第三話:奥深くへ
僕は自分の住むアパートの奥深くにいる、住民たちの確認の探索隊へ参加するアルバイトをする事になった。
「いやぁ、流石に若いもんに手伝ってもらわんと、この年になると厳しいんでな」
大家さんで、今回の依頼主でもある永谷さんだ。
そして今回探索に参加するアルバイトは全部で四人。
屈強な体つきの前衛を任される前田さん、物腰静かだけど、何となく鋭さが際立つ補佐の佐藤さん、紅一点で、かなり美人な回復やサポートメインの福田さん、そして雑用メインの僕だった。
たかがアパートの奥深くに行くというのに四人も探索隊を編成するだなんてと、僕は首をかしげる。
「君は始めてだったね? 隊長の前田君の言う事を聞いて頼むよ。今回は確認されている3800号室からだね」
「3800号室?」
いやいやいや、いくら奥が深いからと言って1280号室辺りで終わりとばかり思っていた。
家賃一万二千円の1280号室より更に奥があり、しかも確認されているのが3800号室?
「あ、あの、このアパートって一体何号室まであるんですか?」
「それが分からないからこうして探索してもらうんだよ。お家賃はみんな律儀に銀行振込してくれるからいいのだけど、廊下の掃除に出て行った自動掃除機も帰ってこないからねぇ。出来ればそれ等も回収してきてもらえると助かるよ」
大家の永谷さんは、ははははと笑っているけど、自分のアパートがどれだけ広いか分かってないって、何っ!?
「さて新人君、そろそろ出発だ」
隊長の前田さんはそう言ってみんなを連れて歩き出す。
他の人も慣れた様子で、鞄を背負って歩き出した。
僕は色々と突っ込みたいのを我慢して前田さんに付いて行くのだった。
* * *
「ここが家賃一万二千円の1280号室か……」
301号室から更に奥深く、廊下の蛍光灯があるから周りはしっかりと見えている。
しかし1280号室まで来ると何と言うか、少し息苦しく感じる。
「リーダー、新人君が深層酔いのようね? 少し休憩を入れましょう」
回復やサポートメインの紅一点、福田さんがそう言って前田さんの足を止める。
僕はほっとしてその場でしゃがむ。
「はぁ~、ホントこのアパートってどうなっているんですかね?」
「そうか、君は始めてだったんだね? このアパート『メゾン永谷』は正しくダンジョンなんだよ」
「ダンジョンって、いやいやいや、ここアパートですよね?」
いくら東京ってところが田舎に比べて色々あるとは言え、ダンジョンはないだろう?
そんな事を思いながら乾いた笑いをしていると、佐藤さんも福田さんも真面目な顔で頷いている。
僕は恐る恐る前田さんに聞く。
「マジで?」
「マジでだ。まあ、まだこのくらいの深さなら問題はないがな。3000号室辺りからは住人以外にも魔物が出るから要注意だ」
そう言って腰にぶら下げている剣を叩く。
今更ながら他の人たちもよくよく見ると普通の恰好じゃなかった。
前田さんはどう見ても戦士か何かのような格好をしている。
佐藤さんは、忍者と言うか何と言うか、軽装なんだけど所々肩パッドや小手なんかつけている。
福田さんもよくよく見ると西洋の神官のような格好をしていた。
いやいやいや、RPGのゲームじゃないんだから……
「ってぇ、よくよく見れば大家さんに渡された僕の服装もなんかそれっぽい!?」
作業着だよとか言われて渡された服装は、何と言うかゲームなんかで出て来る荷物持ちのキャラクターそっくりだった。
そして背負っている背負い鞄も僕のだけ何故かやたらとデカい!
「さて、そろそろ行くか?」
「待ってくれリーダー、出たぞ!」
佐藤さんのその言葉にみんな緊張が走る。
そしてその先を見れば、1285号室辺りから何かがぞろりと出て来るのだった。
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