第四話:そこに住まうモノ

「何が出てきたんですか!?」


 思わず僕は前田さんたちにそう叫んでしまった。

 だって怖いじゃん。

 しかし前田さんはさっと手を横にして僕を制する。


「落ち着け、新人君。ここは人の住まう領域だ」


「いや、人の住まわない領域あるんですか!?」


 思わず聞き返してしまった。

 でも確かに3800号室辺りには魔物が出るって言ってたし……



「げへへへへ、こんな所まで外部の人間が来るだなんて、久しぶりだな。どうだい兄ちゃんたち、一勝負して行かないかい?」


 うっそうとした姿の住人はそう言って、ぱちんと指を鳴らすと、他の部屋からも何人か同じような人たちが出てきた。


「ぐへへへへ、ここを通りたければ俺たちを倒していきな」


「でなければそうだな、通行料をもらおうか?」


 彼らはそう言ってゴトゴトとコタツの様な物を引っ張り出す。



「ここは私が相手をします」


 そう言って声をあげたのは何と福田さんだった!


「ちょ、いくら何でも女性に任せるだなんて!」


「大丈夫だ、彼女は我々の中で一番強い」


「ああ、俺なんてすぐに身ぐるみはがされてしまうからな……」


 前田さんも佐藤さんもそう言って福田さんを見る。

 福田さんは軽くウィンクして、彼らの用意したそこへ立ち向かう。


 そして!



「ふむ、では嬢ちゃんが相手と言う事で良いな? さてと、親は俺からだな」


「ええ、行くわよ!」



 じゃらじゃらじゃら~



「はい、それカン!」


「いきなり飛ばすな嬢ちゃん」


「それポン!」


「なにっ!?」


「ドラが乗って来たぞ……」


 なんと彼らが用意したのは麻雀だった!

 そして福田さんは鳴きを続ける。



「……あの、勝負って麻雀ですか?」


「ああ、この辺は学校へも行かずに麻雀三昧の住人が住み着いている。彼らは並みの雀士じゃんしでは歯が立たない強者つわものばかりだ!」


「え? じゃ、じゃあ福田さんは身ぐるみはがされちゃうんですか!? いや、それなんのご褒美!?」


 福田さんが身ぐるみはがされる。

 ただでさえ美人でスタイルの良い彼女があられもない姿になるとしたら、僕はドキドキしてしまう。 


 が、雰囲気が違う?



「なんだと!? またカンだとぉっ!?」


「こ、この女、正気か!?」


「しかしまたドラが乗ったぞ!?」



「ツモっ!」



「「「な、なんだとぉっ!?」」」



  福田さんはツモって、清一色ちんいつドラドラと言ういきなりあり得ないはいを引き当てた!

 

「あれが彼女の怖い所だ。『きの戦姫せんき』とは彼女の事だよ」


「ああ、彼女を相手にはみんな背中がすけてしまうのだろうな……」


 前田さんや佐藤さんはそう言ってごくりと唾をのむ。

 相手の住人たちはそれでも点棒てんぼうを福田さんに差し出しながら言う。



「まあ、ビギナーズラックだろう。勝負はこれからだ」


「そうだな、少々手加減が過ぎた。ここからは本気で行くぞ!」


「ああ、女だと思って優しくしてやればつけあがりおって!!」



 そう言いなが続きが始まるのだった。



 * * *


「ごめんなさい、せめて服だけは返してぇーっ!」


「もう二度とあなた様の前には現れませんのでご慈悲をっ!」


「もう嫌だぁっ! 麻雀怖いぃぃいいいぃっ!」



 半局が終わる前にみんな箱点はこてんになっていた。

 完全に福田さんの一人勝ち。


「まあ、汚い服をもらっても仕方ないから服だけは返してあげるわ」


 そう言ってパンツ一丁になっている住民たちに福田さんは服を投げ与える。

 彼らはそれを持って、そそくさと部屋へ逃げかえって行った。


「さ、それじゃぁ次行きましょうか?」


 にこやかにそう言う福田さんに僕は「女は分かんねぇ~」と本気で思う。

 そして僕たちは更に奥へと進むのだった。


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