Epilogue - ライブは終わり、そして

「じゃあ最後の曲、いくよ!」


 デビュー前最後の、咲月さつきのライブ。未デビューのアーティストにしてはかなり大きいライブ会場は、収容人数いっぱいの観客で埋め尽くされていた。


 期待の大型新人、咲月。

 もう次元の違う世界に行ってしまった幼なじみを見て、我が身を振り返る。


 本当は、来るつもりなんてなかった。今更咲月に会いに行ったって、虚しいだけだと分かっていたから。


 だけどある日唐突に、このライブのチケットが家に届いた。

 チケットの隅に見覚えのある筆跡で書かれた、『都合が合えば来てほしい』の文字。


 それらを見て俺は、咲月に会いたいと、ライブに行きたいと思ってしまったのだった。


 舞台上の咲月は、かつてないほどに輝いていた。随分前に見せた空虚さなどどこにもない。おそらく音楽ここが、咲月の居場所だったのだろう。咲月はどこまでも咲月で、自分を貫き通していた。


 やったな、咲月。

 そう思いを込めて、舞台の上の咲月を見つめる。咲月は、曲の山場であるギターソロを、満面の笑みで弾いていた。


 いよいよ、ライブの終わりが見えてくる。


 と、その時、ふいに咲月と目があった。活気みなぎる瞳に、じっと見つめられる。

 目線を通じて、咲月の想いが伝わってきた。


――りょう、ありがとう。諒のおかげでここまで頑張れた。だから、諒も頑張れ!


 脳内に響いた声を聞き、思わず笑みがこぼれる。こんなの自己満足に過ぎないし、咲月が本当にそう思っていたかなんて分かるはずがないのに。


 不思議と俺は、自分の胸に飛び込んできたこの言葉が正しいと確信していた。


 だって、見えないくらいに掠れたって、俺と咲月の関係は存在しているのだから。


――言われなくとも、そのつもりだよ


 俺は目線でそう返すと、くるりと踵を返し、舞台に背を向け歩き出す。


 曲が終わる。会場に、溢れんばかりの拍手が響き渡った。

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はじける青をこの目で見据えた 夜野十字 @hoshikuzu_writer

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