪魔する者を拒絶する。それらの狂気は肉体や性格だけに留まらず、魂までにも刻まれている。

 それが、魂となっても術式を弾くほどの強さを持った称号であり、蛍の本質であった。


 その称号があったお陰で、皇女側が準備していた魂を地に縛り付ける術式を拒絶することが出来た。だが、転生の術式には敵意はないので、その効果は魂に浸透した。

 帝国領から離れて、天に上がった魂は、刻の定義がない魂だけの世界を廻り続ける。

 しばらくすると、電池が切れて動かなくなったように、魂が天から地へ落ちていく。何処かへ行くかは、魂だけになった蛍には考えることが出来ず、ただ引き寄せられるように天から地へーーーー


 それが、転生の瞬間であった…………






 ーーーーーーーーーーーーーーーー





 ん?

 何が……?

 動けない…………


 意識が覚醒したが、眼は瞑ったままで周りの音も聞こえず、身体も何かに挟まれているような感じで動かせなかった。

 だが、無理に動こうとしていたら、自分を挟んでいる柔らかい壁が吐き出すようにヌルヌルと動いていく。

 少しずつ、壁から這い出ていく気分を味わいながら…………


 もにゅもにゅ

 ぬるぬる~

 ペッ!


 と擬音を発しながら、自分を吐き出した。吐き出されたモノは、さっきまで最悪な場所から解放された空間へ移されたことに、様々な感覚が戻っていく。


 ここは…………っ!


 頭の中から…………ではなく、魂が記憶している今までの人生や皇女とのやり取りが頭の中へ入っていく。フラッシュバックされた記憶に酔ってしまいそうだったが、最後の記憶を思い出した自分は……………笑っていた。




 あ、あはは、あははははははははははっ!! マジで転生したよ!?




 転げ笑っていたが、自分の身体がおかしいと気付いた。それに、周りの景色も洞窟みたいに壁と広い通路しか見当たらなかった。

 まず、自分の手を見てみたら…………




 肉球があった。




 …はぃ? か、身体は!?


 まさかと思いつつ、自分の身体を見渡していく。硬そうな胸板、つるつるとした腹、手足が短くて肉球が付いている。

 肉球が付いた手で顔を調べていく。




 ぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷにぷに…………




 嘘だろ、人間じゃなくねぇ!? それに…………


 調べて、人間ではないのはわかった。それだけではなくーーーー




 ア◯ボになっているぅぅぅ!?




 元人間である蛍は、未知の洞窟のような場所で生まれ変わり、昔に流行った子犬のロボットに似た存在になっていたのだった…………









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