4 大草原のゥレン
気を取り直して、大草原へ行ってみましょうか。いえ、ちゃんと家はありますよ。
このくらい国境から離れれば、人工天の青色がはっきりと見えてきますね。あなたはこのヴェルトルートという国がなぜ「根源の国」と呼ばれているか知っていますか? かつて瘴気が世界を覆い、地上が滅んだ時代。人類はこの地底の大穴に逃げ込むしかありませんでした。光もない、ろくな植物も生えていない岩と水ばかりの洞窟に少しずつ土を種を運び、暗い岩天井に魔術で偽物の空を作って、人々は暗黒の時代を耐え抜き、ふたたび地上の世界を取り戻した。
つまり、現人類の再出発の地としてここは『
そのなかでも、南の大陸の国ヴォーガリンにルーツを持つ遊牧民の一族が暮らしているのが、この大草原です。地上からの風が吹き込むこの場所は、奥の方と比べて草が育ちやすく、その草を食べる馬と羊を育てながら暮らしています。
家はほら、大きなテントのようなものが見えるでしょう。あれですよ。こうして遠目に見るだけでも、青緑の染め布が美しいですね。馬車を置いて、もう少し近くへ行ってみましょう。ああ、馬は連れて行くといいですよ。
この大きな布張りの家を「ゥレン」と言います。語源は、南の大陸で使われているオーリェン語の「家」という単語ですね。内側には軽くて丈夫な木材の骨組みが入っています。最近は軽量金属のもあるみたいですね。テントと同じで、移動時はこれを解体して馬に積んで持ち運びます。馬に乗って狩りをし、羊の毛で織物を作ります。このゥレンの布も彼らの作品ですね。わかりますか、近くでよく見るとこの布、構造色になっているでしょう。秘伝の織物なのだそうで、深い青緑色の奥に光の加減でゆらゆらと翡翠色が見え隠れするのが、大変美しいですね。もちろん、色はこれだけじゃありません。内装や服飾も素晴らしいので、見せてもらいましょう。
入り口は布が垂れているだけですが、これがなかなか断熱性が高く、風を通しません。中にはほら、煮炊きのできる場所があります。暖炉とストーブを足して割ったような見かけですが、安定した気候ゆえに暖房器具としてはほとんど使われていませんね。
寝床は寝台ではなく、大きなクッションと布で作られています。様々な織模様の布が重なり合って、これだけでひとつの芸術のようですね。ここの家族は、内装を赤や茶色の暖色で揃えているようです。布を透かして入ってくる光が青緑ですから、寒々しくならないようにという配慮でしょうか。
こうして、様々な布地を組み合わせて居心地の良さを演出するのが、このルェン族のやり方です。織模様や糸の色にはそれぞれ古いまじないの意味があって、それを組み合わせることで服や寝具に守りの力を持たせる、といったこともされているようです。赤い糸は守護、茶色の糸は健康、といった具合に。そのあたり詳しく知りたければ、あとで図書館に寄ってみましょうか。その近くにお見せしたい部屋もあることですし。ああ、この家には一族の誰かと結婚するか養子縁組するかしないと住めませんよ。諦めてください。
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