多分不動産屋自体は普通に外れ

「それでは、今日は一度お帰りになるということでよろしいですか?」


「……は?」


気付くと、元の不動産屋の、元のカウンターに座っていた。


「……えっと、その……」


事務所の時計(少し悪趣味な、文字盤の読みづらいオシャレ系アナログ時計)を見る。

現在時刻は13時を少し過ぎるくらいだった。


「もう少し見ていかれるということであればご一緒しますが。こちらの物件などはここから徒歩3分もかからないので、今から内見ということも可能ですが……」


「いっ!いや、内見は!内見はいいです!」


……何が起こったのかわからないが、私はあの部屋から無事に出られたようだった。

もし、内見ボタンではなく五億年ボタン(メインの方)を押していたらと思うと……

……いや、内見ボタンって何???


「……?」


さっきから一人で考え込んでいる私を見て、田中さんが不思議そうな顔をしている。

当然、赤いボタンの付いた、白い箱は抱えていなかった。

名札には、「田中 菓子花(たなか かしか)」と書かれていた。

……意外とニアピンだったのか。


「いえ。一度持ち帰らせていただいて、考えがまとまったらまた来ます。今日はありがとうございました」


そう言って、私は不動産屋を後にしようとした。


「あ、はい。ありがとうございましたー。そちらの資料は持って行っていただいて構いませんので。またのご利用お待ちしてまーす!」


田中さん(真)が、人懐っこい笑みで手を振ってくれた。


そのとき。


「キャン!!!!キャン!!!キャン!!!!!」


鼓膜を破かんばかりの、大きな大きなチワワの鳴き声が聞こえた。


「あっこら社長!お客さんが来てるときに鳴いちゃ駄目って言ったでしょう!!社長もちゃんと社長の面倒見といてくださいよ!!」


あーごめんごめん、という声が遠くに聞こえ。

田中さん(真)がその犬を窘め、抱き上げた。

抱き上げられたその犬の首輪には、『命名:社長』と書かれていて。


「う……ぉっぷ」

「キャン!キャン!!キャン!!ヘッヘッヘッ!」


みるみるうちに体調が悪くなっていった。吐きそうだ。

これは、『社長』に対するトラウマ、とかではなく。

これは……

これは……


「毒チワワじゃねーか!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」


ばたーん!!!!!!


私の意識はそこで一旦途切れた。

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五億年ボタンの内見 過言 @kana_gon

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