第19話 近づきたい

「さて、今日もハヤトロクの時間だ」


 隼人は自室で、ようようとノートを開いた。色んなことが起こっているので、書くことはたくさんあった。

 

「マリヤとルカが、すれ違いの末、悲劇が起きてしまったことをハヤトが知る、というところまできたな……なんとかハッピーエンドにしなくちゃ」


 ひとしきり、せっせとペンを走らせていたが、隼人の手が止まる。

 もう何度目かになる消しゴムをかけた。


「タイチのことが書けないなあ」


 龍堂くんならこうじゃないかな、とかこれは龍堂くんぽくないかな、とか、そういうことを考えてしまい、手が止まってしまうのだ。

 今までは楽しく想像して書けたのに。

 こんなことは初めてだった。

 とりあえず、急用でタイチが国に一度帰ることにしてお茶を濁すことにした。


「やっぱり話したいな……」


 ノートの上に、頬を突っ伏して、隼人はため息をついた。

 今まで小説が書けないなんてこと、なかったのに。これは非常事態だ。それでいて、あんまり悲壮感がない。

 龍堂ともっと話したい。小説のためじゃなくて、ただ話したかった。それも非常事態だった。


「ま、考えても仕方ないよね。勇者ユーヤたちの仲も、落ち着いたし」


 明日は音楽の授業がある。そう思うと、緊張とわくわくで胸が一杯になる。


「頑張るぞ!」


 そこで、マリヤさんからメッセージがきた。


『隼人くん』

『今電話していい?』


 マリヤさんから連絡がくることも、もう珍しくなかった。


「阿部さん、どうしたの?」


 明日の準備をしながら、隼人はマリヤさんに連絡する。すぐに繋がり、マリヤさんの「あのね、」とくもった声が聞こえる。

 隼人は「うん」と、ベッドに座って、聴く体勢を整えたのだった。


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