第1話 召喚
一体、蛍達に何が起こったのか? 少しの時間を遡る…………
蛍が学校へ向かい、教室で授業が始まっても机に寝そべっていた頃。毎日、変わらない日常に飽き飽きしていた蛍は学校へ行くことはただの義務となっていた。
何かしたいから来るのではなく、他にやることが無いから学校へ来ているだけだった。
クラスメイトと会話をすることもなく、そろそろ授業の終了を知らせるチャイムが鳴ろうとしていた時に…………
「え、何が……?」
クラスメイトの一人がそんなことを呟いでいた。床が変な模様と共に光っていたのだ。
皆もあり得ない現状に眼を見開くことしか出来ない中、蛍だけはあり得ない現状に面白そうな笑みを浮かべていた。
そして、眩しい光に包まれてーーーー
「初めまして、強きの魂を持つ者よ。『アスラデウス』にようこそ!!」
光が止んだと思えば、質素な部屋が眼に映った。その中心には、召喚されたクラスメイト達とたった一人の教師が座り込んでいて、もう一人は挨拶してきた女性が立っていた。
「本当に、皆が強きの魂を持っておられますわね。さらに、脆弱な肉体…………確かに、残されていた伝書に載っていた通りですねーーーー」
「い、一体、何が……?」
綺麗なドレスに、裾まで届く長いマントを着ている女性は皆の同様を余所に、召喚した人々を観察するような視線を向けていた。
クラスメイトの数人はこの状況を召喚されたと理解が追いついたが、目の前にいる女性の真意を図りかねていた。
召喚と言えば、定番の『あぁ、勇者様! どうか、魔王からお守りください!』と王女様からお願いされるのだが…………、目の前の女性はとてもじゃないが、頼み事をするような態度ではなかった。
ロクな説明をされずに、皆が混乱していて困っていたが、蛍だけは違った。皆は目の前にいる女性へ注視している時、蛍は床に描かれていた変な模様や周りにいる白いローブを着た人を観察していた。
変な模様は、魔法陣と言えばいいかな? 俺らを召喚した時点で間違いはないだろうな。
じゃあ、周りにいるのはこの魔法陣を動かした人ってわけか?
ーーまだ時間があれば、更に周りの観察を続けていたが、それは中断された。
クラスメイト達に向き合う女性がマントをはだかせて、腰に剣が掲げているのを蛍が見たことで、嫌な予感が背筋へ迸ったからだ。
蛍は咄嗟に皆の首よりも低く伏せていた。その判断が、皆と違う人生を歩むことを知らずに…………
「”斬空”ーー」
果たして、クラスメイトの中で女性が剣を抜いたことに気付いた者がいたかはわからないが…………
蛍以外のクラスメイトと教師は何も出来ずに、一振りだけでほぼ全員の首を斬り落とされた。
「ほぅ、可愛い顔をしてやるじゃないか」
「…………」
今のは運良く避けられたが、次は自分だけに目掛けてきたら避けられないとわかった。しかし、召喚をした人を殺す理由がわからなかった。
その疑問が顔に出ていたのか、女性はニッと笑みを浮かべて教えてくれた。
「その顔は、何故殺すのかわからない顔だね。いいわ、避けたご褒美に僅かだけ教えてあげるわ」
「皇女様……」
「大丈夫よ。どうせ、忘れることになるんだし」
忘れるだと……?
意味がわからず、眼を細めて剣を睨んでいた。振った後に、僅かだけ光の残り香が見えたのが気になったのだ。それに、一振りだけで皆をどうやって殺したのか?
皇女と呼ばれていた女性は斬空と呟いていたことに繋がりがあるのか?
「ふふっ、まずお友達を殺した方法も教えてあげるわね。私は『スキル』を使ったのよ」
「スキル……、アレか? 特殊な技や才能とかか?」
「あら、向こうの世界でもスキルがあったのかしら?」
でも、貴方からは煉気(れんき)を感じないよね…………と呟きながら少し考え込んだが、時間も限られているので、考えるのは後にすることにしたようだ。
「まぁ、いいわ。スキルを知っているなら、魔法もわかるわよね?」
「あぁ……」
「なら、話は早いわね。殺した理由はね、それに繋がっているのよ」
殺した理由が、魔法やスキルに関することだと言われてもまだ話が掴めない。
「貴方達、異世界から来た人達はその魂に可能性を秘められていて、それがスキルと魔法だと言う訳。此処まではいいね?」
つまり、自分達は強い魂を持っている故に強力なスキルや魔法を扱える可能性があるということだ。だからって、殺すと言う理由にならない。
だが、女性の話には続きがあって…………
「貴方達、異世界人は強い魂を持っているけど…………残念ながら、肉体にはスキルや魔法を使うために必要な原動力が備わってないのよ。その原動力はこちらでは、『煉気(れんき)』と『魔力』と呼んでいるわ。スキルを使うには、煉気。魔法は魔力というわけよ」
「成る程……」
だんだんとわかってきた。ここまでヒントを提示されては、馬鹿でもわかるだろう。何故、強い魂を持っている異世界人を呼び寄せたのに殺すのか。
蛍が思い付いた推測の中で、一つが頭の中に浮かび上がった。
「転生か……?」
「ーー正解よ。まさか、一発で当てるとは思っていなかったわ。そう、貴方達を殺すのは、この世界で転生させること。そして、この帝国内で生まれるように調整して…………いえ、そこまで話すことはないわね」
「俺等の魂をここの肉体、煉気や魔力が備えてる身体で産まれさせることで、お前らが言う帝国の強化ってとこか」
転生させることが出来ることに驚いた蛍だったが、今は女性の方が驚くことになる。
「…………頭が回るわね。もし、貴方の身体に気力と魔力があれば、側に置いておきたい逸材だわ…………しかし、残念だけど、死んだら記憶は消えてしまうから……。では、そろそろ死んで貰うわ」
「構わない。さっさとやれ」
蛍はどっしりと座り込んで、首を守るものはないというように、両腕を大きく開いて笑っていた。
可愛い顔をしているが、歪んだ笑みが台無しにしているぐらいに狂気が浮かんでいる。その態度に、また女性と周りの人は驚愕する。
普通の学生なら、死に恐怖して泣き叫びながら命乞いをするだろう。
「どうした? さっさとやって生まれ変わらせてくれよ?」
「っ、皇女様! この者から危険な匂いがします。この者だけ転生はーーーー」
「黙れ」
白いローブを着た男は、蛍から危険を感じて、転生させるのを止めた方がいいと進言しようとした。だが、皇女様と呼ばれた女性は低い声を発して、その者の首を斬り飛ばしていた。
「面白い。自己紹介をしてなかったな…………」
話しながら、首に目掛けて剣を振るう。
「私の名はーーーーティリア・ダ・カエサルだ。第二皇女をやっている。記憶に残せなくても、魂に刻めれば良かろう。では、転生した後にまた会おうーーーー」
蛍は死んだ。
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