5 魔法学校の寮

 大図書館はいかがでしたか。なるほど、あそこに住みたいと。すみっこの暗がりのところにクッションとランタンを持ち込んで。はいはい、そうですか。


 それなら、次に向かう場所はお気に召すかもしれませんよ。何を隠そう、スルシュルース魔術大学の寮です。スルシュルースで「叡智の城」という意味ですね。年齢制限はありませんが、基本的に通えるのは十代後半くらいからですかね。試験が難しいのもありますが、あまり幼いうちから魔術師界隈にどっぷりつかると社会で生きていけなくなりますので、学力的に優秀でも親が許さないことが多いようです。


 見学の許可をいただいてきましたから、中へ入ってみましょう。ああ、彼は一応ついてきてくれるだけの事務員です。案内はできません。彼にも、誰にも。


 問われる前に解説しましょう。この建物を外から見た時、ずいぶん変な形だと思いませんでしたか? 茶色い木造の巨大建築。珍しいですが、そこまではいいとして、なんだかあっちこっち飛び出したりへこんだり、変な隙間が開いていたりしているなあと。


 それこそが、この学校のイカれたところです。ルオノという、変、斬新な建築を作ることで有名な建築家が設計しておりまして、風が吹くと変形します。言葉のままです。パズルのようにガチャガチャ構造が組み変わるのです。中はどうなっているのかって、そりゃあ当然内部も動いていますよ。風が吹くたびに教室の位置が移動するので、五年生でも校内の地図を覚えていません。


 今から見に行くのは、そんな学校の寮です。かつては西側に立派な学生寮があったそうなのですが、現在は一部屋ずつ散り散りになって学校中に散らばっています。ちょっとそこのあなた、お部屋を見せてもらえませんか? あ、今どこにあるかわからない。ならご自分の部屋を発見したかたは? ああ、いらっしゃいました。行ってみましょう。


 深緑に塗られた素敵な木の扉を開けると、中は落ち着いていて上品な内装です。深緑の絨毯とカーテン、ベージュの漆喰が塗られた壁、マホガニー色の二段ベッドに、同じ色の机と大きな本棚。ああ、ちゃんと本棚は作り付けになっていますね。地震は少ない土地ですが、なにせ部屋が動き回るので、背の高い家具は固定されているそうです。


 どの部屋も二人部屋なんですか? ああ、なるほど。一人一部屋使えるだけの部屋数は十分あるはずだが、毎日欠かさず自分の部屋を発見できるとは限らないので、すべての部屋が二人以上泊まれるように作られていると。どうしても自室が見つからなかった場合は――よくあることですが――友人の部屋に転がり込むようですね。うん、そして次の日にはその友人の部屋も行方不明になると。


 どうです、楽しそうでしょう。試験は難しいですが、ここを受験して見るというのはいかがですか? 大丈夫です、魔力がなくても魔石から魔力を取り出して扱う技術を身につければ、試験でも授業でも不利になることはありません。街で買おうとするとなかなか高価な魔石充填サービスも、ここの学生なら全部無料です。国立ですから学費も格安。おすすめですよ。なに、遠慮しとく? どうしてです、いい部屋でしょう。毎日部屋を探すのがめんどくさい。わがままですねえ……そんなんじゃいつまでたっても住みたい家なんて見つかりませんよ。

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