こんなに雑なタイトル回収あるかよ 意外と探せばある
はっと気が付くと、あたりは真っ黒な空間だった。
真っ暗ではなく真っ黒。
光源はないが、物ははっきり見えるようだ。爪めっちゃ伸びてた、あとで切らないと。
床も天井も、どこまでも黒く塗りつぶされている。壁は、少なくとも見える範囲にはない。
見回しても何もない。
……そんなことなかった。
「それでは案内、始めていきますね」
「……よろしくお願いします」
半人半毒チワワこと田中 物件貸貸(たなか ぶっけんかしかし)が、真っ黒い部屋の中に立っていた。
「まず今立っているこちらが、五億年ボタンのメインルームになります。幻覚で遊んだり、幻覚を食べたり、幻覚と話したりできます」
「……えっと、できないですけど」
「すみません、こちら、入居500年目からのオプションとなっておりまして」
「極限状態に置かれた人間の防衛機制をオプションとか言うなよ」
「まあそうですね、500年経つまではただの馬鹿広い部屋ですね」
寝る、くらいしかすることがない。
黒い床に寝そべり、眼を瞑る。
……
……
15分ほど寝そべっていたが、寝られない。
「あ、五億年ボタンの中って寝られないんですよ」
「物件として致命的過ぎるって」
いや、一応知ってはいたが。
そこまで忠実に再現するなら、部屋出る奴の記憶消してあげろよ。
社長を毒チワワにしちゃって『機能つけ忘れてました~』で済むか?
一番大事だって絶対。
「そろそろ次の部屋に行きましょうか」
「次の部屋とかあるんですか?」
「ありますよそりゃあ。付いてきてください」
田中さんが空中に手を伸ばすと、がちゃりとドアノブを捻る音がして、ようやくそこがこの部屋の壁だったことに気付いた。
壁も真っ黒だから全然わからない。
開いたドアをくぐって田中さんの後を追う。
「ここが寝室です」
「いらなーーーーー!!」
いらな。
「いらないです」
「次行きましょう次」
がちゃり。
次の部屋には、壁一面にびっしりと、数式が刻まれていた。
それと、黒一色でまとめられた、モダンなキッチンセットが置かれている。
数式のお陰で、他の部屋よりは壁と床との境界が分かりやすい。
「あの数式みたいなのなんですか?」
「ああ、あれは、社長が蒙(もう)を啓(ひら)いちゃって、真理を追究するときに書いてた式ですね。この部屋だけは備品があるので、多分包丁かなんかを使ってで壁に傷をつけて書いたんだと思います」
「社長さん……」
真理を追究してたら毒チワワになっちゃったのか。
「確か2000年目ぐらいだったと思いますね。数式に限らず、色んなことが書いてありますよ。見てくださいよ、こことか」
「?」
田中さんが座って指差した場所には、『だしてくれ』と書かれていた。
「ウケますね」
「ウケないでください」
「いや、でもその隣も見てくださいよ」
田中さんが指差した場所には、『わんわわわん』と書かれていた。
「ウケますね」
「……ウケるかも」
流石に。
「ほとんど毒チワワになった後も、この部屋には来てたんでしょうね、多分」
「ほとんど毒チワワになったってなんだよ」
「お客さんも、なってみればわかりますよ」
「それ営業トークのつもりですか?」
ホラーの殺し文句だろ。
「じゃあそろそろ次の部屋、行きましょうか。あんまりこの部屋にずっと居ると数式を理解しちゃうかもしれないんで」
田中さんが立ち上がり、スーツの埃を払って言った。
五億年ボタンの中にも埃はあるんだなあ。
「理解したら何かまずいんですか?」
「ちょっと毒チワワります」
「毒チワワる」
「語尾にわんが付きます」
「かわい~」
実際に一生そうなると言われると空恐ろしいが。
「あれ?じゃあ田中さんはなんで普通に喋れてるんですか?」
「私は耐性があるので」
「出たよ耐性。今度こそ納得いく説明してくれないとここを動かないですよ、私は」
動かなくて困るのは私の方だが。
「別にいいですけど。そんなに面白い話でもないですよ」
「あなたは存在が面白いのでどんな話でもいいです」
「そうですか」
満更でもなさそうだ。なんでだ。
「私、幼少期からそういう訓練を受けてたんですよ。あらゆる語尾で一定期間喋ることで、その語尾に対する耐性を付けるっていう」
「雷の念能力者とか毒の美食屋みたいな事してる~!!」
面白すぎるって。
「なので、その訓練の中で使った語尾に関してはひととおり耐性があるって感じですね」
「例えば?」
「わんとかにゃとか、ザマスとかザウルスとか」
「ザウルスかあ」
と、ここで、警告されたにも関わらず壁の文字をずっと眺めていた私は、面白い物を見つけた。
「ちょっとこれ見てください内見よ」
「ぷ。なんですかそれ内見。……!?なッ……」
読み通り!
「くっくっく。この部屋には毒チワワになる真理のほかに、『住宅の内見』の化け物、内見モンスターになる真理も書かれていたんで内見!!」
「な……
大仰に叫ぶ私に合わせるように(張り合うように?)、田中さんはこれ以上ないくらいの驚愕の表情で叫んだ。
壁には、『五億年ボタンの内見』という文字列が書かれていた。
「じゃ、次の部屋行く内見よ。次は和室内見」
「あ、はい。ちょっと待つ内見」
これ、現実に戻った時どうしよう内見。
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