第14話 龍堂くんは優しい
驚きである。
隼人はベンチに、龍堂と二人並んで腰かけながら弁当を、頬張っていた。龍堂は、ジャスミンティーのボトルを片手に弄び、向こうを向いている。
やっぱりライオンみたいだな、隼人は思う。さっきまで笑ってたのに。今も機嫌は悪くなさそうだけど。
じっと見ていると、ばちりと目があった。
しばし見つめ合う。
「何?」
「ご飯食べないの?」
「もう食った」
そう言うと、視線を投げる。その先に、空のバウムクーヘンの包装があった。隼人は思わず声を上げた。
「昨日の」
「見てたのか?」
「あっ、ごめん。つい」
「いいよ」
思いの外、ゆったりと交わされる会話のキャッチボールに、隼人は戸惑いつつも嬉しくなってきた。
龍堂くんって思いの外、話すんだな。
気さくというのだろうか。それでいて、ライオンみたいに堂々としている。
格好いいな。隼人はくすぐったくなった。お茶を飲もうと、鞄を開ける。そこで見つけた紙袋に、「あっ」と動きを止めた。
どうしよう。
隼人は考える。俺はハヤトじゃないぞ、自分を戒める。
わかってる。でも。
隼人は意を決して、紙袋を取り出した。
「龍堂くん、これ!」
ずい、と龍堂に差し出す。龍堂は、不思議そうに隼人を見る。隼人は頬が熱くなるのを感じながら、言葉を続ける。
「昨日のお礼のお菓子。助けてくれて、本当にありがとう」
ぺこ、と頭を下げた。
龍堂は、すこし目を見開いて、ベンチの背もたれに頬杖をついた。その口元が、ほんの少し笑んだ気がした。
「律儀だな、中条」
今度は隼人が、目を見開いた。
「俺の名前、知ってるの?」
「知ってるよ。ジャンが、いつも呼ぶんだから」
「そっか……」
隼人は頭をかいて、照れ笑いを浮かべた。ジャン先生はいつも、隼人に目をかけてくれる(と隼人は思っている)が、より感謝した。
龍堂が、頬杖をついたまま、逆の方の手で、紙袋を受け取った。隼人は「やったあ」と心のなかで叫んだ。顔が、自然とにこにこと笑えてくる。
龍堂がせんべいをとりだす。「あっ」と隼人は叫んだ。鞄を投げられたせいか、せんべいが割れてしまっていた。
龍堂は気にした様子もなく、袋を開けると一枚取り出した。そして、袋の口を、隼人の方に向けた。
「一枚やるよ」
「いいの?」
「いいよ」
隼人は一枚、せんべいを取り出した。龍堂は、前に向き直ると、せんべいを食べだした。隼人もならって、せんべいをかじった。いつもより、風味が甘く感じた。
予鈴がなった。
ほくほくと隼人は廊下を歩いていた。隣には龍堂が歩いている。
何だか流れで帰りも一緒になっている。行く先はほぼ同じなのだから当たり前だが、嬉しかった。
E組に入る前、隼人は思わず、「あの」と龍堂に声をかけた。龍堂は肩ごしに振り返る。
「またね」
言いたいことはたくさんあった。けど、これが一番言いたいことだった。
龍堂はしばし、隼人の目を見つめる。そして去っていった。それだけで十分だった。
「やさしいなあ」
格好よくて、堂々として、優しいんだ。
じんわり、さっきまでの時間を思い返し胸があたたかくなる。
頑張ろう。隼人は教室に、意気を込め戻っていった。
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