第3話 男目線

 女がドラマを観ている。どこにでもある安っぽい恋愛ドラマだ。

 俺は女に気付かれないように、ソファの後ろに隠れながらそれを観ていた。


 普通霊感のある者なら、俺がこの距離にいるだけですぐに気付く。

 気付かないということは、女に霊感がないということだ。

 でも万が一ということもある。

 せっかく若い女がここに来てくれたのに、イージーミスでバレるのだけは避けなくてはならない。


 やがてドラマを観終わると、女は風呂に入るために服を脱ぎ始めた。

 俺はすぐさまテーブルの下に移動し、その姿を覗こうとすると、なぜか女がこちらに向かってきた。


 俺は慌ててその場を離れ、クローゼットの中へ逃げ込んで、中から様子を見ると、女は薄笑いを浮かべながら、そのまま浴室に入っていった。


 風呂から出た後、女はバスタオルを身に纏い、ドライヤーで髪を乾かせ始めた。

 俺はさっきのこともあって、やや不安だったが、再びテーブルの下に隠れながら観ていると、今度は女がこっちに来ることはなかった。


 その後、先回りしてベッドの下で待っていると、程なくして女は寝室に入り、すぐに電気を消した。

 しばらく待って寝息が聞こえてきたら、寝顔でも拝んでやろうと思っていると、女が何やら歌い始めた。


「ぐっ、ぐっ、ぐぐぐのぐー。朝は──」


 ていうか、お前、俺に気付いてるだろ。

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