3 エリューセンの半木造一戸建て
馬車は諦めたようですし、次は近くの村に行ってみましょうか。イエルの住宅街も見てみたい? ダメとは言いませんが、おすすめはしませんね。景観維持に対する意識が高すぎて、屋根の色どころか玄関先に植える花の色にまで気を遣う。あなた、突然思いつきでとんでもない色の植木鉢とか買ってしまうタイプでしょう。やめておきなさい、ご近所と揉めますよ。
その点、森を挟んで隣のエリューセンならそんな心配はいりません。壁だろうがなんだろうが、好きな色の家に住めばよろしい。徒歩だと少しかかりますから、小型の馬車を借りて行きましょう。ええ、御せますとも馬車くらい。それが何か?
ほら、見えてきましたよ。赤っぽい石造りの、こぢんまりとした家が多いですね。このあたりの岩盤は赤っぽいと言いましたでしょう。だから空の街の石畳はね、わざわざ白い石材が採掘できる地域から切り出してきてるんですよ。このへんで普通に家を作ればこんな感じになります。
美意識高い国境の観光地であるイエルとは対照的に、こちらの村はおおらかな田舎といった雰囲気です。養蜂がさかんで、ここの蜂蜜菓子、特にレース編みのような飴細工は王家御用達だそうですよ。買って行きましょうか、あなたの奢りで。
口の中でほろりと溶けて香り高い黄金の飴に、素朴な木製のカップでお茶をいただきながら馬車に揺られる。実に贅沢な時間ですね。はい、降りてください。ちょっと森へ入りますよ。
東の森に、面白い家があるんです。住んでいるのはエルフの血を引くかたで……ほら、あれです。よく見て。ちょっと変な形の木があるでしょう。
建てられたのは、もうかなり前ですよ。それこそ、こうして石造りの家を大樹が覆ってしまうくらい。沼エルフの乙女と結婚した人間の魔術師が建てた家で、はじめは家の真ん中を樹木が貫通しているような意匠だったそうです。で、その木が藤の木の仲間だったものだから、年月が経つうちにこう、あちこち侵食して、どこまでが家でどこからが木なのかわからないような不思議な家になったそうです。中を見せてもらいましょうか。ああ、大丈夫です。純粋なエルフが住んでいたのはもう四代前、だったでしょうか? 今の住人は人間の気質に近いかたなので、住まいを訪れても弓で射られたりはしません。ほら、水の賢者様のお孫さんですよ。ご存知ない?
さて、玄関は……どこでしょうね。あ、これかな? 見事な花のアーチです。奥へ行くにつれ、石壁……の崩れたものが見えてきました。うん、ちょっと、生活スペースは……どこでしょうね。あ、あれが寝床かな。毛布をくしゃくしゃに丸めた……鳥の巣のような……ええと、意外と隙間風はないようですね。枝と梢の層が分厚いからでしょう。うん、馬車に戻りましょうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。