第3話 Welcome to New House
俺が今回買う予定の住宅は公園からすぐの場所に有った。
こぢんまりとした平屋建ての一軒家。
独身者の俺にとっては贅沢すぎる程の家だが、たまたま新規の住居を探し始めた時にこの家の情報をネットで見つけ、俺はすぐに飛びついた。
幸いなことに金は有ったので、俺は購入前提で販売会社へ連絡をとった。
そこから数回の打ち合わせを経て今日の内覧と契約へとたどり着いた。
事前にネット経由での建物内部の確認はしていたが、契約前に実際に見ておく必要があると思ったからだ。
俺たちは小さな庭を抜けて玄関の前に立つ。
担当者さんが扉の施錠を解除し扉を開ける。
俺は思わず「お邪魔します」と一礼をして中へ入る。
「まだ誰の持ち物にもなっていないから、挨拶はいらないんじゃない?」
姫野さんが少し笑いながら話しかけてくる。
家へ着くまでに担当さんに聞いたところ、彼女は関連会社の社長の娘であり、「高校生なんだから社会経験が必要。」との彼女の父の一言で、インターンに行くことが決まり今日は担当さんの下で住宅販売について学ぶ事になったとのことだった。
「そうかもな。」
俺は姫野さんに曖昧に答えると住宅に入る。
新築の家には木材の匂いを感じる。
この家は内面については木材をふんだんに使った作りになっているという。
俺は靴を脱ぐと玄関から廊下へと上がる。
廊下の左側には扉が等間隔に三つある。
それぞれ奥からリビング、トイレ、書斎兼寝室へと繋がっている。
とりあえず俺は手前の書斎へと入ってみる。
書斎とは言えまだ入居前の部屋には特に何もなくだだっ広い部屋が広がっていた。
「随分広い部屋だよね、書斎机とベッドを入れてもまだ色々入るんじゃないかな?」
「そうだな。やろうと思えば健康器具とか入れても問題なさそうだ。」
「鳴滝さん、健康器具とか使うの?」
姫野さんが驚いた様に返す。
何か馬鹿にされたような気がしたが、その表情をみると本当に驚いているようだ。
「心外だなぁ、俺もそれなりには鍛えているんだぜ?」
おれは苦笑しつつも切り返す。
それに対し姫野さんは「すごい!」と心底関心したように呟いていた。
これは馬鹿にされているんじゃないよな?
とりあえず俺は気持ちを切り替え、床や壁周りを調べる。
たわみなどはなさそうだ。
一通り見た俺は、書斎を後にする。
次にトイレはなんか、女性二人がいる時に入ることをためらわれたので、リビングへ入ることにする。
リビングは台所と繋がっており、先程の書斎と同じくくらいに大きな空間が広がっている。
これなら4人用のテーブルとかを入れても問題ないだろう。
俺はそれなりに満足しながら部屋を歩いて回る。
しかし、二人の方を見ると、姫野さんが何か難しそうな顔をして立っている。
「どうした?」俺は姫野さんへ声をかける。
「うーん。ちょっと待て。」
なにか考え語としているのか姫野さんは上の空で生返事をする。
今のところ特に問題はなさそうな気がするのだが……。
「わたしが見る限りでは不自然なところは無いように見えますけど。」
担当さんもそう言いつつ何か考え事をしている。
「なんなだろう?」
俺もつられて考える、見て回ったのは書斎とリビング。
どちらもおかしなところは無さそうだった、
となると……!
「もしかして、トイレになにか問題があるのか?」
思いついた答えを俺はおもわず口にする。
「当たらずとも遠からずね。」
姫野さんが答える。
概ね正解だが、正確ではないってことだろうか?
俺が改めて考えるが、何がおかしいのか見当がつかない。
「鳴滝さんの推理は当たっているようなものだけど……。」
姫野さんが呟く。そしてその声は次第に大きくなってくる。
「おかしいのは廊下から見た時なのよ。」
「廊下?」何のことだろう。
俺は担当さんに視線を送る。
彼女もまた答えが分からないようだ。
俺は今考えられる要素を思い浮かべた。
平屋建ての一軒家
廊下から見た間取り
左側に等間隔で並んでいる扉
広い書斎
トイレに近い場所
書斎と同じぐらいの広さのリビング
ああ!!
唐突に閃いた俺は、慌ててトイレのドアを開いた。
そこはどこの家にでも有るような人が一人入れる程度の広さのトイレ。
それを確認した俺は姫野さんの方を振り向く。
彼女も同じ考えだったらしく笑顔で軽くうなずく。
「ここトイレのサイズに対してドアの間隔が広いですよね。」
ここに来て担当さんもその事実に気がついたらしく、慌てて手元の端末を操作する。
「でも、施工図ではそんな空間は無いですね?」
端末の画面に映し出された施工図を俺に見せつつ話す担当さん。
心なしか少し焦っているようにも見える。
そうなれば答えは一つ。
この家にはこの家には隠された部屋か何かが有るということだ。
「せっかく内覧まで開いていただいたのに申し訳ないのですが、契約は少し考えさせてください。」
さすがにそんな怪しげな家に住むことは俺でなくても気が引ける。
ただその怪しい空間が気になることも事実ではあった。
「二人ともまだお時間ありますよね。この怪しい空間について調べてみませんか?」
俺は彼女たちに提案した。
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