契約率100%物件

MURASAKI

第1話 ペット可物件の契約事情

「わあ、思っていた通り素敵な部屋ですね」


 私がそう言うと、不動産屋は嬉しそうに頷いて誇らしげにアピールポイントを並べ立てた。


「そうでしょう、この価格でペット可物件はなかなか出ませんよ。フローリング少な目で、ワンちゃんの足に負担がかかりにくい絨毯貼りのお部屋は珍しいですよ。退去時に必ず全面張替えしますので綺麗ですよ」


「犬を下ろしてもいいですか?」


 不動産屋は少し眉をひそめたが、次の瞬間笑顔を見せて、いいですよと快諾した。


「ほらミル、歩いてごらん?」


 犬のミルはリードをしていなかったので、あっという間に部屋の奥の方へ走って行った。

 私は不動産屋と一緒に他のスペースを見て回る。風呂トイレ別、独立したキッチン、八帖ほどのリビングダイニングに四畳半の小さな寝室スペース。

 ひとり暮らしには十分すぎるほどの良い部屋だった。


「この部屋が他の部屋より安いのは、一階だからですか?」


 少し疑問に思って不動産屋に確認してみると、明らかに目が泳いでいる。


「もしかして事故物件なんですか?」


「そんなわけはありません! 瑕疵物件なら報告義務がございます。この物件にそのようなものはございません。ただ……」


「何かあるんですね?」


 ごくりと息を飲む私を引き連れて、不動産屋はミルが走り去った方向へ私を誘った。そこには……


「ミル?」


 なんと、ミルは奥の部屋の押し入れの中で粗相をしていたのだ。しかも大きい方。


「ペット連れの方にはこのお部屋をご案内するのですが、連れているペットさんがあの場所で必ず粗相をするのです。それで……」


「高くていいので別の部屋で契約します」


「皆様そう仰います。今なら三階が空き室ですね。間取りはこのお部屋と全く同じですのでご安心ください」


 ペットが粗相をしてしまった罪悪感と、あんな変な場所に他の家のペットが粗相をしているかと思うと気持ちが悪く、他の部屋でと即決してしまった。


 ペットを連れた内見にはお気を付けくださいね。

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