第23話 辻十番
辰次は博奕で全財産をスった。
金もない、行く先もない、となれば帰るしかない。
散々な1日だったと、
「なんだありゃ?」
急に辰次が立ち止まり、朱鷺も足を止めた。
「どうかされましたか?」
「向こうに
『編笠』は
「今、雨は降っていませんよね?」
本日の天気は気持ちのいいくらいの晴れである。
この青天の下、編笠をかぶる男は目立っていた。
さらに男の格好も周囲の目をひいていた。
「なんだ、あの野郎の派手な羽織は?」
男の羽織は、何色も混じりあう奇抜なものだった。
この見た目だけで人々の視線を集めている編笠男。
だが、彼はもっと注目を集める行動をしていた。
「
編笠男は声を張りあげ、道ゆく人々へ大判の紙を配っていた。
男の声は
「天下の
周囲に聴衆が集まり始め、編笠男は勢いづいたように
「今月の演目は、あの大人気
編笠男がおもむろに編笠をとった。
聴衆の女達がいっせいに色めきだつ。
陽のもとにあらわになった編笠男の顔は、華やかな美形であったのだ。
その麗しい顔に彼は甘い笑みを浮かべながら
「月も
月の形もぼんやりとし
夜、白魚(小魚)の漁をするためにつけている火の
この春の空の下では、かすむようにぼうっとしているなぁ
そんな情景がおもい浮かぶ一節が、男の豊かな声量で響きわたった。
これに聴衆たちはすっかりと聞き惚れていた。
「……とまあ、こんな具合です。どうでしたか?」
編笠男は聴衆たちを演劇のひと幕から、現実へと引き戻した。
「この
編笠男は聴衆の女たちへと微笑みかけていた。
彼女たちは、編笠男にすっかり魅入られているようだった。
「お待ちしてますからね?」
聴衆たちは、とくに女たちが編笠男へ辻十番を求めて群がった。
辰次は、その様子を離れた場所でながめている。
「なんだ、
見飽きたものを見る目つきの辰次に、めくら娘が小首をかしげる。
「お知り合いですか?」
「まぁな」
ようやく女たちがいなくなったのをみて、辰次は編笠男へ近づいた。
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