第8話 俺は悪役令息で彼の友達

「はあ〜……」


 隼人は、自室で鼻を冷やしながら、ため息をついた。


「かっこよかったなあ」


 今日の龍堂を思い返す。顔がニコニコと笑むのを止められなかった。

 あれから、男たちは警備室に連れて行かれ、事態はすみやかに終息を迎えた。


「ありがとう、龍堂くん」


 隼人は龍堂にお礼を言った。龍堂は隼人をちらりと見やると、目で頷き、去っていった。

 あまりにもかっこいいだろう。

 うーんと隼人は唸る。男ならやっぱりああなりたい! 男の中の男だ。


「決めた! 今年は龍堂くんの話を書こう!」


 自分は、龍堂の友達で、ライバルで、お互いを高め合う仲、どうだろうか?


「いい感じ! 龍堂くんは、王子様っていうか、王子! って感じだな……なら、俺は龍堂くんと釣り合う感じで……」


 今日の龍堂の勇姿を思い返す。かっこよく月歌を助けてくれた龍堂。小説では、ぜひとも二人で姉を助けたい。

 ノートをばたばたと開きながら、考える。その時、ぽんとこの間のアニメのシーンが思い浮かぶ。


「そうだ! 悪役令嬢っていうやつにしよう! お姉ちゃんが悪役令嬢で、王子様に婚約破棄されちゃうんだ!」


 そしてそれを、別の王子の龍堂と、月歌の弟の自分が助けるのだ。


「よーし!」


 隼人はペンを走らせた。


「悪役令嬢、ルカ・ナカジョー! 君との婚約を破棄するっ!」


 ウエスト王国の王子、オージ・フジタカが叫んだ。

 ルカはかれんな顔を悲しげにうつむかせた。


「君がマリヤをいじめたこと、私は生涯許さない!」


 オージの隣では、マリヤ・アベが泣いていた。オージは、マリヤをルカがいじめたと思って、ルカを責めているのだ。

 しかしソレは誤解だった。ルカは無実で、マリヤとは悲しいすれ違いがあったのだ。ルカは無実を訴えたかった。けど、それは出来なかった。

 疑われた悲しみで胸がいっぱいだったからだ。

 だからそのまま、城を後にしたのだ。



「うっ……お姉ちゃん、ごめん……今すぐ俺と龍堂くんが助けるからね!」


 涙ぐみながら、せっせとペンを走らせる。婚約破棄する王子様をオージにしたのは、見た目のイメージがぴったりなのと、ちょっぴりの私怨だった。


「俺は悪役令嬢の弟なんだから、悪役だよね……なるほど、悪役令息っていうのか!」


 スマホで調べ、紹介に付け足した。


「悪役令息かあ。ダークヒーローみたいでかっこいいかも! きっと頭がよくて、美形で、ちょっと人と違うものが見えてるんだ」


 自分への設定を爆盛にしつつ、隼人は父の「今は皆が主人公になれるんだ」との言葉を浮かべていた。「うん」と隼人は頷いた。


「今年の俺は、悪役令息だ! そして、別の国の王子の龍堂くんと友達になるんだ!」


 今日まで単発のキャラクターになりきっていたが、ここでようやく一年書き通せそうなキャラクターができた。今日から一年間、自分はダークヒーローとなるのだ!


「俺は、お姉様の無念を晴らしたい。その為に、君の力が必要だ」


 ハヤトは、タイチを見つめた。その目にはしずかに炎が燃えている。

 タイチは何も言わなかった。ただ、強い目でうなずくのみ。

 それだけで二人は通じ合った。

 そうして、ハヤトとタイチの深謀遠慮のたくらみの日々が始まったのだ。



「かっこいい!」 


 隼人は感嘆の声を上げた。ダークヒーロー、楽しいじゃないか。夢中になって書いていた。手も真っ黒だ。そろそろ寝なくちゃいけない。


「龍堂くんと本当に友達になりたいな」


 それは無意識の呟きだった。それは、隼人にとって少し意外の願いであった。


「話しかけてみようかな。今日のお礼も言いたいし」


 そうしよう。隼人は鼻歌まじりに、ベッドにもぐりこんだ。


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