第五話:更に深くへ

 そこは正しくダンジョンだった。



「って、有り得んでしょっ!? ここまで廊下一本なのに、何この伝説になりそうな道のりは!?」


 僕は盛大に何処へとなく突っこんでいた。

 だって、ここに来るまでにどれだけ大変だったか。


 1280号室辺りの絡んでくる住人なんて生易しい方だった。


 2000号室辺りに自動掃除機ロボットの残骸が散らばっていたので、ヤバそうだと思ったら案の定、が出た。


 ゴブリンと言うゲームに出てきそうな奴だった。


 最弱の部類の魔物なので、前田さんが簡単に殲滅せんめつしたけど、倒した後に宝箱が出てきてそれを開けると十円玉が十枚、つまり百円分のお金が入っていた。

 ここで宝物を見つけると、捜索隊の所有物になるという事なのでありがたくもらっておく。

  

 これなら魔物が出ても良いかなと思っていたら、回復する為に2200号室に泊まる事となった。

 一晩二千円、パーティーだと一人千円まで割引が効く。

 それはそれで有難いのだけど、2200号室に入ってみたら、中が完全に宿だった。

 一階は食事が出来る酒場で二階が各々が止まる部屋だ。

 そして何故か他の冒険者っぽい人たちもいる。



「よう、前田じゃないか? 今回も最深部か??」


「ああ、そうだ。オーナーからの正式な依頼だからな」


「そいつは豪気だな! 今確認されているのは3900号室だ」


「ほう、100室も進んだか! それでオーナーへの報告は?」


「まだだな、出来ればも少し深く潜りたいらしいからな」



 前田さんの知り合いらしい人との会話を聞いて僕は思い切り突っ込みたくなる。

 3900号室。

 更に奥深くまであるんかーいぃっ!


「まあ、3000号室辺りでは最近ドラゴンが出たって話だから、お前も気を付けるこったな」



「なにっ!? ドラゴンが出ただと!!」



 前田さんが珍しく驚いている。

 と言うか、アパートの廊下にドラゴンが出るの!?

 ここ、永谷さんの築三年のアパートだよね!?



「情報に感謝する。これは礼だ」


 そう言って前田さんは鞄からプッチンプリンを取り出す。


「おおっ! お前、なんてもんもってるんだよ!! ご馳走ちそうじゃんか!」


 その知り合いの人は大喜びでそれを受け取る。

 いや、近所のスーパーで特価百八円(税別)じゃん。

 僕もたまにおやつとして買うけどさ、美味しいから。


 その知り合いの人はたいそう嬉しそうにしている。

 ここ本当にアパートの中なの?



「よし、ここで十分に英気を養ってから、更に奥へ進むぞ!」


 しかし前田さんのその言葉に僕を除く佐藤さんも福田さんも頷くのだった。



 * * * * *



 なんて言っていたのがなつかしい。


 翌日からまた奥深くへと探索が始まったのだけど、途中、専門学校や短大、大学を卒業していつの間にか部屋を引き払っていた住人がいたりして、その都度部屋の確認をしながら進む。

 いなくなった部屋の取っ手には「退室済み」と掲げられているので、マッピングに記しておく。

 

 これって、大家の永谷さん把握してるのかな?


 そんなこんなで奥へ進むのだけど、当然途中で魔物や一癖も二癖もひとくせもふたくせもある住人の妨害も入り、探索速度は奥へ行けば行くほど遅くなる。


 だが、そんな事を繰り返していると、2800号室辺りでは完全に僕の感覚は狂い始めていた。



「よし、罠の解除に成功だ」


 佐藤さんが隠し扉の向こうにあった宝箱の罠を解除し終える。

 たまにこう言った壁に隠し部屋とかがあって、運が良いとお宝が眠っている。


「どれ、おおっ! これは使える。ヘラクレスの盾じゃないか! これならドラゴンのブレスにも耐えられる!!」


 前田さんはそう言って防具の装備をする。

 なんかも浮かび上がって、防御力が上がっているのを確認する。

 ちなみに、僕もステータス画面とかが出せるという事に気がついて、いまでは重宝しまくりだ。


「他のお宝とかアイテムは新人君に持っていてもらおう。回復薬や毒消しなんかもあるからな」


「あ、はい。じゃあお預かりします」


 僕も慣れたものでそれらのアイテムを背負い鞄にしまって行く。

 そして隠し部屋を出ると……



「逃げろ! ドラゴンが出たぞ!!」



 慌てて駆けて行く他の人たちと遭遇そうぐうする。

 なんか耳が長い人や、樽のような体形で髭面の人も混じっている。

 どう見ても日本人っぽくない。



「新人君は下がって! 佐藤、行くぞ!! 福田は防御魔法!!」


 前田さんはそう言ってあの装備したての盾をかかげると、目の前の廊下を真っ赤にして炎が迫る。

 思わず僕は悲鳴を上げる。



で炎を吐くなぁッ!!」




 っと。 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る