謎のオンボロ住宅

アほリ

謎のオンボロ住宅

 「本当にここなんですかぁ?」


 「そうですよ?!ここが貴方にお勧めの分譲中の住宅です。」


 裕二にとって初めてのマイホームである。

   

 裕二は弓子と結婚したはいいけれど、妻の弓子は極端な倹約家で結婚式は身内のみで実家で質素に。

 引き出物は全部でリサイクルショップで買い集めたもの。

 

 そして、初めての2人の新居は・・・


「なあ?何でこんな築60年前な超ボロボロの住宅にしたんだよ?!」 


 「だって!!駅に近いし、兎に角安い物件だからよ!!」


 「安いって程があるだろ?!」


 「だって!!こういう物件しかなかったんだもん!!」


 「君がよくケチってるからそう思うんでしょ?!長期ローン組めばもっといい物件が見つかるでしょ?!」  


 「ケチで悪かったわね!!私はどーせケチな女よ!!」


 突然、2人は夫婦喧嘩を始めた。


 「おふたりさん。聞いてますか?」


 付き添いのこの土地の不動産の人が、夫婦喧嘩に割って入ってきた。


 「あっ、」 「ついついすいません。」


 夫婦は不動産の人に平謝りした。


 「申し遅れました。私、狸山不動産の『凡太郎』です。宜しくお願いします。」 


 「あ、いやいや。こちらこそ。」


 小太りの不動産スタッフの凡太郎は軽く会釈した。


 「では、この住宅の内見ですね?さあ、お入り下さい。」  


 狸山不動産の凡太郎は、ガチャッと錆びた玄関のドアノブを回した。




 「あ。」 


 「タヌキ?」



 「ギクッ!!おい!たぬたろー!!何でて来るんだ?ああ、すいません。

 ボロ住宅なんで、よく隙間からタヌキが侵入してくるんですよ!!ハッハッハ!

 新居引っ越し日時までには、穴は塞ぎますから!!失礼しました!!」


 「・・・・・・?」「なんだったの?」


 「すいませんね。この物件は緑に囲まれてるから、ケモノが出没するのがよくあるんですよ?!

 ワイルドでしょ?!」


 狸山不動産のスタッフの凡太郎は、冷や汗をかいて呆然とする夫婦に説明した。


 「本当に大丈夫なの?この物件?」

  

 「大丈夫ですよ!?ここに来るケモノは人間には危害を加えないし、懐くどころかガン無視しますから。

 じゃあ、物件の中を今から見せますから。

 着いてきて下さい。」


 裕二と弓子の夫婦は、狸山不動産の凡太郎の後を言われるがままに着いていった。


 「あれ?」 


 「なあに?弓子?」 


 「こんなに廊下って長かったっけ?これ、こじんまとした一戸建てなのに。」


 「ははっ弓子、気のせいじゃないのけ?」


 「だって!!かれこれ10分位に廊下歩いているよ?」 

 

 「おふたりさん、居間に着きましたよ?」


 狸山不動産の凡太郎は夫婦を呼んだ。


 「どれどれ・・・な、なんだこりゃ!?」


 夫婦は、外観がボロ過ぎる一戸建て住宅とは思えない位に豪華絢爛な居間に目を疑った。


 「何これ?!最新型の大型8Kテレビがおる!!」


 「これ!ワインセラーがある!!」


 「フカフカのソファー!!オットマンまで付いてるし!!」


 裕二と弓子夫婦は至れり尽くせりな居間の設備に、感嘆してはしゃいだ。


 「この家はそれだけではないよ。今度はプライベートルームに行きましょう。」


 狸山不動産の凡太郎は夫婦を連れて、ブブブッと音がする部屋に行った。


 「なあに?!大きなベッドだ!!」


 裕二ら弓子は、思わずそのダブルベッドに飛び乗ってフカフカした感触に浸った。

 

 「うわーーー!!気持ちいいーーー!!」


 「これなら、仕事疲れも直ぐにとれそうだな。」


 「この特製ベッドで子づくりも思いのままだね?」


 「え?」「は?」


 「な、なんでもない。子供が産まれたら、子供部屋が欲しいですね。

 ありますよ!!子供部屋!!」


 更に狸山不動産の凡太郎は、夫婦を連れてブブブッと音がする子供部屋へ。


 「うわーー!!おもちゃがいっぱい!!」


 「滑り台もあるわよ!!」


 夫婦はまた感嘆の声をあげた。


 「どうでしょ?!気に入ったでしょ!?この物件!!じゃあ、今度はどんな部屋に行きましょうか?」


 「えっと・・・」



 「ぎゃぅ!!」「こぉん!!」「うにゃ!!」


 

 「不動産屋さん!!何か家の中でタヌキとキツネとネコの鳴き声が聞こえたんだけど?!」


 「き!気のせいでしょ?!」


 狸山不動産の凡太郎は、慌てて夫婦の目の前に割って入って言った。


 「それに・・・」


 裕二は、頬杖をついて辺りを見渡して冷や汗の凡太郎を横目で見詰めて問い詰めた。


 「部屋を見て回る度に、『ブブブッ』って音がするんですが、何処から音がでるんですか?

 それに、何か今さっき入った居間とプライベートルームの大きさが更に広くなってるのは、気のせいですか?」


 「ギクッ!!」


 「今、ギクッと言いましたよね。この家って!やけにケモノ臭いのとゴム臭いのは何でしょうか?!」


 裕二は徐ろに、バッグからブラシと針を取り出した。


 「な、何をしようとしてるんですか?」


 狸山不動産の凡太郎は慌てて裕二を羽交い締めにしようとしたが、裕二は居間の8Kテレビにブラシをコチョコチョとくすぐってみた。


 「コチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョコチョ!!」


 「ぎゃっ!!ぎぎゃぎゃ!!ぎゃははははは!!」


 突然、8Kテレビがユラユラ震えると、後ろからケモノの尻尾が出てきて変化が解けて、腹がくすぐられてジタバタと笑うタヌキが現れた。


 「やっぱりね!!俺等が化けタヌキに騙されてたって事・・・って!!

 そして、更に・・・」 


 「お客さん!!止めて下さい!!売り物の住宅に針なんか刺さないで下さい!!」 


 慌てた狸山不動産会社の凡太郎は、住宅の壁に針を突き立てる裕二を羽交い締めにした。


 「やだ。」


 裕二は、凡太郎の阻止を無視して怪しいこの住宅の壁に針をプスッと刺した。



 ぱぁーーーーーーーーん!!!!!



 ボロ住宅は、ドデカイパンク音と共に四散してしまった。


 「嗚呼・・・割っちゃった・・・」


 パンク音に腰を抜かした弓子は、中から出てきたタヌキやキツネやネコ達に呆然とした。


 「やっぱりね・・・この家の正体は、タヌキとキツネとノネコが妖術で共同で人間を騙す為にこさえたんだ。

 豪華な設備はキツネやタヌキが其々化けた物。

 そして、この家自体は妖気を纏った巨大なゴム風船を妖術が使えるキツネやタヌキやノネコの獣海戦術で、息を吹き込んだり空気入れで膨らませたイミテーションだったって事だ!」


 裕二は、得意げに精魂尽き果てて倒れ込んだタヌキやキツネやノネコ達を座り込んで見詰めながら言った。


 「って事は、私達はタヌキさん達に化かされたって事?!」 

 弓子は、不動産会社の営業マンに化けてた妖術が解けて、タヌキに戻った凡太郎を抱きかかえて顔を押し付けてトーンを下げた口調でこう告げた。


 「私達のマイホーム代、返して欲しいんだけど・・・」ピキッ!ピキッ!ピキッ!ピキッ! 



 ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ・・・

 






〜謎のオンボロ住宅〜


〜fin〜

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謎のオンボロ住宅 アほリ @ahori1970

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