第11話 ユーヤとオージ
「は〜っ、大したパンなかった!」
そのとき、パンを抱えたユーヤが教室に入ってきた。残念そうに肩を落として見せる。ケンとマオは、「おせーよユーヤ」「寝てるからでしょ〜」と笑った。ユーヤはそれに、「うっせ」と笑うと、自分の席に向かってあるきだす。そしてちょうど延長線上にいる、隼人をノールックで蹴り上げた。
「ジャマ」
肩を蹴り上げられ、隼人は仰向けに倒れ込む。痛みと衝撃に息が詰まった。ユーヤは冷めた瞳で、席についた。
これには、クラス中が静まり返った。ケンとマオが、戸惑ったように「ユーヤ」と声をかけた。ユーヤはそれにさえどこか知らぬ顔で、「さー食おっ」と手を合わせた。
「どうしたんだよ?」
「何が? はぁ〜チョココロネ食いたかったあ〜」
ケンの問いかけに、きょとん、と問い返す。頬杖をつくと、チョコクロワッサンをつまらなそうにぷらぷらさせた。
「馬鹿なマネするな」
静かな、それでいて迫力のある声が、ユーヤに向けられる。オージだった。さっきまで我関せずで、マリヤさんとお弁当を食べていたが、ユーヤに思うところがあったらしい。
ユーヤは、ぷいっと顔を背ける。わかりやすい無視だった。それに、オージの目が鋭くなる。
「ユーヤ」
「っせぇなあ。テメーには関係ねーだろ」
低い声に、ユーヤのざらついた声が被さる。明らかに苛立っているとわかる声に、周囲が息を呑む。しかしオージは怯まず、かえって怒気を強めた。
「もう一回言ってみろ」
ユーヤの目に、一瞬怯えが走る。それから、羞恥と怒りに顔を赤くした。もう引けないと見たか、机にクロワッサンを叩きつけると、さらに声を張り上げた。
「何度でも言ってやるっ! 俺が何しようが、オージには関係ないっ!」
そうして、ユーヤは席を立ち、教室を出ていこうとした。
「っあ!」
そこで、倒れ込んでいた隼人に足を取られる。ガタン! と大きな音が立つ。隼人は間一髪、押しつぶされるのを避けた。
「ジャマだってんだろ! ボケェーッ!」
起き上がりながら、隼人を掴むと、教壇から転げ落とした。隼人は丸まったことで、幸い受け身を取った。
「ユーヤ!」
ケンの声も虚しく、ユーヤは教室を走り去っていった。
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