あるはずのものがない
藤 ゆみ子
第1話 あるはずのものがない
「あの、ここって電気のスイッチないんですか?」
新築物件の内見に来て洗面所に入った時に違和感を覚えた。
先程、間取り違いの隣の部屋を内見した時には確かにあったものが、この部屋にはなかった。
キッチンの後ろにある洗面所の引き戸を左側に開けてすぐ右側の壁にあった電気のスイッチがない。トイレの電気はセンサーだと言うので洗面所もセンサーなのかと一瞬思ったが、先程の部屋にはちゃんとスイッチがあったのだからこちらの部屋だけ洗面所もセンサーなんてことはないだろう。
内見に同行している不動産会社のお兄さんに聞いてみる。
「あれ? 本当ですね。あれ?」
洗面所の中を一通り見渡すが、風呂の電気はあるが洗面所のスイッチはどこにもない。
「えっと……欠陥住宅……じゃないですよね?」
あまり指摘したくなかったが聞かずにはいられなかった。
「いや、そういう訳ではないですよ。私も建築には携わってないのでなんとも言えないですが、スイッチは電気の穴にカバーを被せるだけなんで」
不動産会社のお兄さんはそう言いながら一般的にスイッチがあるであろう場所の壁を人差し指でコンコンと叩いていく。
ーーコンコン、コンコン、コンコン、ボコッ
「「あっ」」
「……」
「あー。ちゃんと穴、ありましたね。たぶん壁紙貼ってここ切り取るの忘れてたんだと思います」
「はぁ。そうなんですか」
「一応、完成はしてるんですけど最終点検はまだなんですよ。ここの壁紙切り取って、スイッチ付けたら問題はありませんので」
「はぁ。そうですか」
「引き渡しまでにはちゃんと点検もし終わってるので大丈夫ですよ」
問題ない、大丈夫、と言われても全然大丈夫と思えないのが住む側の人間である。他にも気付いていないだけで何か欠陥がないだろうかと不安になるのが当たり前だろう。
「もう一つ間取り違いの部屋もあるんですけど、そちらも見て行かれますか?」
「あー。もう大丈夫です。もっと駅から近い所も探してみたいんで」
あるはずのものがない 藤 ゆみ子 @ban77
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