7 水上の家

 ヴェルトルートが湖の多い国だというのは、ここまでの道のりでおわかりだと思います。知られているだけで大きな地底湖が十六箇所。それぞれ、神話の神々にちなんだ名前が付けられています。


 今から見せてもらうのは、湖爵こしゃくという貴族の館です。この国の爵位の中ではもっとも位が低いのですが、代々湖の守り人をつとめている古い家柄ばかりです。あ、さっきの家は花爵かしゃく家ですね。伝統にのっとって、護衛魔術師業のかたわら王宮の花園の管理もしていると聞きます。


 さて、湖爵家はこの国に十六家。どの家も、それぞれの湖の上に半分せり出すように建てられています。邸宅というよりは、ちょっとした神殿のような意匠ですね。湖爵家のかたがたも、どことなく神職っぽい服を着て、どことなく浮世離れした雰囲気をもっていることが多いです。


 内装もほら、あちこちに用途不明の布が垂らされていて、なかなか神殿っぽいですね。ただ、どれも「どことなく」なんですよ。どこの宗派の何、というのがはっきりしなくて。信仰が伝統と化して長いからでしょうかね。


 で、お見せしたかったのはこの水晶床です。透明度の高い人工水晶が使われていて、湖の中を見ることができます。澄みきった湖水が美しいですね。ここは「色彩の湖」なので、今は青色ですが、夕暮れ時になると鮮やかな茜色に染まって綺麗なんですよ。どんな湖面も空の色を映すものですが、ここのは一味違います。それこそ神がかり的な何かを感じるくらい水底まで綺麗な色をしていますから……ええ、ここで少しゆっくりさせてもらいましょうか。今晩は泊めていただけるようですよ。宿代が浮いて良かったですね?


 ここも使用人になれば住めるのかって? いえ、湖爵家はやはり神職の色が濃いのか、使用人は雇わないみたいですね。朝から家と湖周りを清めて、釣りをして魚を捌いて、という生活を送っているようです。だからここは見るだけですよ、見るだけ。あなただって楽しんでいるくせに。

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