6 湖畔の豪邸
次にご紹介するのは、貴族の豪邸です。そんなの買えるわけないだろうって? ばかですね、使用人になれば住めるじゃないですか。家事全般、は不得意そうだな。執務はできませんよね。庭師……のセンスもなさそうだ。うーむ……。
まあいいでしょう。見るだけです見るだけ。ほら、あれですよ。あの、巨大な石筍が十本くらいくっついてひとかたまりになってるやつ。
地底洞窟の国ですからね。よほどあなたがぼうっとしていたのでなければ、あちこちに大きな鍾乳石がぶら下がっているのを見てきたと思います。その中に住んでしまおうというのが、このヴェルトルート独自かつ伝統的な建築様式「石筍型尖塔建築」です。
ただ見ての通り、この岩の塊をくり抜くには石を積み上げたり木を組んだりするのとは段違いの手間と資金がかかります。特にこのくらい大きくて背の高い塔だと、魔術がかりの大規模な工事になりますから、自分の塔を建てようというのはなかなか難しいですね。
ここのご当主は、王宮付きの魔術師です。近衛騎士、という言い方ではなかった気がしますが、王家のかたがたのそばについて守るお仕事をしています。ほら、あの人ですよ。ものすごく顔が怖いですが、顔だけなので大丈夫です。中身は無口で案外繊細なおじさんですよ。
さっそく中へ入れてもらいましょうか。築三百年以上ですが、
そして石筍なので、玄関は常にびしょびしょです。なので入ってすぐのところには吸水性のいい分厚い玄関マットが敷かれています。ここでよく靴を拭いて入りましょう。
玄関ホールは広いですが、ほら、面白いでしょう。自然物ですから普通の屋敷のように左右対称に作るわけにもゆかず、あっちこっちに階段やら扉やら不規則についています。貴族様のお屋敷というよりは、蟻塚の中身みたいですよね。
え? なに? 当主の眉間の皺が深くなった? ああ、失礼……いや、彼も「確かに蟻塚と似ている」と言ってますよ。見慣れてるから気づいてなかったんですかね。
まあ大体、中身はこんな感じです。どこの部屋もこれと同じ色の石で作られていて、まあ部屋によってちょっと灰色の石が混ざっているところがあったり、鍾乳石らしい年輪模様が見えたりと、内装に関しては石の表情の変化を楽しむくらいですかね。
もう少し時間がありますから、あとはこの蟻塚を探検して過ごしましょう。一度やってみたかったんですよね。上の方の部屋からは、隣の湖が一望できるそうですよ。さ、行きましょう!
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