第17話 仲良くなりたい

「ユーヤ、はよ」

「ん……」


 マリヤさんが隼人に声をかけてきた翌日。ユーヤはオージと二人、遅刻ぎりぎりで登校してきた。

 ユーヤはどこか熱っぽく、目もとが泣きはらしたように赤くなっていた。


「大丈夫かよ」

「きのー早退しちゃうし」


 ケンとマオが、気遣わしげに声をかけた。あれからユーヤとオージは、出ていったっきり、教室に帰ってこなかったのだ。

 マオの問いに、ユーヤは顔を赤くした。その変化に、ケンとマオが、不思議そうに顔を見合わせた。その時、オージが、ユーヤの肩を抱いた。


「っあ!」

「悪い。こいつ、熱あるから」


 オージが庇う。ユーヤは、きっとオージを睨んだ。


「オージ!」

「じっとしてろ」

「うう……」


 有無を言わせない、でもどこか甘い調子の声に、ユーヤはくやしげに顔をゆがめ――こてりとオージに身を委ねた。

 その様子に、マオは「あは」と笑う。


「どーしたの。何か今日、ユーヤ甘々二割増しじゃん?」

「――そんなんじゃねーよっ!」


 ユーヤがいきなり怒鳴った。マオたちが息を飲むのも聞かず、足音荒く自分の席へ向かう。うなじまで真っ赤に染まっていた。マオは、「あれ」とばつが悪そうにケンとヒロイさんを見た。


「なんか俺、へんなこと言った?」

「さあ……」


 オージが三人を気にせず、ユーヤのもとへ向かう。そんなオージに、マリヤさんが駆け寄った。


「オージくん、おはよう。ユーヤくん、大丈夫だった?」

「ああ」

「よかった。ノート、取ってあるから、また二人に見せるね」

「ああ。ありがとう」


 オージは、マリヤさんの方を見ず、答えた。代わりに、一度だけ、マリヤさんの頭をぽんと撫でた。マリヤさんは、さっと頬を赤らめてはにかみ笑った。


 ガターン! 大きな音がした。ユーヤが、隼人の机を蹴り飛ばしたのだ。お腹に、机がダイブし隼人はうめいた。


「くそが」


 ユーヤは一瞥もくれず、扉へ向かった。


「ユーヤ」

「保健室っ」


 オージの呼びかけにぞんざいに返すと、ユーヤは教室を出ていった。


「なんだ」

「ユーヤ、どうしちゃったの?」


 皆がぽかんとする中、隼人はひとり、お腹を抱えていた。


 マリヤさんが初めての相談に来たのは、その日の午後のことだった。


「隼人くん、ID教えて」


 スマホかえちゃったから、と隼人とラインのIDを交換した。それから、マリヤさんは相談したいときにメッセージを送ってくるようになったのだ。


 そして、今日で一週間。マリヤさんは中学の時よりずっと思いつめているようで、相談はほぼ毎日だった。友人関係や勉強のことなど、多岐にわたったが、マリヤさんの相談は主に恋の悩みだった。


 もっと好きになってほしい。もっと、仲良くなりたい。


 マリヤさんの言葉を思い返し、隼人は教室の扉を見る。さっき、龍堂が去っていった扉だ。


「わかる気がする」


 龍堂とは、さっきみたいに、あいさつを交わすようになった。「おはよう」や「さよなら」を言うと龍堂は、「おう」と返してくれる。そうすると、隼人は一日をよく始め、よく締めくくることができるのだ。

 なのに。


「もっと仲良くなりたいなあ」


 隼人はうんとのびをする。小説を書いてるころより、ずっと進歩してるし、胸もいっぱいなのに。

 さよならのあとは、もっと話したいなと思うようになってきた。


「マリヤさんが欲張りなら、俺も欲張りなんだなあ」


 もっとも、恋と友情じゃ、勝手が違うかもしれないけれど。


「音楽の授業が待ち遠しいな」


 先週は、龍堂が休みだった。「どうしたの?」と聞いたら「野暮用」とのことだった。

 隼人は鞄を背負い、教室を出たのだった。


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